施設紹介

#17吉兼内科クリニック

http://yoshikane-cl.com/
福岡県福岡市南区塩原1-4-21

院長吉兼 誠先生

患者さん一人一人とより向き合える開業の道を決意


写真1落ち着いた雰囲気の受付

私は開業前の約9年間、日本赤十字社福岡赤十字病院で肝臓疾患を専門として、末期肝硬変や肝臓がんなどの診療に携わっていました。病棟では、がん末期のケアやアルコール依存症の肝性脳症の方などを診る機会が多く、家庭環境や趣味嗜好、人生観などをすべて受け止めながらかかわっていくところにやりがいを感じていました。一方、外来については患者さんと十分な関係を築く時間がないため、開業すれば患者さん一人一人と向き合う、自分の思うような医療が提供できるのではないかと考え、2014年10月に開業しました。祖父が内科、父が小児科を開業していましたので、いつかは地域に根差した診療をしたいという思いがあったことも1つの理由です。実際のところ、開業してからも忙しいことに変わりはないのですが、初診時や何か問題が発生したときにはしっかりと時間をかけてお話することができています。

開業にあたり掲げたモットーは「安心して頼れるクリニック」です。ありきたりな文言のようですが、患者さんが真に安心して頼れる存在になるというのは簡単なことではありません。困ったときに何でも相談にのってもらえる、地域の皆さんの拠りどころになるためには、真心や優しさ、親切心といった誠実な姿勢と確固たる知識や技術が同居している必要があります。一方で、クリニック内はホテルのロビーのような上質な空間を目指しました。外観は白を基調としたシンプルな造りとし、待合室は全面ガラス張りです。自分自身が患者の立場であったときに、こんな場所であれば通いたいと思えるデザインにこだわりました。

高尿酸血症・痛風で治療意欲の低い患者さんには尿酸塩結晶の沈着画像をみせる

当クリニックは福岡市南区にあり、最寄りのJR竹下駅は博多駅から1駅です。そのため子育て世帯や単身赴任者が多く、患者さんも30〜40歳代が中心です。最初は風邪で受診された方が、健康診断の結果を手に「肝臓の数値が基準値を超えていた」と相談にこられることが多く、肝臓の専門家でよかったと感じます。近年は、健康診断を受けた男性の約4割が脂肪肝ともいわれ1)、肝機能異常を指摘される方が大変多いのです。その多くは低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール値や血糖値、血圧などの数値もよくありません。

また、令和元年から現在までの約4年間で、当院で高尿酸血症・痛風と診断した患者さんは375人でした。合併症などがない場合は尿酸値が9.0mg/dL以上で薬物治療を検討することが推奨されていますが、私は8.0mg/dLを超えた状態が続く場合には薬物治療を勧めています。ただ、痛風になっていないので治療は必要ないと考える患者さんや、痛いときだけ受診すればよいという考えの痛風患者さんもおられ、薬物治療を継続して尿酸値をコントロールすることの重要性を理解してもらう難しさを感じます。そのような場合は、視覚的に理解できるように尿酸塩結晶の沈着がみえる化されるDual energy CTの画像をおみせしています。痛風発作に至った人のびっしりとした沈着状況や、まだ発作を起こしたことのない高尿酸血症の人でも沈着が確実に進んでいる様子を示すことで、危機感をもってもらえるように工夫しています。

生活習慣病の患者指導は効果的な伝え方を試行錯誤

患者さんへの疾患説明や生活指導の伝え方は、効果的な表現になるよう試行錯誤しています。生活習慣病は痛みも不調もないままに進行し、将来重大な合併症を起こす可能性があり、薬物治療と生活改善によりコントロールしていくことが重要であるという基本事項は比較的強く伝えています。さらに、減量が必要になる方には、「ダイエットという言葉を“痩せる”という意味だと思っていませんか?」と問いかけ、「ダイエットというのは、その人の体質や体形に合った、いい生活習慣や食事習慣、運動習慣を身に付けることですよ」とお話ししています。このように、一人一人体質が違うということを丁寧に説明し、たとえば「あなたと同じだけビールを飲んでも尿酸値が正常な人もいます。あなたは特に尿酸が溜まりやすい体質だから気を付ける必要があるんですよ」とお伝えしています。

