施設紹介

#15医療法人社団江正会 桜田内科

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千葉県成田市公津の杜2-27-1

院長櫻田 正也先生

地域の糖尿病専門クリニックとして機能を発揮

当院は地域のなかで糖尿病診療を専門的に担うクリニックで、受診者の9割が糖尿病と診断されている方たちです。

糖尿病と診断されても長期にわたり厳格な血糖コントロールを行い、QOLの維持に努めることで、健常な人と変わらない生活を送ることは可能です。ただ、それを実現するにはまだ自覚症状のない段階から糖尿病の病態について十分な理解を得て、合併症を阻止するための対策に取り組む必要があります。

そのため当院では予約制を導入し、患者さん個々の病態に沿った説明や指導を心がけています。ときに多くの患者さんをお待たせするのは心苦しい限りですが、そこは私自身のこだわりとして、「1人でも多くの患者さんを診る」よりも、「1人1人を丁寧に診る」ことを優先したいと考えています。

また、当院の糖尿病患者さんの平均年齢は約70歳、糖尿病以外の疾患のリスクも高くなる年代です。私の専門外である疾患領域については、地域の医療機関と密に連携しながら、患者さんにとって最適な医療を提供するよう努めています。

糖尿病に合併する高尿酸血症の現状と目標値

当院の糖尿病患者さんのうち高尿酸血症を合併している方は、尿酸降下薬未処方も含めると3割近くにのぼります。高尿酸血症は腎臓に対して負荷になりますが、これを放置すると腎機能低下をもたらすことは久山町研究1)などでも明らかにされています。そのため、私も糖尿病診療のなかで血清尿酸値の推移は注視しており、患者さんにも血清尿酸値を上げないことの重要性や具体的な対策について説明を重ねています。

なかには健診などで指摘された血清尿酸値高値を放置し続け、ある日突然、痛風発作を呈して当院に駆け込んでくる方もいます。そのようなときは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を投与し、痛みが治まれば尿酸降下薬の投与を開始し、血清尿酸値管理の目標値としてひとまず6.0mg/dLを掲げます。

血清尿酸値 6.0mg/dL以上の群では6.0mg/dL未満の群に比べ5年後の慢性腎臓病(CKD)発症率が有意に高く、また将来的な透析導入率が3倍になることを考慮すれば、高尿酸血症の持続がCKD発症進展さらには透析導入のリスクとなると考えられます。また、血清尿酸値と心筋梗塞発症率の関係を調べると、男性では血清尿酸値 4.5mg/dL、女性では3.5mg/dLで心筋梗塞の発症率が最も低下することから、透析導入原因疾患の第1位であり、心筋梗塞の発症リスクが高いことで知られる糖尿病の患者さんでは血清尿酸値の値を少なくとも6.0mg/dL以下に、高血圧症や脂質異常症を合併していてさらに動脈硬化症進展リスクが高いと考えられる場合には、できれば5.0mg/dL以下を目標にしたいと考えています。すでにCKDの第4期なら4.5mg/dL以下を、さらに腎機能低下速度が大きいと考えられる場合には、腎臓機能の維持を最優先として3.0mg/dL台後半をめざすこともあります。CKDの第4期などの進行したstageでの腎保護についてエビデンスのあるガイドラインはほとんどありませんが、経験的には血清尿酸値が高いままで推算糸球体濾過量(eGFR)が改善する方はほとんどいません。腎保護や予後改善のため、CKDの各stageにおいて血清尿酸値をどこまで下げるべきか根拠となるエビデンスがあると助かります。

患者さんの生活習慣への介入

当院の糖尿病治療では食事療法を重視しており、日々の食事で炭水化物が血糖値に与える影響を考慮した食事療法(カーボカウント)を提案しています。そのなかで、高尿酸血症の患者さんには血清尿酸値についても考えてもらう指導を加えています。

ただ、医師が多忙な診察の合間に指導を行っても、いわれたとおりに実行する患者さんは少ないのが現状です。ほとんどの医師は匙を投げてしまい、糖尿病でも高尿酸血症でも、そのまま10年経てば回復不能の状況をむかえることになります。私自身は何とかして患者さんの生活習慣に介入したいという思いが強く、現在、糖尿病療養指導士資格を有する管理栄養士の協力を得て、きめこまかな指導を行っています。

