施設紹介

#20森戸整形外科医院

http://kameoka-ishikai.jp/kensaku/196.html
京都府亀岡市千代川町小川2丁目2-16

院長森戸 俊典先生

「整形内科」としてトータルマネジメントを行う

当院は1974年に整形外科医だった父が開業しました。その後、父より2000年に引き継ぎ、今年で24年になります。整形外科・リウマチ科・リハビリテーション科・皮膚科を掲げていますが、地域に単科の専門医院が少ないこともあり、通院患者さんが連れてこられたお孫さんも診療するなど、できる範囲で何でも診る「かかりつけ医」の役割を担ってきました。勤務医時代に15年間で7つの病院をまわり、三次救急や肢体不自由児施設も含めて多様な経験を積んだことが、今の診療に繋がっているように思います。現在、当院では市の特定健康診査も請け負っていることから、その結果によって高血圧や脂質異常症などの内科疾患の治療を行うこともあります。また、整形外科疾患で通院されている患者さんの内科疾患を一緒に診ることもあり、今は整形外科というよりも「整形内科」といえるかもしれません。高尿酸血症・痛風の患者さんは、高血圧・脂質異常症や糖尿病の初期段階であるなど、他の疾患を合併しているケースが多く、「整形内科」として、痛風患者さんに対しても痛みをとるだけでなく臓器保護を見据えたトータルマネジメントを行うことを大切にしています。

早期に治療を開始し、初期はしっかりタイトコントロール

現在は月間約900名の患者さんを診療しており、そのうち高尿酸血症・痛風の患者さんは約200名です。90%以上が痛風を発症したことによる受診ですが、高尿酸血症もリウマチと同様に早期診断・早期治療、Treat to Target(目標達成に向けた治療)が重要だと思っています。この場合のTargetとは、重大な合併症を起こさず、長期にわたって生活の質(QOL)を保つことです。痛風発作を何度も繰り返したり、慢性腎臓病(CKD)や心血管疾患(CVD)になってから尿酸降下薬の投与を考えるのではなく、痛風を「高尿酸血症を治療しないといけないよ」という警鐘だととらえ、しっかりコントロールしていくことが重要だと考えています。個人的な実感ですが、これまで数百人の痛風患者さんの関節をエコーでみてきて、早く治療を開始すれば、正常に近い状態までリフレッシュできるという印象をもっています。逆にいえば、尿酸塩結晶がたくさん溜まれば溜まるほど正常の状態に戻すのにはかなり時間がかかりますし、戻すことは難しいかもしれません。だからこそ、早めに治療を開始する必要性を患者さんに理解してもらい、血清尿酸値をコントロールしていくことが大切なのです。

痛風患者さんの場合、血清尿酸値6.0mg/dL以下を目指してコントロールする必要がありますが、当院では特に初期にはより低めにタイトコントロールしています。その理由は、血清尿酸値の変動の大きさにあります。過去に毎日、痛風患者さんの血液検査を行い尿酸降下薬投与中の血清尿酸値の推移をみたことがありますが、毎日規則正しく薬を服用し食生活を節制していても1mg/dL程度は容易に変動し、また食べすぎやアルコール多飲、脱水などで2mg/dL上がることもありました。より低い値に抑えておくと、なんらかの要因で1~2mg/dL上がったとしてもどんなときにも極力6.0mg/dLを超えない状態が維持され、また絶対に7.0mg/dLを超えない状態を保つことも可能になり、これが重要だと考えています。そうすることにより蓄積した尿酸塩結晶を早く縮小、消失することができます。