また、休肝日なく飲酒をされているような方には「検査の数値が悪いのは、今のお酒の飲み方が体に合っていないんです。お酒を一生楽しみたいなら、禁酒が必要とならない程度に上手に付き合っていく必要がありますよ」とお伝えしています。アルコールについては、厚生労働省が「節度ある適度な飲酒量」を男性で日本酒1合までとして、女性はその半分程度としています2)。さらに週2日の休肝日を設けることを推奨していますが、これを患者さんに守ってもらうのは容易ではありません。しかし、肝臓は持続するダメージに弱く、復活するのに48時間を要するため、休肝日をとることは重要です。一方で、多くの人は「〇曜日を休肝日にしよう」と決めても、その日に飲み会が入ったことなどをきっかけに挫折してしまいます。そこで私は、必要な方には「1日おきの飲酒」を推奨するようになりました。1日おきと決めていれば、2日続けて飲んでしまっても、その次の日を休肝日にすればリカバーできます。「今日飲んだら明日休む」、「今日休んだら明日飲める」というシンプルさが受け入れられ、前向きに取り組んでくださる患者さんが増えました。

「尿酸値は乱高下がよくない」と説明

写真2全面ガラス張りの中待合室

高尿酸血症・痛風の診療では、先述の通り、患者さんに尿酸値をコントロールすることの重要性を理解して、薬物治療を正しく継続してもらうことに難しさを感じます。尿酸値が高いときだけではなく、急激に下がっても痛風発作が起こること、尿酸降下薬を服用していて痛風発作が起こった場合は服用を継続し、尿酸降下薬を服用していなくて痛風発作が起こった場合は服用を開始しないことなどが、患者さんには理解しづらいからかもしれません。薬物治療を開始した方には「尿酸値は乱高下がよくないから、飲み忘れないようにしてくださいね」とお伝えしています。

飲水指導は高尿酸血症・痛風の方に限らず、高齢者にも積極的に指導しています。高齢者では1日1.5L以上、高尿酸血症・痛風の患者さんでは1日2L以上を、基本的には水で、お茶がよければノンカフェインの麦茶で摂取するようお伝えしています。また、合併症の早期発見のために、会社の健康診断を受けておられる方にはその結果を持参いただき、自営業や退職後の方には福岡市国民健康保険の特定健診「よかドック」を当クリニックで行っています。そのほかに必要と思われる方にはレントゲンや心電図、上部内視鏡やエコー検査をお勧めしています。

地域の肝臓専門医として肝機能精査の役割を担う

肝臓専門医のいるクリニックが少ないこともあり、近隣の医院の先生方が肝臓の数値の悪い患者さんを気軽に送ってくださいます。近年、増加が指摘されている脂肪肝は血液検査の数値だけではわかりません。エコーを実施しない医院ではその多くが見逃されているため、この連携はとても重要です。特に太った患者さんで肝機能が悪い場合、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が疑われますが、実はC型肝炎や自己免疫性肝炎(AIH)であったというケースが稀にあります。そのため、肝臓の数値がそこまで悪くない場合にも、原因の精査を一度は専門医に紹介して行うことが重要です。

安心して頼れる、より快適なクリニックへ

開業から9年が経ち、開業医として自分自身が行える範囲がわかり、診療の手順が確立できてきました。コロナ禍にはCOVID-19への対応に力を注いだように、今後もその時どきで地域に必要とされることに取り組んでいくつもりです。また、今後はメディカルクラークを導入して待ち時間を減らすなど、患者さんがより快適に通っていただけるよう工夫していきたいと考えています。

References
1) Eguchi Y,et al.J Gastroenterol.2012;47:586-95.
2) 厚生労働省.アルコール.https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5.html#A51(閲覧:2023-7-24)