施設紹介

#10東北医科薬科大学 若林病院

https://www.hosp.tohoku-mpu.ac.jp/wakabayashi/
宮城県仙台市若林区大和町2-29-1

腎臓内科科長・
人工透析センター長
安藤 重輝先生

仙台市若林区唯一の総合病院

当院の前身は1979年に設立された東北逓信病院であり、当初は日本電信電話公社(現・NTT)の社員のための病院でしたが、1年後には一般市民病院となりました。現在は、東北医科薬科大学の医学部附属病院であると同時に、ここ仙台市若林区唯一の総合病院となっています。宮城県そして仙台市は、人口に比して腎臓内科医が少ない地域です。そのため、当院は仙台市はもちろん宮城県全体、特に南部を中心に患者様を幅広く受け入れています。

外来の患者数は保存期腎不全では月に300人、新患は月に20〜30人程度です。患者様の年齢層は幅広く、若い方から高齢の方まで満遍なく、男女にも偏りはありません。また、腎臓疾患の重症度もStage G3から透析導入期の方まで幅広く診察しており、維持透析患者様も多く受け入れています。

透析導入撲滅を掲げて「若林腎臓ドック」をスタート

透析療法はQOLを低下させるのみならず医療費の高騰、労働力の損失など社会的にも大きな問題となりえます。そのため当院では、透析導入患者様の減少を目標に掲げ、これまでの20年以上の腎臓内科医としての経験を活かし、透析を回避する治療に力を入れています。最も重要なことは、早い段階で腎臓内科を受診していただくということです。腎臓はかなり腎機能が低下してからでないと自覚症状が発現せず、また一度低下した腎機能は回復しないため、腎不全特有の症状が現れてから治療するのではなく、尿所見異常、腎機能低下などを指摘された際は無症状でも受診していただきたいと思っています。

各施設には紹介をお願いするとともに、かかりつけ医をもたない患者様のために、健診センターとも連携して受診勧奨に努めています。健診で腎機能[推算糸球体濾過量(eGFR)、クレアチニン(Cr)]低下、尿所見異常(尿蛋白・潜血)を指摘された患者様にいかに早く腎臓内科の門を叩いていただけるかが最大の鍵、慢性腎臓病(CKD)医療の肝になりますから、市民講座でもこれらの検査値に異常があった場合には症状がなくても腎臓内科を受診するよう呼びかけています。また、患者様啓蒙のためのポスターを各健診クリニック様で掲示していただいたり、独自に作成した “Andoism” のパンフレットを配布したりしています。

さらに当院では紹介状などは一切不要で、どなたでも受診可能な「若林腎臓ドック」をスタートさせました。この「ドック」というネーミングは、腎臓を身近に感じていただきたいという狙いがあってのことで、診療自体は保険診療となります。初回受診日を検査のみとし、2回目に腎臓専門医が診察するという新たなスタイルで、より受診しやすく待ち時間も抑えることが可能です。

高尿酸血症の管理は腎不全予防の4本柱の1つ

できるだけ早く腎臓内科に受診いただいて患者様に腎臓に興味をもっていただくと同時に、腎臓内科としては腎保護のためにできることは徹底的にやる、悪い因子は取り除くという姿勢で診療に臨んでいます。取り除くべき因子としては、血圧や糖尿病、脂質の管理に加えて、痛風だけではなく動脈硬化など血管合併症のリスクにもなりうる無症候の高尿酸血症も重視しています。高尿酸血症は合併症予防という観点で管理すべき4本柱の1つだと考えています。

高尿酸血症といっても、当院では痛風発作を起こすような患者様は決して多くありません。ただ、腎不全の合併症としての高尿酸血症や腎不全に対して用いられる利尿薬などの薬剤誘発で血清尿酸値が高くなっている患者様もいますので、割合としては全体の3〜4割程度ではないかと思います。

そういった患者様に対して、まずは栄養士さんに生活・食事指導をしてもらいますが、やはりそれだけでは行き届かず、尿酸降下薬を使わざるをえないケースが多いというのが現実です。痛風発作の予防という意味では、血清尿酸値 7.0〜8.0mg/dLが目安ということになるでしょうが、腎不全の予防という意味であえて低めの設定にして、6.0mg/dL以下に保つことを目標に、これを越えれば尿酸降下薬の使用を考慮します。

尿酸降下薬は、従来、副作用の懸念から腎障害がある患者様には使いにくかったのですが、新規キサンチン酸化還元酵素(XOR)阻害薬に関しては、腎障害があっても通常用量を投与できるなど非常に使いやすく、以前より腎不全予防に力を入れることが可能になり、透析に至ってしまった患者様でも使うことが可能です。たとえば、透析導入によって尿酸降下薬をやめられる患者様もいますが、透析後にも高値を示すような患者様では尿酸の過剰産生が想定されますから、積極的にXOR阻害薬を使用しています。

