#04医療法人トマト会
トマト内科糖尿病・高血圧・甲状腺クリニック
https://tomatoclinic.jimdofree.com/
栃木県宇都宮市西川田町851-2
院長増渕 孝道先生
院内迅速検査を柱に据え開業
私は東北大学卒業後、民間企業で電子楽器の開発を手がけていました。新しい発想による技術開発なども行っていましたが、なかなかユーザーの顔がみえづらい世界でした。そのため患者さんと密に接する医療の世界に関心が高まり、名古屋市立大学医学部に入学しました。卒業後、勤務医として複数の基幹病院で経験を積み、2017年に現在地で開業しました。
私が専門とする糖尿病、高血圧、甲状腺疾患、代謝疾患などの慢性疾患は、自覚症状に乏しいものの重症化すると予後に大きな影響を及ぼします。継続して受診することが重要となるため、開業にあたっては、患者さんにとって快適で利便性に優れたクリニックであることをめざしました。
たとえば、待ち時間をゆったりと過ごしていただけるよう高い天井と大きな窓で広々とした待合室を設け(写真1)、計画換気を行い清潔な空間を作っています。
また、特殊な検査以外は院内で検査できるようにすることで、患者さんが受診したその日に検査結果がわかることを一つの柱としました(写真2)。これにより、患者さんは結果を聞くために再受診する必要がありません。1ヵ月前の採血結果をみてもピンと来ませんが、即日結果なら「やはり昨日は飲み過ぎたかな」と振り返りやすく、次回受診までの治療のモチベーションとなり得ます。さらに検査項目には、県内の比較的大きな病院でも測定を行っていない甲状腺自己抗体の甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体、サイログロブリン(Tg)抗体も含めました。そのため「喉が痛くて他院で検査をしたけれども、検査結果が出るのは3日後以降で気になって」と受診する患者さんもいるほどです。
痛風患者さんへの指導の実際
現在、1日の外来受診者数は平日140〜150名、土曜日がおよそ200名で、3,000名以上の患者さんが当院に通院しています。
疾患内訳で最も多いのが糖尿病で、甲状腺、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症の順に続きます。高尿酸血症の病名が付いている患者さんは400名を超えますが、多くが痛風発作をきっかけに受診した方々です。血清尿酸値の急激な低下により発作を呈したケースもありますが、血清尿酸値が11.0〜12.0mg/dLと高値の患者さんもおります。そのような患者さんは、30〜40代の男性が中心です。また、たびたび痛風発作を繰り返している方も多いのですが、当院を受診するまで「しっかり尿酸値を下げないと再発作の危険性がある」といった説明や、具体的な指導は受けていない方が多いようです。
しかしながら、関節内にできた尿酸塩結晶は、消失するまでに数年かかります。尿酸降下療法の目標値は血清尿酸値6.0mg/dL以下ですが1)、高尿酸血症の患者さんの多くはアルコール過剰摂取です。検査に来た日は6.0mg/dL以下でも、飲酒により容易に7.0~8.0mg/dLに戻ってしまうため、当院では、5.0mg/dL以下に抑えることを目標として指導を行っています。
患者さんには受診のたび、尿酸結晶の尖ったイラストをみせ、「これが消えるのには、1年通院した人でもあと2年は今の尿酸の数値を保つ必要があります。飲み忘れると次の日は上がりますよ」と強調しています(写真3)。痛い目に遭っている患者さんには効果的なようで、繰り返し指導を行うことで常に5.0mg/dL以下を保てるようになります。
無症候性高尿酸血症患者さんのアドヒアランス維持のコツ
一方、無症候性の場合、6.0mg/dL以下をめざせば痛風発作抑制が期待できますが、患者さんは症状がないと薬は飲みたがりません。高血圧は、心臓や脳の病気につながるのでしっかり治療しなければと認識しているようですが、高尿酸血症に関する病識はまだ十分とは言えません。
そのため、初診時から高尿酸血症治療の必要性を伝え、患者さんが「まだ大丈夫」といえばいったん治療介入は見送ります。そしてある日突然、発作を起こして駆け込んでくる患者さんがいれば、そのときをチャンスと捉えて治療開始に結びつけています。
また、「高尿酸血症患者さんの5人に1人は腎機能が低めで、血清尿酸値が高いままだといずれ透析導入の可能性がある」と伝えると、大きなショックを受けるようです。腎機能低下と絡めて高尿酸血症治療の重要性を伝えると、患者さんの多くは積極的に治療に取り組むようになります。
また、医師と患者間で治療目標を共有することも意識しています。これは高血圧にもいえることですが、意外にも患者さんに降圧目標について具体的数値で伝えられていないことは多いようです。医師は当然認識しているはずですが、それを患者さんに伝えない限り、「なぜこの薬を飲んでいるのだろう」という思いで治療脱落することもあると思います。
地域における他施設との連携の考え方
また、最近は検査結果から異常を発見したのち、他科や大規模病院への紹介を検討する機会も増えてきています。
たとえば、これまで痛風なのか偽痛風なのか判然とせず、痛みを引きずる患者さんに整形外科を受診してもらったことが何度かありました。痛風の場合は痛みをしっかり取ってから尿酸降下療法に移りますが、感染性関節炎ならステロイド投与で逆に悪化するおそれもあります。安心して尿酸治療に専念するためにも、やはり偽痛風、感染性関節炎などが疑われる患者さんは、関節穿刺の検査を行える施設との連携を強化していきたいと思います。
また、高尿酸血症の患者さんは心筋梗塞の併発も多くあります。血清尿酸値に加えLDL-Cも高く、喫煙者であれば要注意で、トロポニン高値などから心筋梗塞が疑われれば近隣大学病院や基幹病院に紹介しています。
このように適切な段階での紹介は重要ですが、通院負担が増えるなど、ときに患者さんにとってデメリットが大きくなるおそれもあります。そのため、紹介については患者さん個々の生活背景なども見極めながら判断することが重要と考えています。
開業から4年、さらなる機能拡充をめざす
2017年に開業し、ようやく軌道に乗りかけたと思っていた頃、思いもよらずコロナ禍に直面することとなりました。幸い、患者さんの受診動向に大きな変化は見受けられませんでしたが、さまざまな運動プログラムを提供する併設スタジオ、カフェをいったん閉じざるを得なくなったのは残念でした。感染対策上仕方のないことですが、今後、様子をみながら再開し、より多くの地域住民に親しんでもらいたいと思います。
また、当院は検査機器が充実しているため、今後もニーズの増大とともに患者数増加が見込まれ、スタッフもその状況に対応できるだけの人数を揃える必要があります。当院はもともと女性スタッフが多く、非常勤を含め現在27名が働いてくれていますが、開業から4年ですでに5名が出産して「ハッピークリニック」と呼ばれているほどです。そうした働き盛りのスタッフを積極的に雇用し、1人、2人が休んでも問題なく対応できる人員を確保していきたいと思っています。
さらに現在、宇都宮市内にサテライトクリニックの開業を予定しており、人員についても募集中です。当院のコンセプトをより広い地域に普及させ、多くの地域住民の健康維持に貢献していきたいと思います。
References
1) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会(編).高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版.東京:診断と治療社;2018.