#08医療法人社団つむら循環器内科
クリニック
https://www.tsumuraclinic.com/
加古川市平岡町新在家2-268-1
院長津村 泰弘先生
循環器を専門に広く生活習慣病を診る
私は1985年に川崎医科大学を卒業後、神戸大学医学部第一内科に入局し、その後関連病院での勤務などを経て、1991年に兵庫県立加古川病院(現 兵庫県立加古川医療センター)に着任しました。私と加古川市とのつながりはここから始まります。2001年からは、神鋼加古川病院(現 加古川中央市民病院へ統合)にて循環器内科での心臓カテーテル治療部門の立ち上げに携わった後、2006年10月に東加古川の地で開業しました。
当院の標榜科は循環器内科と内科で、外来患者数は1日約150名、1ヵ月では約3,000名にのぼります。年齢層は60歳以上が約75%で、虚血性疾患や不整脈、弁膜症、心不全などの循環器疾患をはじめ、さまざまな生活習慣病も診ています。高尿酸血症・痛風の患者さんは約600名、そのうち痛風は100名ほどです。男性8割、女性2割の比率で、年齢分布は全患者と変わらず60歳以上が75%を占めています。そのうち血清尿酸値が8.0mg/dLを超えて合併症があれば薬物療法を開始しますが、高尿酸血症を含めた生活習慣病はサイレントキラーといわれるように高尿酸血症も痛風、尿管結石以外の病態は、進行しても症状が出ません。患者さんには、血清尿酸値が高い状態が続けば、重大な心血管イベントを引き起こすリスクがあることや腎機能低下による透析導入の可能性があることを説明していますが、なかなか自分ごととして受け止められないようです。このことは生活指導や薬物療法に対する患者さんのモチベーションが上がらない大きな要因です。
自覚症状に乏しい生活習慣病への介入の工夫
どの生活習慣病にもいえることですが、患者さんの長年の習慣を改善するのは容易ではありません。そのため、生活指導においてはむやみに厳しい制限を課すのではなく、患者さん個々に普段の生活で何ができるのかを一緒に考えるようにしています。
また、当院ならではの取り組みとして手ごたえを感じているのが、心肺運動負荷試験(CPX)を活用した運動耐容能の評価です。当院では2017年に、心血管疾患治療後の心臓リハビリテーション用にCPXを導入し、患者さん個々に適切な運動療法につなげています。CPXのよさは、運動開始時、3ヵ月後、6ヵ月後、1年後の変化がみえる化できる点で、「あなたの心肺能力はここまで上がりましたよ」と数値で示すことで患者さんは喜び、もっと頑張ろうと意欲が増すようです。
我々医療者も、数値がよくなれば必ず患者さんの頑張りを労い、褒めて支援します。それにより患者さんの運動耐容能が増大する好循環を実感しており、生活指導は厳しい制限だけでなく、客観的指標で評価すること、患者さんの自己満足感を高めることがポイントになると感じています。
尿酸降下療法におけるエビデンス創出への期待
薬物療法では時にガイドラインを持ち出し、病型分類までして治療の意義を説明しますが、痛風発作で痛い目にあった患者さんも、発作急性期の治療を終えると来なくなることがあります。そもそも、痛風発作時に尿酸降下薬が開始できないことで、患者さんは「あの激痛を取り除くのに関係のない薬」というイメージを抱いてしまうようです。
これまで多くの生活習慣病の患者さんを診てきましたが、薬物療法で最もアドヒアランスがよいのは高血圧です。その次が糖尿病、脂質異常症と続き、高尿酸血症になると患者さんのモチベーションは大幅に低下します。それは患者さん側の問題というより、むしろ高尿酸血症は何が怖いのか、我々がクリアカットに伝えきれていないことが大きいように思います。
心血管イベントリスクや腎機能低下との関連についても、多くの患者さんが生活習慣病を重複しているなか、血清尿酸値がどこまで独立して影響を及ぼしているのか、十分に説明できるエビデンスに乏しい状況です。
逆に、狭心症や心筋梗塞はコレステロールを下げれば発症率、死亡率は減らせるといわれていますが、いくら適切に管理をしてもゼロにはなりません。そこに別の要因が関与すると考えられるなかで、高尿酸血症はもっと注目されてよいかもしれません。腎臓領域に目を向けても、高尿酸血症の是正による腎機能改善効果はさらに検討されるべきでしょう。
私自身、正直なところ、かつては高尿酸血症に関する理解があやふやな時期もありました。開業後、多くの患者さんを診ながら理解を深めてきましたが、やはり医師自身が高尿酸血症の治療の重要性を認識していないと、それは間違いなく患者さんに伝わってしまいます。
そのため、今後、高尿酸血症領域で医師自身が十分に納得できる、説得力のあるエビデンスが蓄積されていくことを期待しています。私にとってまだまだ未知の世界ではありますが、高尿酸血症は発展していく余地のある領域だと思っています。
患者さんの不安を取り除き、よりよい治療を
2006年に東加古川で開業して、早くも15年以上が過ぎました。多くの患者さんを診るなかで痛感するのが、医療とは体を診るだけでなく、「患者さんの不安を取り除くこと」だということです。もちろん患者さんの受診の主目的は病気の治療ですが、治療に伴う苦痛や生活、将来に関する心配事やストレスをできるだけ取り除き、安心して治療に専念してもらいたいと思っています。
そのための具体的な取り組みとして、1つは地域での連携を重視しています。私自身は循環器専門医かつかかりつけ医として、当院を頼ってこられた患者さんのどのような症状にも対応しますが、ひとたび専門外と判断すれば、患者さんの希望も踏まえて連携先施設へ紹介しています。近隣には病院勤務時代から親しくしてきた他科の先生や医師会の先生方が多く、緊急を伴う患者さんは今でも電話1本で受け入れていただける体制が整っております。緊急性の高い疾患でも迅速に対応できるため、患者さんとご家族の安心につながっていると思います。
また、当院はクリニックとしては全国でもいちはやく電子カルテを導入したのですが、当初は入力に没頭するあまり、つい患者さんから視線が逸れがちでした。そこで、入力作業はクラークに任せ、私は診療に集中する体制を敷いたのですが、この判断は正解でした。今は、患者さんが診察室に入った瞬間の表情、態度から話しぶり、退室までの様子をつぶさに観察することができています。私の「こんにちは」に対する患者さんの反応から、初診であってもその人の心理状態、生活背景までみえてきて、興味深いものがありますね。
診察室では、病気以外の話題に耳を傾けることもあります。日常生活の悩み、人間関係、時にペットの様子まで話題にのぼることがあります。でも、それで心が解けるんですよね。医師と患者さんですからなあなあの関係にはなれませんが、どんなことでも話しやすい雰囲気を心がけ、患者さんが安心して治療を受けられるクリニックとして、地域医療に貢献していきたいと思います。