患者様それぞれの年齢や性格も踏まえた投薬開始と服薬指導

高尿酸血症のある方は肥満や高血圧、糖尿病、脂質異常症などを複合的に合併することが多いですが、これらを生活習慣の改善によって管理することは容易ではありません。また、喫煙者の方が禁煙するのも難しいでしょうし、喫煙していないのに数値が悪化する方もいらっしゃいます。うまく薬剤を使っていくことが重要になるわけですが、患者様のなかには「一生飲むことになるのは…」と薬を飲むことを嫌がる方もおられます。また、高尿酸血症に関しては、痛風発作を起こしうることは知られていますが、特にメタボリックシンドロームが併存している場合に腎障害や血管障害を起こしやすいことはご存知ない方が多いですから、丁寧かつわかりやすい説明が求められます。

具体的には「尿酸値が高いということは、たばこを1日10本吸うのと同じことですよ」とお話しすることもあります。毎年、数値が悪くても服薬を始める決心がつかず何年も経ってしまっているような方には、「あなたは頑張っています。でも頑張ってもこの値だということは薬でコントロールする必要があります」というようにお話しします。肥満であってもコレステロール値が正常な方もいますが、高齢者でもコレステロール値が高い方もいますから、脂質異常症治療薬であれば、「お酒の強い・弱いと同じで、あなたは残念ながら体質的にコレステロールを代謝する能力が低いので、それを助けるお薬を1錠、まず飲んでみてはどうですか」といってお勧めすることもあります。患者様の意思を尊重することも大切ですが、増悪因子を漫然と放置してしまうのは避けたいと思っております。

生活習慣の改善が難しいということだけでなく、特に高齢者では食事制限が必ずしも適切でない場合もあります。たとえば食事療法として、尿酸値を下げるため高プリン体食を避けるということが蛋白質の摂取量低下につながって、栄養失調をきたすおそれもあります。また、神経質な性格の方で真面目に食事療法をしようとするあまり、常に食事制限のことばかり考えて気が休まらない様子を目にすることもあります。高齢者では特に、ある程度食べてもらうほうがいいのです。透析をしていたとしても、たとえば80歳になって「あれを飲むな、これを食べるな」と、薬を減らすために食事を管理するというのは、私はナンセンスだと思っています。むしろ「夏はおいしいからビールも飲みなさい」ということもあります。それによって、患者様ご自身が食事を振り返られて、ビールを減らすこともあるでしょう。食事指導も服薬指導も、患者様の年齢や性格に合わせて、患者様の気持ちを汲んで行うように努めています。こうしたなかで、尿酸値に関しては使いやすい薬剤を手にできたことで医師側も管理が容易になったと感じています。この超高齢社会においては、以前よりも腎臓機能を長くもたせる必要がありますから、患者様が不要なストレスを感じることなく治療を継続できる環境をつくることが大切です。

一人でも多くの方が透析を回避するための新しい腎臓内科を“Andoism”のもとに広めたい

写真“Andoism”のパンフレット

”Andoism”のキーワードの1つである「機動力」として、若林病院HPには簡易な紹介状の「かかりつけ医連携パス」も掲載している。

このように当科では、腎臓疾患の早期発見・治療により透析患者様を少しでも減らすことを目標に、透析導入撲滅宣言のもとに診療を続けています。そしてこうした腎臓内科の新しいあり方を、“Andoism”として提唱しています。“Andoism”の3つのキーワードは、かかりつけ医との強固な連携と各地域での腎臓外来開設により潜在的な患者様を探しにいく「機動力」、腎臓のプロによる「冷静かつ批判的思考下における的確な診断」、そして患者様一人ひとりの背景に合わせた投薬・指導・診療方法を提案する「オーダーメイド治療」です。

日本には透析治療を受けている患者数が約33万人にも上ります。腎臓は実は肝臓と並んで症状が出にくい「沈黙の臓器」であり、腎臓疾患は静かに襲ってきます。管理しているつもりでもeGFRが低下したり蛋白尿がみられるというのは、何かがおかしいわけです。腎臓のプロとして冷静かつ批判的な目をもって、必要があれば腎生検を行って確定診断をすることも大事でしょう。当院での受診のスタートが透析だという患者様でも、時系列でデータをみると実際には腎炎で、それが手遅れになってしまっていたという患者様もいらっしゃいます。患者様は「真面目にやっていてもゆっくり進行したら、そろそろ潮時だろう、10年前からいわれて、この状態がきた」という覚悟ができていて透析になってしまっても仕方ないと思ってしまうわけですが、10年前にきちんと診断できていれば腎炎の治療をすればよかった、治るはずだったという方も多く隠れているのです。そんな患者様を増やすことがないよう、経験をもってそれを見極めるのが私の仕事だと思っています。

きちんと取り組めば透析は防げます。今後もマンパワーの許す限り、宮城県全体に幅広く“Andoism”を浸透させて、透析導入撲滅を目指していく所存です。