#16医療法人社団林和会
府中クリニック
茨城県石岡市府中5-11-1
院長小林 雅人先生
外科・胃腸科・消化器内視鏡を専門としつつ、オールラウンドに対応
当院の所在する石岡市は、二次医療圏全体でみると病床数、医師数ともに充足していますが、医療資源の偏在により実際の医療提供体制は深刻な状況に直面しています。
私自身は消化器内視鏡専門医であり、当院には内視鏡検査目的の患者さんが多数来院し、年間約1,800名の検査・治療を行っています。ただし医療資源不足のなか、内科はもとより皮フ科、泌尿器科、耳鼻科、整形外科領域の患者さんなど、私の専門領域外のさまざまな訴えにて受診してこられる患者さんが後を絶ちません。私も地域の患者さんの多様なニーズに応えるべく、よほど対応が難しいケースは別として、基本的には当院にて対応するよう努めてきました。
さらに当院は入院機能も有しており、内視鏡検査によるポリープやがん切除に伴う入院を中心としてベッドは常に稼働している状況です。現在のポリープ切除は日帰りで行うのが主流であり、私も病院勤務時は日帰りで行っていましたが、ポリープのサイズや切除後偶発症のリスクが高そうな患者さんの場合は念のための入院を勧めています。
ほかにも外来で腹痛、腸閉塞、下血などが認められた場合はそのまま入院に移行することが可能です。石岡市の病床不足を考えると、入院が必要な患者さんについても極力当院でカバーすることで、地域基幹病院における病床逼迫の改善に貢献できるのではないかと考えています。
自宅はクリニックに隣接する敷地内にあるため、土日であっても入院患者さんを診ることがあります。体力的にそろそろ入院機能は停止しようかと思うことがありますが、患者さんや地域のニーズを考えると悩ましいところです。
高尿酸血症患者さんに対する生活習慣改善指導のコツ
そのなかで現在、当院にて高尿酸血症として診断され、薬物療法の対象となっている患者さんは約150名、そのうち1~2割は痛風発作を伴っています。年代別でみると比較的若い世代の患者さんも目立ち、多くは高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を合併している状況です。
高尿酸血症と診断すれば、まずは生活習慣を改善すべく過剰なカロリー摂取や塩分摂取を制限し、運動習慣をつけるという基本的な指導を徹底します。ただ、単に食事を制限し運動するだけでは患者さんも目指すべきところがありませんから、客観的な指標として体重測定を推奨しています。
特に減量が必要と思われる患者さんには1年の最初に目標体重を宣言してもらい、定期的に測定しながら達成状況を確認していきます。
糖尿病患者さんであれば、しっかり水分を摂るよう指導しながらSGLT2阻害薬を処方して、2~3kgの減量に成功するケースはよくあります。それは患者さんの励みになりますし、具体的な成果が得られたことで、薬物療法に関するアドヒアランスの向上も期待できます。
飲酒もなるべく控えるよう指導しますが、私自身がお酒好きで、その点は若干患者さんに寛容かもしれません。飲酒を厳しく制限しすぎて治療から脱落するよりは、飲みながらでも治療を継続してほしいという考えのため、プリン体ゼロビールの一覧表を渡すなどして、少しでも飲酒と血清尿酸値の関係に目を向けてもらうよう工夫しています。
合併症の多い患者さんに対する尿酸降下療法の現状
生活習慣の改善を行いながらも血清尿酸値が8.0mg/dL近くまで上昇すれば、基本的に尿酸降下薬による薬物療法を開始します。特に腎機能低下を伴うケースでは、早期の介入により慢性腎臓病(CKD)の進展が抑制できる可能性が大きいと考えています。
処方時にはできる限り病型分類を行い、エコーで尿路結石の有無も確認して、尿酸排泄促進薬と尿酸生成抑制薬の適応を検討します。服薬開始後は定期的に血液検査、尿検査を行い、腎機能をチェックしながらCKDへの進展の抑制を重視しています。
薬物療法開始時に問題となるのは、高尿酸血症の患者さんはほぼ高血圧、糖尿病、脂質異常症を合併している点です。それらの治療薬を服用しているうえに尿酸降下薬が加わるため、患者さんもあまりいい顔はしません。
ただ、そこで処方を保留にはせず、患者さんには血清尿酸値を低下させることの意義と服用遵守の重要性を説いています。実はわが家は代々高尿酸血症の家系で、私自身も尿酸降下薬を服用中なのです。祖父は高尿酸血症で腎機能も低下した結果、亡くなっていますから、さまざまな疾患を診ているなかでも高尿酸血症は気になるのです。
このようなエピソードを詳しく伝えることはありませんが、私のなかで高尿酸血症の治療の優先度が高いことは患者さんにも伝わっているのでしょう。多くの患者さんのアドヒアランスは良好で、薬物療法の開始後、患者さんの血清尿酸値は6.0mg/dL台まで低下していきます。
持続可能な医療提供体制を目指して
私は現在、一般社団法人 石岡市医師会の副会長を務めており、地域の医療提供体制については十分に把握していますが、課題は山積、憂うべき状況です。
石岡市ではもう20年近く新規開業がありません。そのため、石岡市の開業医は年々高齢化しています。数年前まで分娩可能な産科クリニックが2軒ありましたが、医師の高齢化を理由として残念ながら廃業となりました。婦人科クリニックはかろうじて承継が見込めそうですが、今後の見通しは不明です。ほかにも、小児医療、初期救急、慢性期医療など、石岡市の地域医療はさまざまな課題を抱えています。
そのような医療提供体制の空白部分を埋めるべく、私は当院でできることを一所懸命頑張っているつもりですが、やはり今後は若い医師の力が欠かせません。石岡市の住民が安心して暮らせる環境づくりに協力してくれる医師がいれば、ぜひサポートしていきたいと思います。当院が病床を維持しているのも、もしかすると承継してくれる医師がいるかもしれないと期待してのことです。
私自身は外科・胃腸科、消化器内視鏡が専門ですが、地域住民の健康を守る町医者であるという自負をもって日々診療に向き合っています。ただ、地域医療は誰かが孤軍奮闘して守れるものではありません。特に今、医療は機能分化し、地域のなかで関係を築きながら連携していく時代です。地域の医療体制を持続可能なものとするためにも、若い世代と協力しながらよりよい医療体制づくりに取り組んでいきたいと思います。
今後の展望
さまざまな患者さんのニーズに対応してきた結果、カルテ番号は現在2万7千近くにまでのぼっています。今後も消化器外科医としての専門性を維持しつつ、高尿酸血症や痛風の患者さんもしっかり診ることのできる町医者として存在し続けたいと思います。
同時に、石岡市の地域住民が住み慣れた地域で将来にわたり適切な医療を受けることができるよう、医師会として行政や関係各所と連携しながら、必要な体制づくりを模索していきたいと思います。
そのためにも、私自身の当面の課題は健康を維持し続けることだと自覚しています。さまざまな課題と向き合っていくには、身体が健康であることが最大の原動力となるはずです。ただ、お酒をやめるのはちょっと難しいかもしれません。その分、現在服薬中の尿酸降下薬はしっかり服用して、今後も精力的に地域医療の充実に貢献していきたいと思います。