#18医療法人 柏葉会 柏戸病院
http://www.kashiwado.com/
千葉県千葉市中央区長洲2丁目21番8号
院長斉藤 俊弘先生
地域に根差し医療の質向上をめざす
当院は、高血圧・糖尿病・心臓病・脳卒中などの生活習慣病をはじめ内科系領域を中心に13診療科を標榜し、一般病床86床、療養病床41床、回復期リハビリテーション病床43床を擁するケアミックス型の病院です。昭和3(1928)年開設と歴史は古く、JRや千葉都市モノレールの駅から徒歩数分というアクセス良好な立地環境にあることから、地域に根差した病院として多くの住民の健康を支えています。
私が当院に着任したのは2001年7月ですが、当時、院内では医療の質向上をめざし、公益財団法人日本医療機能評価機構による「病院機能評価認定病院」の認定に向けた準備を進めていました。訪問調査が半年後に迫っていたなか、私は赴任早々プロジェクトリーダーを務めることになり、そこから職員の意識統一を行い、必要な情報の収集・検討を進めて、無事、千葉市内で22番目の認定病院となることができました。それを機に院内には「多職種で力を合わせて頑張れば何とかなる。為せば成る」という雰囲気が醸成されていったように思います。その後、私は2004年2月に院長職を拝命し、当院は5年ごとの更新を重ねて、2023年6月2日に最新の再認定を受けています。
生活習慣病患者における食事指導の難しさ
当院は特に内科系領域が充実していることから生活習慣病系の患者さんが多く、血清尿酸値の高い患者さんも目立ちます。
多くの生活習慣病と同様、高尿酸血症も生活習慣の素因が加わって発症しているため、まずは食事指導が薬物治療に優先されてよいと考えます。ただ、多くの食品には代謝により尿酸となるプリン体が、差はあれど含まれているため、食事指導により顕著な効果を得にくいのが現実です。
同じく生活習慣病とされる高血圧に目を向けると、私自身も大学病院時代は患者さんに積極的に減塩を説いていました。しかし、当院で高血圧患者さんの数値を見ると、高齢者を中心として一定頻度で血清ナトリウム低値が認められます。
その背景にはさまざまな要因がありますが、一律の食塩制限を行うことに疑問を感じています。食事指導とは、患者さん本人が食べるものと病態の関連を理解し、食生活を見直すことには意義がありますが、医学的な効果までを期待するものではないかもしれません。
高尿酸血症についていえば、血清尿酸値の上昇に生活習慣などの環境要因のみならず、遺伝的素因が関与するケースもあります。よって高尿酸血症の患者さんに対しては、食事内容など生活習慣改善に目を配るだけでなく、個々の成因に配慮し、尿酸降下薬の早期介入を考えるべきと思います。
薬物治療のあり方
現在、日本の医療全体における薬物治療の実態は、ややもするとエビデンス、ガイドライン至上主義に陥っているようにみえます。薬物治療においては、RCTの結果から得られたエビデンスを盲信するのではなく、個々の患者さんのリスクとベネフィットを考慮しながら判断すべき、というのが私の見解であり、医療は「Science and Art」であるということを胆に銘じております。
β遮断薬を例に挙げれば、慢性心不全に対する有用性についてはすでに1970年代に報告されていましたが1)、それまでの利尿薬、強心薬の治療と大きく異なるために広く受け入れられることはありませんでした。その後、ACE阻害薬が心不全の標準治療となりましたが、1990年代後半のUS Carvedilol HF study2)やCIBIS-II3)によってβ遮断薬がプラセボに比べ生命予後を改善させることが報告されると、状況は一変しました。現在、β遮断薬は、左室収縮能の低下した心不全患者に対し、有症状の場合の投与は推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAの位置づけでガイドラインに記載されています4)。このように、時代とともにエビデンスも変わるのです。
そのため、薬物治療において正解は1つではないはずです。臨床で患者さんを丁寧に診ていれば、必ずしもガイドラインが推奨する薬物治療がベストとはならない方がいます。そこをうまく見極めることが、われわれ医師の本来の仕事ではないかと思います。
