患者さん目線で考える
栄養管理最前線

各先生のご所属等は掲載当時のものです。

第3回

肥満を有する糖尿病について

菅野 丈夫 先生
神奈川工科大学健康医療科学部
管理栄養学科実践臨床栄養学研究室 教授

はじめに

2型糖尿病はその背景として内臓脂肪型肥満によるインスリン抵抗性を有することが多く、食事療法による肥満の是正は臨床上、重要な意義を有する。減量に伴う内臓脂肪の減少は肥満に伴うさまざまな合併症の改善が期待できる。今回は、糖尿病患者に対する食事療法のポイントとして「適正なエネルギー量」、「適正な栄養バランス」、「規則正しい食生活」の3本柱(1)を掲げ、患者個々において実効性の高い食事療法の考え方とコツを紹介する。

食事療法、その前に

糖尿病における食事療法は長期的に継続する必要がある。そのため、1)の食事療法を始めるにあたっては、まずは患者自身が「頑張ってみよう」と前向きに取り組む姿勢を引き出すことが重要である。なぜ食事療法が必要なのか、どのようなメリットが得られるのかを患者自身が理解し、納得することは、食事療法をスタートするうえでの大前提となる。そこから、個々の病態や食習慣、食の嗜好性、年齢などを考慮し、患者本人の意向も反映したうえで柔軟かつ実施可能な対応を考えていくとよい。
 糖尿病患者では血糖コントロールが不良であるだけでなく、内臓脂肪の蓄積により高血圧や脂質異常症、脂肪肝を有することが多い。また、高度肥満症の場合は、関節症による痛みに悩まされていることも少なくない。このような患者で大幅な減量が達成できれば、合併症の検査値が改善し、関節の痛みも軽減して、予後への好影響も期待できる。
 「減量でどのような効果が得られるのか?」を理解することで、患者は病気を自分ごととして捉え、糖尿病の治療に前向きに取り組めるようになる。


糖尿病患者に対する食事療法の3本柱

文献1)より筆者作成

「適正なエネルギー量」の求め方(図)1)

食事療法においては、まずは個々に適正なエネルギー摂取量を設定する。エネルギー摂取量は、「目標体重×エネルギー係数」で算出される1)
 これまでエネルギー摂取量は、目標体重をボディマス指数(BMI)22として設定されていたが、高齢者の場合、過度の減量はサルコペニアの原因となる可能性があるとの考えから、現在は年齢により異なる目標体重の目安が推奨されている。65歳未満ではBMI 22を目指すべく「身長(m)2×22」により算出するが、それ以上の年齢では身体状況などの評価を踏まえてBMI 22~25の範囲で適宜判断する1)
 エネルギー係数は、身体活動レベルに基づき「軽い労作:25~30kcal/kg」、「普通の労作:30~35kcal/kg」、「重い労作:35kcal/kg~以上」とする1)。肥満を有する場合のエネルギー係数は実際の身体活動よりも小さい係数を設定することが提案されている1)
 ただ、目標体重と患者の実際の体重との間に大きな乖離がある場合は、一律にこの算出方法を用いるのは現実的ではない。患者のアドヒアランスや身体状況の変化も踏まえながら適宜変更するなど、柔軟な設定を行う。
 なお、これらはあくまでも治療開始時の目安量であり、体重の増減や血糖コントロールの状況を勘案し、適宜調整することが重要である。


適正なエネルギー量の求め方

文献1)より筆者作成

「適正な栄養バランス」は何を重視する?

栄養素のバランスについては、先に設定したエネルギー摂取量に対し、15~20%をタンパク質から、20~25%を脂質から、50~60%を炭水化物から摂取するとされている1)
 ただ、食事療法を始める際、エネルギー摂取量設定に加え厳密な栄養バランスまで求めると患者の受容が困難となる場合もある。
 そのような場合は、まずはさまざまな食品をまんべんなく食べてもらうことを目的として、筆者は「毎食、3つの食品を摂りましょう」とシンプルな説明から始めている。「3つの食品」とは、主食(ご飯、パン、麺類)、主菜(肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品から1品ないし2品)、野菜であり、主食で炭水化物、主菜でタンパク質、野菜でビタミン、ミネラル、食物繊維が摂取できる。
 脂質も重要なエネルギー源であるが、主菜を食べることや調理の過程で意識せずとも摂取できる。現代の食生活ではどちらかといえば過剰気味であり、不足の心配はまずない。

肥満患者にどう「規則正しい食生活」を提案する?

