#02医療法人社団幾晃会
木原循環器科内科医院
https://kiharajunkanki.com/
北海道旭川市4条通22丁目
院長木原 一先生
豊富な人脈を活かし
循環器領域の専門性を追求
私は日本大学医学部を卒業後、循環器内科で心エコーグループに所属し、そのまま勤務医として診療を続けていく考えでいました。ところが医師になって7年目、旭川で開業していた叔母に手伝いが必要となり、大学病院を辞めて旭川に移ることとなりました。今から35年前、1986年のことです。
「自分は開業医としてやっていけるのか」と不安でしたが、旭川に来てからも循環器専門医としての知識やスキルを維持すべく、勉強会や学会に参加し続けてきました。そして最先端の医療機器を配置し(写真)、ペースメーカーやカテーテルなどの専門的治療も手がけようと、1992年には現在地の4条通に移転しています。
移転を機に、当院の検査技師にトップクラスの心エコー技術を習得してもらうべく、心エコーの巨星と称される吉川純一先生にご指導をお願いしたことがありました。そこから吉川先生の門下生との人脈が広がり、現在も伊藤浩先生(岡山大学循環器内科 教授)などと交流が続いています。岡山大学主体の多施設共同研究MUSCAT-HF studyには当院から最も多い症例数を登録し、2019年のESC(Paris)では「Drug effect of luseogliflozin and voglibose on heart failure with preserved ejection fraction in diabetic patients: a multicenter randomized-controlled trial」というタイトルで口述発表の機会もいただきました。
また、私が開業後にカテーテルの手技習得のため大野記念病院に出入りしていた経験から、齋藤滋先生(現・湘南鎌倉総合病院 総長)とも交流があり、現在、多くのスペシャリストが当院の診療をサポートしてくれています。
密な連携で、
患者さんに最先端の治療を提供
当院が目指すのは、「患者様中心のよりよい医療」と心の通った診療です。そのため、地域に密着し、地域住民の皆さんから信頼される医療を基本とします。ただ、医師として親しみをもたれることは重要ですが、日進月歩の循環器診療において、知識やスキルが時代の水準を満たしていないと信頼を得ることはできません。
開業医はどうしても日々の診療に追われ、知識やスキル面のアップデートがおろそかになりがちです。そこで私は時代の水準プラスαのレベルを目指すべきという考えで、吉川先生の門下生や齋藤先生などトップクラスの先生方の情報に耳を傾け、COVID-19感染拡大の前は休日のほとんどを講演会や学会参加に充ててきました。また、アクティブな循環器専門医かつ開業医のグループであるJCCN(Japan Cardiologist Clinic Network)にも参加し、最新情報のキャッチアップに努めています。
一方、地元旭川や札幌との連携も密にしています。ロータブレーターやダイアモンドバックなどの特殊カテーテルが必要な患者さん、TAVIを要する患者さんは札幌東徳洲会病院へ、そして透析の内シャント増設は旭川医大へお願いしており、「札幌東徳洲会病院や旭川医大の先生達と強い連携があるなら」と患者さんたちは安心されています。
高尿酸血症の患者背景と治療の現状
現在、当院の外来受診患者さんは1日150名程度、若いメタボリックシンドロームの患者さんもおられますが、大半が中高年のCKD合併例です。eGFR 60以下で、高血圧、糖尿病、心不全などを合併している、または虚血性心疾患でステント治療歴があるといったパターンです。
これまで尿酸生成抑制剤ではフェブキソスタットを500~600名、トピロキソスタットを400名程度、尿酸排泄促進剤はベンズブロマロンを40~50名に導入してきました。私自身尿酸降下薬を処方するのは、背景因子としてのレニン・アンジオテンシン系亢進や交感神経系活性化、神経体液性因子活性化などを理解してのことであり、尿酸値が7.0mg/dLを超えれば病態を考慮しつつ投薬開始を検討しています。