血清尿酸値が上がった理由を患者さんに考えてもらう

生活指導の際、食事や飲酒について「あれはダメ、これはダメ」と制限されるのは嫌なものです。当院では、診察時に毎回、血圧と体重を測定するほか、血液検査・尿検査を投薬開始2年間は2ヵ月ごとに、それ以降は3~4ヵ月ごとに行っており、エコーも6ヵ月ごとに実施しています。この検査結果をお伝えする際に、血清尿酸値が高いときにはその理由を考えて言語化してもらうようにしています。「何か思いあたることはありますか?」と尋ねると、「実はここ3日ほど服薬ができていませんでした」「昨日は飲みすぎてしまって……」といった原因をお話しくださいます。このように何がよくないのかをご本人に理解してもらうことが、行動変容に繋がると考えています。体重についても同様に、増えたときにはその原因を考えてもらいます。禁止事項を伝える指導ではなく、「これをやりすぎたらよくないな」という自覚を本人にもってもらうのです。高い理想を説くよりも、その人ができることを1つでもやっていただくことのほうが有効であるように感じています。

脱水も血清尿酸値が上がる大きな原因です。当院で522例の痛風患者さんを対象に、痛風発作を発症した月を調べると、5月が最も多く、次いで7月、6月、8月に多いことがわかりました。5月に多いのは、急に暑くなり、脱水状態になっているにもかかわらず、身体の暑熱順化ができていないことから、あまり喉が渇いたと感じず、水分がとれていないことが要因になっていると思われます。5月は同様に偽痛風も多く、脱水が引き金になっているケースが散見されます。水分摂取について、「多めに水分をとる必要がある」という意識をもってもらうことが重要ですが、1年を通して常に意識して水分をとるというのは難しいため、「食事のときにもう1杯お茶を飲みましょう」とお伝えしています。

エコーを活用してぜひトータルマネジメントを

痛風の有病率は右肩上がりに増加しており、さらに高尿酸血症の患者数は痛風患者の約10倍ともいわれています。患者数が多い一方で治療介入が行われておらず、見逃されている患者さんが多いのもこの疾患の特徴といえます。進展して合併症が増えてしまってからではなく、早くから介入すれば健康寿命の延伸に寄与できます。地域のクリニックは気軽に受診できるところが特徴ですから、整形外科クリニックの先生方にはぜひ、痛風で来院された患者さんのトータルマネジメントに取り組んでいただきたいと思います。特に近年、若手の先生方はエコーを聴診器代わりに使用し、すぐにエコーを当てて診察されています。痛風患者さんの患部にエコーを当てると尿酸塩結晶の蓄積が観察できますし、パワードプラ法を用いると、滑膜炎による異常血流が赤く燃え上がっているように見えます。エコーを用いて「見える化」することで患者さんのドロップアウトは大きく減りました。医療者にとっても、エコーで見えた尿酸塩結晶をどうすれば減らせるかを試行錯誤し、実際にその減少を目で見ることができるというのは面白いものだと思います。

高齢化の進む地域の課題に向き合い、地域住民から頼られるクリニックに

当院のある京都府亀岡市の人口は、2023年12月時点で86,816人です。一時期は10万人に迫った人口も減少を続け、高齢化率は2020年時点で30.1%と全国平均の28.0%よりも高くなっています。超高齢社会を迎えた当地域では、骨折予防も地域の重要な課題となっており、痛風と同様に骨粗鬆症を早期にすくい上げ、治療介入を行う必要があります。当院では、閉経前後で膝痛や腰痛を訴えて来院された患者さんには骨密度を測定し、骨粗鬆症にあたる方には積極的に治療開始をおすすめしています。特に女性は100歳を超える人も増えていますから、老後をいかに楽しく、世話を受けずに生きていけるかを考えたときに、骨粗鬆症の治療を継続することには大きな意義があります。同じ背景から、サルコペニアをいかに防止するかも重要な課題です。当院ではリハビリテーション室に簡単な運動療法や自主トレーニングが行える設備を揃えており、スタッフも常駐していますので、サルコペニア予防にも引き続き取り組んでいきたいと考えています。また、リウマチ専門医として引き続き早期発見・早期治療に注力するとともに、地域の野球肘検診に協力するなど小中学生のスポーツ障害の早期発見にも尽力していくつもりです。今後とも地域に根ざしたクリニックとして、子どもから高齢者までできる範囲で幅広く診療し、地域住民の方に「近くにあってよかった」といっていただけるクリニックでありたいと思います。