それでも、糖尿病にせよ高尿酸血症にせよ、患者さんの慣れ親しんだ習慣や嗜好を変えるのは容易ではないと痛感しています。特に高尿酸血症の患者さんの場合、アルコールの問題を抱えていることが多く、休肝日を設けても結局1回あたりの飲酒量が増えてしまうのはよくあることです。過剰なアルコール摂取は病態に悪影響を及ぼすだけでなく、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などの病態を悪化させ、重篤な健康被害をもたらすリスクもあります。残念なことに、かつて私が診ていた患者さんで、いくら禁酒を勧めても飲酒量のコントロールに関心をもつことができず、40歳代半ばで脳梗塞を発症した方もいました。

糖尿病や高尿酸血症は慢性に経過する疾患であり、継続して患者さんと向き合っていく必要性があります。そのなかで、患者さんが過去を振り返り、「あのとき先生のいうことを聞いていれば」と悔やむことのないよう、私自身も指導のあり方を工夫していく必要があると思います。秘策はありませんが、これまで診てきた数多くの患者さんのエピソードも踏まえつつ、今は自覚症状がなくても将来危うい状況にあることをくりかえし伝え続けていくしかないと感じているところです。

患者さんの予後改善に向けた検査の必要性

そうしたなか、患者さんが生活習慣改善に関心を抱くきっかけとなることが多いのが、足関節上腕血圧比(ABI)検査や血管年齢(CAVI)検査です。血管年齢は実年齢との比較になる点がわかりやすく、関心をもっていただきやすい検査です。食事や運動の指導を守ってもらえれば効果も反映されるため、データが悪くなってくると、「どうすればよいですか?」と質問してくれる患者さんは多く、患者さんの治療に対する認識を変え、モチベーション向上につなげるきっかけとして、これらの検査は役に立つと感じています。

一方、われわれ医師の側はもう少し血清尿酸値という評価指標に目を向けてもよいのではないかと思います。糖尿病は発症後、しばらくは血糖コントロールを中心に診ていればよいのですが、高血糖の管理が十分でない場合は徐々に合併症を発症するようになり、いつの間にか腎機能低下や心血管イベント発症、末期腎不全、という事態に陥ります。腎機能低下や動脈硬化の進行をいかに抑制すべきかは本当に悩ましい問題ですが、今のところこれらの問題を一気に改善できる手立てはありません。

高尿酸血症の持続が腎機能の悪化をきたすことは知られていますが、血清尿酸値は水分や糖質、プリン体の摂取状況とさまざまな病態を反映して動くマーカーであると感じています。私たち医師が受診のたびに患者さんの食事内容や生活状況を確認し、測定した尿酸値の管理を行うことで、患者さんのQOLや予後をよい方向へと導くことができるのではないかと考えています。

今後の展望

ABI検査やCAVI検査による血管年齢のみえる化が患者さんに受け入れられやすいこともあり、当院では最近、血糖値の「みえる化」も重視し、少しずつですがフラッシュグルコースモニタリングシステム(FGM)の導入を進めています。

FGMのシステムは血糖の変動を適時モニタリングできるため、これまで「食事療法をやっても効果が出ない」と訴えていた患者さんも、「この食事内容でこんなに血糖値が変化するのか?」と驚くことがほとんどです。データからさまざまな気づきが得られるため、それまで気づいていなかった問題を自覚するようになり、積極的に血糖コントロールに取り組むようになってくれることが少なくありません。やはり糖尿病の治療においては、個々の患者さんに合った丁寧な説明を行い、正しく理解してもらうことに加え、患者さん自らが治療に参画しているという意識をもってもらえることが重要なのだと思います。日々のカロリーや栄養素に関するきめこまやかな指導は必須ですが、実際に食べたものが血糖値にどのような影響を及ぼすか、患者さんが自らの目で確認することで、より積極的なセルフマネジメントへと発展していきます。そこで成功体験を得た患者さんは血糖値だけでなく、血清尿酸値も含め、自身の健康に関連するさまざまな指標に関心を高めるようになると期待しています。

今後は、そのようなセルフマネジメントの取り組みをさらに進め、近隣の先生方とも認識を共有して、地域の糖尿病診療のレベルアップにつなげていきたいと思います。

References
1) Takae K,et al.Circ J.2016;80:1857-62.