しかし、他院から移ってきた患者さんを診ると、尿酸値が8.0mg/dL近くでも放置されているケースは珍しくはありません。仮に尿酸降下薬が入っていても、「痛風になったら困るから」程度の認識で処方されているケースが少なくないように感じています。
選択肢が増えた
尿酸降下薬についての考え方
私のなかで、尿酸降下薬ではXOR(キサンチンオキシダーゼ)阻害薬を第一選択と位置づけていますが、当院では前述のとおりCKD合併例が多いことから、腎機能低下があってもステージ3bまでは用量調節の必要のないトピロキソスタットは有用です。
ただ、トピロキソスタットは1日2回服用の用法となるため、なかにはそれを煩雑と捉えて敬遠する患者さんもおられます。そのような場合、「尿酸を生成するXORは夜間に活性するので、それを抑えこむため、昼だけでなく夜にも飲むことが大切なんですよ」と説明すれば、大半の患者さんは「なるほど」と納得されます。
また、ドチヌラドはURAT1阻害を介した近位尿細管での尿酸再吸収抑制により尿酸値を低下させる機序が注目されます。当院は60日処方が中心であるため、2週間処方の制限がある間は様子見となるかもしれませんが、メタボリックシンドロームで体液貯留がある患者さんの場合、ナトリウム再吸収抑制なども期待できて合理的な処方になると考えられます。そこで今後は高尿酸血症治療の選択肢の一つとして、尿酸排泄促進薬にも着目していくつもりです。
高尿酸血症治療で
アドヒアランスを維持するコツ
尿酸降下薬による治療の目標は血清尿酸値を6.0mg/dL以下に維持することですが、一般的に高尿酸血症のマネジメントは不十分といわれます。治療アドヒアランスは長期にわたる投薬治療の効果を左右する重要な因子となりますが、当院の患者さんにおいては、アドヒアランス不良が問題となるケースはほとんどないように思われます。それは残薬確認の状況からもいえることです。
高尿酸血症の治療に限らず、しっかり治療薬を服用して、その結果数値がよくなっていれば誰しも嬉しく思うものです。そこから服用のモチベーションが上がり、さらに数値がよくなる好循環が生まれるのは1日2回の薬であっても同じでしょう。
ただ、そこにはやはり医師の熱意が影響してきます。当院の患者さんも、尿酸降下薬の治療開始を提案すると、大半は「今は何ともないので必要ない」といわれます。それでも私は引き下がらず、「飲むお薬が多いなか、さらに増えて申し訳ない。でも尿酸のお薬はあなたの将来の健康を守るため絶対必要なんです」と説明を尽くします。すると「先生がそういうなら」と患者さんも首を縦に振ってくれて、その後の長い服用遵守につながっていきます。
患者さんのアドヒアランス維持には、多少おせっかいなくらいの医師の本気度と、伝え方の工夫が必要かもしれません。
患者さんの信頼を裏切らない、
よりよい医療の提供をめざす
このような治療に関する説明で患者さんの納得を得るには、十分な信頼関係が築かれていることが前提となります。そのため私は、長年安定して診ている患者さんであっても、受付時間終了後に来院されるようなことがあれば、必ず対応するようスタッフに徹底しています。
そして、患者さんには厳しく指導するだけでなく、時にはユーモアをもって接します。高尿酸血症では食事指導も重要ですが、服薬に加え食事までとなるとさすがに患者さんも窮屈だと思うのです。私自身、ビールやワインが好きですし、そうした弱みもみせつつ、「ビールは飲んでもいいけど、尿酸値が6.0mg/dLを超えないようお薬もしっかり飲みましょう」と伝えています。すると患者さんもどこか安心できて、治療に前向きになれるように感じます。
私も60歳を過ぎて体力的に辛い日が増えましたが、スタッフの力も借りて、「当院を頼ってきてくれる患者さんの信頼を失ってはならない」と懸命に対応しています。その甲斐あってか、当院ではCOVID-19感染拡大の影響をほとんど受けることなく、外来も病室も忙しい日々が続いています。
これからも最新の知識やスキルの把握に努めながら、「患者様中心のよりよい医療」を提供することに努めていきたいと思います。