#19医療法人社団 顕鐘会 神戸百年記念病院
https://www.kobe-century-mh.or.jp
兵庫県神戸市兵庫区御崎町1-9-1
副院長/総合診療科 部長安田 考志先生
地域とともに刻んだ100年の歴史、総合診療でさらなる貢献を
当院は、従業員の診療にあたっていた鐘淵紡績兵庫工場付属診療所に始まり、1947年6月には一般地域住民に開放して地域社会への医療奉仕を開始し、開院100周年を迎えた2007年8月に「神戸百年記念病院」に名称変更されました。兵庫区、長田区を中心に、須磨区、垂水区、西区など神戸市西部の救急患者さんを含めた診療を行う199床の総合病院で、臨床研修病院にも指定されています。
「地域になくてはならない病院になる」を理念として掲げて以降、まずは救急医療の強化に取り組んだこともあり、救急患者さんの搬送数は着実に増え、おそらく今年度は4,000件前後と神戸市内でもトップクラスだと思います。救急医療と集中治療を担う総合診療科と救急隊とのコミュニケーションも密になり、2次から2.5次レベルの救急患者さんも搬送されるようになっています。さらに、COVID-19のパンデミックに際して重症患者さんを受け入れたことや、高度治療室(HCU)を備えたことにより重症度の高い患者さんも増えています。
また当院でも高齢化社会を反映して、患者さんの平均年齢は75歳程度と高齢の方が多くなっています。たとえば2023年8月の腎臓内科の患者数は74名でしたが、65名が65歳以上で、90歳以上の患者さんも3名いらっしゃったという状況です。
当院の一番の特徴は「総合診療科があること」です。総合診療科というのは新専門医制度の「基本領域」の1つですが、今のところ標榜科としては認められておらず院内標榜です。入院患者さんを中心に臓器や疾患に偏らず幅広い領域に対応した診療を担っています。たとえば心筋梗塞や消化性潰瘍の出血など、疾患が明らかな場合はその診療科が担当しますが、誤嚥性肺炎や尿路感染症のように適切な診療科を判断しにくい場合や、複数疾患が併存する患者さんはすべて総合診療科での入院となります。専門性の高い治療や検査を要する場合は専門科と連携を取り、常時90名前後の患者さんを診ています。私自身は2022年4月に救急総合診療科の部長として当院に赴任しました。
診療科の垣根を超えるのみならず退院後の介護まで見据えた医療を提供
複数の診療科がある病院にはいわゆる「専門家集団」が揃っていて、診療は専門・分業化されることが多くなっています。救急現場では、複数の合併症(複数科に受診)を有している患者さんが搬送された場合、どの科が担当するかが問題になることがしばしばあります。このことは患者さんにとっても医師にとってもよいこととはいえません。
10年ほど前にアメリカでも同じような状況がありましたが、診療科にかかわらず入院患者さんについては総合診療医(ホスピタリスト)が退院までをサポートするという制度が確立されています。日本の医療はそれを追いかけている状況で、具体策が出ているわけではないものの、政府の「骨太方針」でもキーワードとして挙げられ、日本の医療の現状に合わせた日本版ホスピタリスト育成の必要性が認識されはじめています。
総合診療科は、院内での診療科の垣根を超えた横断的な診療(アメリカ版ホスピタリスト)に留まらず、地域の開業医や各種医療機関とも連携をとりながら、患者さんの社会医療資源的な状況も考慮して、退院後さらには介護まで見据えた地域医療圏での包括的なケアの提供に努めています。それにより、当院が診療所やクリニックの「家庭医」からも高次医療機関からも「安心して患者さんを預けられる」、「何か困ったことがあれば、あの病院に行けば何とかしてくれる」病院になることを目指しています。
高尿酸血症は「2人主治医制」を目標に おもに投薬調節、定期的チェックを担う
前述の通り、基礎疾患をお持ちの高齢患者さんが増えていますが、その多くは糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症といった生活習慣病です。残念ながら高尿酸血症に関しては循環器系疾患などと比べて、一般の医師の認識は高いとはいえません。自分が診ている患者さんが高尿酸血症治療薬を服用しているかどうか、その用量など、把握できていない場合もあります。
私の専門は腎臓内科で高尿酸血症を治療する機会も多く、そのような患者さんは糖尿病、循環器系疾患も合併している方がほとんどです。お薬を飲めば治るというものではなく患者さんにも努力していただかないといけませんから、生活改善、栄養指導は診療の中心を担うともいえます。明らかに尿酸結石があって薬物治療を優先すべき方は別ですが、通常は「3ヵ月か半年はトライしましょう」とお話しします。それによって薬物治療を導入した後の効果も変わってきます。尿酸値が高い患者さんに対しては、できるだけ栄養士による栄養指導を外来受診に合わせて行うようにし、医師がパンフレットなどを用いて栄養指導の総論的なところをお話ししたうえで、食事の種類や量など各論的なところは栄養士にお願いしています。
当院赴任後、総合診療科と透析の立ち上げを中心に注力してきたこともあり、講演活動によって当院に腎臓内科があることを認識していただき、患者さんを紹介していただけるようになってきました。当院での高尿酸血症患者さんの治療については、かかりつけ医の先生に「CKD予防のために」、「ガイドライン的にもこの薬剤に変更したほうがよい」といった投薬調節についての情報提供をして患者さんをお返ししています。これは私が「2人主治医制」を目標にしているからです。患者さんのことを一番よくわかっているかかりつけ医の先生に、薬剤の変更や調整を行っていただくことが患者さん本人にとってよいと考えており、その後は定期的に当院で患者さんのチェックをさせていただくことで、かかりつけ医の先生との連携も円滑になります。
臨床医であると同時に診療体制の構築、ホスピタリスト育成に尽力
総合診療医の仕事は単に患者さんを適切な診療科に振り分けることではありません。幅広い領域にわたる知識や技術が求められます。私自身の研修は泌尿器科で始まったのですが、2年目の勤務先で研修医というよりも「院内で一番若い一医師」として、全科当直や虫垂炎手術からお産の立ち合いまで、さまざまなことを経験しました。地方かつ大病院ではなかったこともあるでしょうが、重症の患者さんもみんなが診るという、いわば全員が総合診療医の役割を果たしていた状況で、私はそれを「とてもよいことだ」と感じていました。
その後、三次救急機関で外科救急を経験したのち、4年目に赴任した病院で初めて透析医療に携わりました。透析医療には総合診療の知識が必要であることを痛感し、そこから各領域について随分勉強したのを覚えています。ここに総合診療医としての自分のスタートがあったのかもしれません。
当院の総合診療科は、立ち上げ時には2名でしたが、1年半足らずで11名にまで増えています。全体を見渡し専門医の専門性をサポートして活かすことができると同時に、それぞれが得意な領域、サブスペシャリティを持つ「一流の総合診療医」、日本版ホスピタリストを育成していきたい。その医師たちが全国に散らばっていき、ここで学んだことを活かしていってほしい。私はそうした総合診療医を目指す若い世代に背中をみせるパイオニアでありたいと思っています。