#06名倉医院駅前クリニック
https://nagura-iin.com/ekimae/
東京都足立区千住3-98-301千住ミルディスⅡ番館3F
副院長名倉 直重先生
250年間、代々医業を営む
当院は東京都足立区千住にある名倉医院の分院として、2004年に開院しました。本院は1770年に名倉直賢が接骨医として開業して以降、代々受け継がれ、現在は8代目にあたる父が診療にあたっています。250年前の開業当時はまだ西洋医学が伝来しておらず、いわゆる「骨接ぎ」として骨折や脱臼、打ち身、捻挫など外傷患者の治療にあたっていました。接骨木(ニワトコ)を主原料とした「黒膏」という練り薬を独自に開発し、多くの患者さんに使用しましたが、その製法は代々継承され、現在も希望する患者さんへ提供しています。
私は一人っ子ですが、幼いころから父の跡を継ぐつもりはなく、親から過度に期待されることもなく、英語教師になるのが夢でした。しかし高校3年生になり友人と将来の話をするなかで、ふと教師より医師に向いているのではないかと思い、急遽進路を変え東邦大学医学部に進学しました。整形外科医である父の姿をみながら育ったためか、医学部時代は次第に整形外科に目が向くようになり、北里大学病院整形外科に入局しました。その後、「肩腱板断裂における疼痛関連因子の検討」をテーマに博士号を取得しました。現在は当院の副院長として名倉医院の伝統を受け継ぎながらも、最新医療の提供を目指し、日々診療にあたっています。
北千住の地で、幅広い年齢層の痛風患者に対応する
当院は、JRをはじめ5路線が乗り入れる巨大なターミナル駅である北千住駅のほぼ駅前にあります。地元はもとより、埼玉県や千葉県など多方面から多くの患者さんが受診し、近年は駅前再開発や大学誘致が行われたことで、年齢層も子どもから若者、高齢者までさまざまです。
対象とする疾患は、外傷を中心に変形性関節症や四十肩、五十肩、膝の痛みなどの慢性疾患から高尿酸血症まで多岐にわたり、2021年はコロナ禍にありながら、平均約3,000名/月の患者さんが受診されました。高尿酸血症の患者さんは痛風発作を機に受診するケースがほとんどです。2021年に痛風発作で受診した患者数はおよそ200名で、40〜50歳代の男性が中心ですが、最近は20歳代の若い年齢層も見受けられます。
初診では回帰性リウマチや蜂窩織炎などとの鑑別が重要となりますが、安静時の激痛という痛風の典型例を示す患者さんが多く、診断は比較的容易です。診察室に入ってきたときの雰囲気、血液検査値とレントゲン検査、場合によっては超音波検査による画像所見で、ほぼ診断がついている状況です。
「あの痛みをもう経験したくない」患者への対応
患者さんは診察中に「この激痛を何とかしてほしい」と必死に訴え、多くの方は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を用いて4〜5日で軽快します。それらの内服と湿布の初期治療により激痛の鎮静を図り、発作が落ち着いたころ尿酸値の安定化に向けた治療を開始します。
痛風発作は激痛を伴うため、発作を経験した患者さんは、無症候性高尿酸血症の患者さんに比べて尿酸降下療法の意義について納得しやすい印象です。実際、「あの痛みをもう経験したくない」という思いから服薬アドヒアランスは良好であり、食事療法や運動療法に関する説明にも熱心に耳を傾けてくれます。
しかし、発作の間隔は多くが年1回程度です。痛みが鎮静化し、発作が起こらないまま月日が経つと、「もう大丈夫かな」と油断するのでしょう。次第に服薬がおろそかになる患者さんが増えてきます。このように「喉元過ぎれば熱さを忘れる」状況ですが、痛風発作は忘れたころにやってきます。しかも、発作の再発はもちろん、高尿酸血症が持続することによって、脳血管障害や腎機能障害のリスクを招く事態にもなりかねません。リスク軽減のためにも服薬を継続し、血清尿酸値≦6.0mg/dLのコントロールを目指すことが重要であると、患者さんには繰り返し伝えています。
生活指導、薬物治療のポイントと工夫
高尿酸血症の治療においては生活習慣の改善を重視し、食事やアルコール摂取の見直し、運動の重要性について説明しています。患者さんから受ける質問で多いのはアルコールに関するものです。なかでも「蒸留酒なら飲んでも大丈夫ですよね?」と聞かれることが多く、アルコールそのものが尿酸値を上昇させることを知っている患者さんは稀です。お酒の種類よりも量が重要であること、また一気飲みは絶対によくないことを伝えて、週2日以上の禁酒日を設けるよう勧めています。
運動については、激しい筋力トレーニングや炎天下での運動は尿酸値を上昇させるリスクがあるため、個人の身体能力にあわせた運動を適切な環境下で継続することをアドバイスしています。できれば1日30分以上の有酸素運動が望ましいですが、働き盛りの世代では時間の確保が難しいようで、スキマ時間の活用を推奨しています。個人的にお勧めしたいのはスロージョギングです。一般的なジョギングよりは速度が遅いものの、エネルギー消費量はウォーキングの2倍以上あり、運動習慣のない方でもはじめやすいと思います。
薬物治療においては、尿酸生成抑制薬を第一選択薬としています。投与後、一定期間後に血清尿酸値を再検し、その結果を踏まえて次の処方を考えていきます。尿酸値の下がり具合が思わしくないときには高尿酸血症の病型分類に即した薬物治療の見直しを検討しますが、整形外科である当院は尿検査を行える環境にないため、内科の先生にお願いすることになります。当院は商業施設内のメディカルフロアに入居しているので、患者さん個々の病態に応じて、同フロア内にある各科の先生方に紹介し連携を図っています。
今後の展望
「人生100年時代」といわれる時代です。整形外科医として、いかに関節機能を温存して筋力低下を防ぎ、患者さんに長い人生を元気に生き抜いてもらうかを考えなければならないと感じます。ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイルという概念が示すように、課題解決に向けて臨床で研究を重ね、個々の患者さんにフィードバックしていきたいと思います。
また、私はこれまで整形外科の臨床において外傷のみならず、加齢による変性疾患も数多く診てきました。そこから次第にアンチエイジング医学にも興味が湧き、独学ではありますが少しずつ勉強を続けています。尿酸は抗酸化作用を有する点で、アンチエイジング医学の観点からも興味深い物質です。今後は、当院でも患者さん個々の病態に対し、痛風・高尿酸血症を含めてアンチエイジングの観点に基づいた包括的なアプローチを実践していきたいですね。
当院は開業から18年目になりますが、時代の流れに取り残されないよう社会のニーズに応えながら、これからも新たなチャレンジによってさらなる発展につなげていきたいと考えています。