尿酸降下薬を用いた治療の実際
高尿酸血症の薬物治療については、患者さんの希望をよく伺うことが大切ですが、他の生活習慣病を合併して血清尿酸値が8.0mg/dLを上回っていれば、尿酸降下薬の投与を検討します。
ここで問題となるのが、無症候性の高尿酸血症に対し薬物治療を開始しようとしても、なかなか理解を得にくいという点です。以前から、高尿酸血症は動脈硬化や、ひいては心血管イベントのリスク因子と言われているものの、「尿酸とは何か」「なぜ血清尿酸値を下げないといけないのか」について十分に理解している患者さんは少数派です。われわれ医師側も、患者さんに「それならば」と納得してもらえるだけの、切り札となるような情報は持ち合わせていません。
そうしたなか、慢性腎臓病(CKD)を合併している患者さんに関しては、比較的尿酸降下薬の導入に前向きである印象です。血清尿酸値の管理はCKDの重症化予防のために重要であり、「血清尿酸値を下げないと腎臓がさらに悪くなる」と説明すれば、透析をイメージしてか、薬物治療を自分ごととして捉えるようになります。
そこから治療を継続すべく、生活状況や考え方、合併症の治療の状況などを把握しながら、患者さん個々に最適な提案を考えていきます。
地域と多職種連携により医療の質向上をめざす
当院は、地域のかかりつけ医の先生方から紹介があれば、患者さん個々の病態や生活環境を鑑みながら、可能であれば当院で引き受け、より専門的な治療が必要と判断すれば高度機能病院へ紹介しています。
紹介先としては、千葉県救急医療センター、千葉大学医学部附属病院、独立行政法人 国立病院機構 千葉医療センター、千葉市立青葉病院、千葉メディカルセンターとの連携を推進し、逆紹介も積極的に受け入れる体制を整備しています。とくに千葉大学医学部附属病院循環器内科、心臓血管外科との連携は強固なものであり、インターベンション治療やペースメーカー等植込み術、大動脈弁留置術の術後患者さんについて数多くのフォローアップを行っています。
医療資源に限りがあるなか、地域においては適切な機能分化が重要です。救急医療に関しては現在、地域の医療資源を効率的に活用し、持続可能な提供を実現すべく、千葉大学が中心となって組織したCHIBA e-link(千葉大学医学部附属病院 救急病院連携コンソーシアム)が稼働しています。
地域におけるこのような連携体制は、診療科を問わず普及していくべきです。そのなかで、当院はアクセス良好な立地環境にあり、さまざまな医療機関のハブ的役割をこなすことが可能です。今後も、地域のかかりつけ医や高度機能病院との連携推進に注力し、地域全体での医療すなわち「診断・治療と癒し」の質向上に貢献していきたいと思います。
そこで欠かせないのが多職種の力です。地域が包括的に医療の質向上をめざすにあたっては、医師だけでなく、多くの職種がそれぞれの専門性を発揮して参画する必要があります。当院の素晴らしいところは、看護師や薬剤師、栄養士、検査技師など多職種が一丸となり、チームとして同じ方向をめざしているということです。それは、私が当院に着任し、「病院機能評価認定病院」の認定に向けた準備を進めていた頃から、徐々に素地ができつつあったと感じています。今後も地域の医療機関として、多職種とともに「やさしい医療、かしこい医療、そして何よりも安全な医療」という病院理念のもとに、近隣医療機関との連携を密にとり医療の質と安全を確保しながら医療従事者としての誇りを持ち、常に地域の皆様に選ばれる心のこもった医療のできる品格のある病院、そして職員が明るく働きやすく働き甲斐のある環境であり続けるべく日々精進し、地域医療に貢献していくハブ的な病院でありたいと願っております。
References
1) Waagstein F, et al. Circulation. 1989;80:551-63.
2) Bristow MR, et al. Circulation.1996;94:2807-16.
3) CIBIS-II Investigators and Committees. Lancet.1999;353:9-13.
4) 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf(閲覧:2023-10-25)