肥満患者では、過食、早食い、夕食偏重など、さまざまな食行動の特徴が認められる。食事療法では、個々の患者の食行動における問題点を明らかにし、実施可能な改善策を提案することが重要である。
 夕食偏重の患者には、まずは「夕食の量を4分の1くらい減らしましょう」と提案する。すると患者は起床時に空腹を感じ、抜いていた朝食を摂るようになり、「朝食はどんなものを食べればよいですか」と質問するようになる。
 早食いの場合は、食べる際によく噛み咀嚼することで、食後高血糖の是正に繋がることを説明する。食物繊維の豊富な野菜から食べ始めることも食後高血糖の上昇を抑制し、ヘモグロビンA1c(HbA1c)の低下や体重減少に繋がるという報告がある2)
 また、肥満患者は間食を好みがちだが、その場合は設定したエネルギー摂取量は守りつつ、「ケーキを食べたければその分昼食の量を減らし、食後に食べるとよいですよ」と指導し、食事療法からの脱落防止に繋げている。

高齢者への指導の実際

食事療法におけるさまざまな目標や設定は年齢も考慮する必要がある。高齢者の場合、特に75歳以上では社会生活における活動性が低下しており、減量により筋肉量も減少しやすい。そのため、目標体重の根拠となるBMIは身体状況などの評価を踏まえ、BMI22~25の範囲で適宜判断するとされている1)。これは、以前ならBMI25では是正が求められたが、日常生活動作(ADL)やフレイル、摂食状況や代謝状態などの評価を踏まえ、一定の幅をもたせるべきとの考え方に基づく。エネルギー係数もフレイル予防のため、実際の身体活動より大きい係数を設定することが提案されている。同時に筆者は散歩や有酸素運動など、身体をよく動かすことも勧めている。

継続を考慮した食事療法のコツ

食事療法では厳密さを求めすぎると、患者は頭で理解できても日常生活では継続できない。食事療法では、患者が「この程度ならできそう」と思える現実的な目標設定を行い、脱落防止に繋げることが大切である。

食事療法では、手の込んだ調理が必要?

「3つの食品を摂りましょう」というと、患者は朝食でも「ご飯と焼き魚とホウレンソウのおひたし」といった手の込んだメニューを想起しがちである。実際には、「パンと牛乳、野菜ジュース」といった調理不要な食品でも十分と説明しておく。

タンパク質は、肉より魚で摂るべき?

肉の脂質は飽和脂肪酸が多く、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールの上昇を招き動脈硬化を促進させるため、n-3系多価不飽和脂肪酸が豊富な青魚が推奨されている。ただし大切なことは、まずは主菜をしっかり摂ること。脂肪酸組成にこだわりすぎる必要はない。

空腹が苦しいと訴える患者への対応は?

空腹の感覚を苦痛に感じる患者は多い。そこで「空腹とは、血糖値が下がり、体脂肪が燃焼しているサイン。体が痩せようとしているときですよ」と説明しておく。すると患者も「お腹が空くと“やった!”と思えるようになった」とポジティブに捉えるようになる。

食事療法から脱落しそうな患者への対応は?

患者の脱落を阻止するには、食べたものや体重を記録するセルフモニタリングが有効である。最近は食事の写真をスマホで撮るだけで瞬時にカロリーを推定するアプリもある。毎日同じ条件下(起床時排尿後など)で行う体重測定も簡便で患者に勧めやすい。

食事療法を始めた後

糖尿病は自覚症状に乏しい病気である。しかし、食事療法により体重が減ると血糖値、HbA1c、コレステロール値、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)などの検査数値が改善し、血圧も低下する。それにより自己効力感が高まり、糖尿病の治療により前向きになる患者は多い。
 そのため、目標体重を達成するまでは診察と同時のタイミングで栄養指導を行い、達成後も3~6ヵ月に1回程度の介入で維持を目指すことが望ましい。
 ただし、糖尿病患者の食事療法において、主治医が1人の患者にかけられる時間は限られている。特にクリニックは外来患者が多く、患者の食事内容を把握し、減量の重要性を理解させたうえで個別に指導を行うのは難しい。できれば常勤の管理栄養士による指導が理想だが、難しい場合は栄養ケア・ステーションなど外部との連携による指導も検討するとよい。
 糖尿病治療において食事療法は生涯にわたる治療法である。したがって、患者個々に合った方法で、しかも治療効果が得られる方法でなくてはならない。それが自己効力感を高めることに繋がり、長続きさせるポイントと考える。

References
1) 日本糖尿病学会(編).糖尿病治療ガイド2022-2023.東京:文光堂;2022.
2) Imai S,et al.Asia Pac J Clin Nutr.2011;20:161-8.