患者さん目線で考える
栄養管理最前線

各先生のご所属等は掲載当時のものです。

第4回

食塩制限について

菅野 丈夫 先生
神奈川工科大学健康医療科学部
管理栄養学科実践臨床栄養学研究室 教授

はじめに

人間にとって食塩(NaとCl)は生命の維持に不可欠な栄養素である。WHOでは、生命維持に必要な最低限の食塩量を1日0.5g~1.3gとしている。しかしながら現代社会においては、食塩はむしろ過剰摂取が問題視されている。日本人の食塩摂取量は徐々に減少傾向にあるものの、平均して10g/日前後で推移しており、依然として多い。食塩の過剰摂取は、高血圧や、脳・心血管疾患などの重大なイベントを引き起こすリスクとなることも証明されており、健康寿命延伸をめざすうえでも食塩制限は重要である。今回は、日常生活において無理なく、かつ安全に実施できる食塩制限の考え方、コツを紹介する。

なぜ食塩制限が必要か

食塩制限は、高血圧、脳血管疾患、心疾患、腎疾患など多岐にわたる疾患で行われている。一般的になじみのある食事療法であり、健康な人でも「塩分の摂りすぎは体によくない」と認識している。

食塩過剰が問題となる疾患として、まずは高血圧が挙げられる。食塩摂取によりナトリウムを過剰に摂取すると血漿浸透圧が上昇し、視床下部浸透圧受容体が刺激を受けて飲水行動を惹起させ、水分摂取量が増える。これにより循環血漿量が増加し、血管にかかる圧が増加して血圧が上昇する。同時に、視床下部浸透圧受容体刺激により抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が亢進されるため、遠位尿細管~集合管での水の再吸収が促進され循環血漿量が増加し血圧が上昇する。

高血圧により血管への圧がかかり続けると動脈硬化が進展し、脳・心疾患をはじめとする重大なイベントを引き起こすリスクとなる。そのため、高血圧患者のみならず国民全体で血圧を低下させることが、健康寿命延伸をめざすうえでも重要とされている。

食塩制限6g/日未満とする根拠

食塩摂取量が血圧上昇と関連することは、古くからINTERSALT1)などの観察研究で指摘されており、食塩制限による降圧効果についてはDASH-Sodium2)やTONE3)などの介入研究で証明されている。

これらの結果からわが国の『高血圧治療ガイドライン 2019』4)では、高血圧患者における1日の減塩目標は6g未満とすることが推奨されている(推奨の強さ 1、エビデンスの強さ A)。海外のガイドラインでは、ACC/AHA2017高血圧治療ガイドライン5)はナトリウム1,500mg/日(食塩相当量3.8g/日)とする厳しい目標値を提唱しており、欧州のガイドライン6)やWHOの一般向けガイドライン(2012年)では食塩5g/日未満と、日本のガイドラインよりさらに厳しい減塩目標となっている。

一方、日本人の食塩摂取量は、徐々に減少傾向にあるものの、平成29(2017)年の国民健康・栄養調査7)では男性10.8g/日、女性9.1g/日と報告されており依然として多い。ちなみに都道府県別に食塩摂取量の平均値をみると、男女とも東北地方で多く、沖縄県が最も低いという傾向も認められる。なお、国民健康・栄養調査は、調査方法が対面での食事記録であるため、調査期間中の食事が通常と異なったり、過少申告であったりする可能性があり、実際の摂取量はさらに多いことも考えられる。

食塩制限は急がず、「段階的」に

食塩制限でまず重要なのは、段階的に制限を強化することである。ナトリウム摂取と排泄との関係を検討した研究において、ナトリウム摂取量240mEq/日(食塩相当量14g/日)を35mEq/日(2g/日)へと急激に減らした場合、ナトリウムが最終的に尿中に排泄されるには4~5日要することから、摂取量に比し排泄量が上回り、ナトリウムバランスと同時に水バランスもマイナスとなって脱水傾向となることが示されている8)

本研究では健常者を対象としているが、重症心不全患者に対する6g未満の食塩制限は死亡や心不全による入院リスクが上昇する9)ことや、心不全患者における食塩制限と利尿薬投与の実施は、死亡や心不全による入院リスクを上昇させる10)ことも報告されている。

そのため、心不全の管理において食塩制限は有用ではあるが、急激な制限には注意が必要である。病院食のうち特別な制限のない常食の食塩量は7.5g程度であり、そもそも日本人の平均的な食塩摂取量に比べて少ない。よって第1段階は常食で経過観察し、利尿薬により4~5日かけてナトリウムを排泄させたのち、第2段階で食塩制限食に切り替えるといった、段階的な食塩制限が望ましい。

外来での食塩制限、どう行う?

外来の指導では、まずは食塩摂取量の正確な評価を行い、具体的かつ実践可能な食塩制限を提案することが重要となる。そこで、食物摂取頻度調査などの簡便な調査法があるが、食事記録や聞き取り調査による食塩摂取量の把握は正確性に欠ける。

できれば尿中ナトリウム測定値から推定した1日尿中食塩排泄量の評価が望ましく、スポット尿か、可能であれば24時間蓄尿による食塩摂取量の客観的評価を行うとよい。24時間蓄尿も、3か月に1回くらいの頻度で実施すれば患者にとって大きな負担ではなく、「自分の体のことがよくわかる」、「慣れればチェックシートに記入するより楽」という声も聞かれる。

おいしい食塩制限の工夫

さらに食塩制限で重要なこととして、「おいしい減塩食」を挙げたい。「塩分の摂りすぎは体によくない」ことがわかっていても、慣れ親しんだ食事の味付けが大きく変わると、先に述べたように低栄養に陥る懸念や、食塩制限が続かない可能性もある。

以下に、1日の食塩摂取量を控えめにしてもおいしく食べることのできる工夫と、食塩制限を安全に行うための留意点を紹介する。

薄味よりも、食べる量を減らす

すべての料理を薄味にする必要はない。たとえば、漬物を大鉢に盛り、口さみしいときに食べていたような人なら、食事のときに小皿に盛って適量を食べるよう指導する。みそ汁なら味付けはそのままで、飲む汁の量を半分に、麺類は汁を飲み干さずに残す習慣をつけるとよい。

塩分控えめでもおいしく感じるマジック

食塩摂取量が多くなるような食べ方は控え、だしのうまみや酸味(レモンなど柑橘系の果物、酢)、香辛料(七味唐辛子、コショウ、ワサビ、練り辛子、スパイスなど)を活用する。焼き魚にはしょうゆが定番となりがちなところ、すだちやかぼす、レモン汁を振りかけると風味豊かになり、味が引き締まる。

コンビニエンスストアやスーパーの調理済み食品はどうする?

コンビニエンスストアなどの弁当や総菜を購入する際、栄養成分表示を確認する方法もあるが、食塩量だけで「買う・買わない」と決めるのは難しい。コンビニエンスストアの食品は全体的に味付けが濃いめであるため、付属のしょうゆやソースの使用は極力控える、付け合わせの漬物や佃煮などは残すという方法もある。

牛乳と和食が出会う、乳和食のすすめ

最近、「おいしい減塩食」の調理工夫の1つとして、乳和食が提唱されている。みそ汁、つけ汁、煮汁などに牛乳を加えることで、牛乳の味やにおいはせずうまみとコクが残るというもの。塩分過剰になりやすく、かつカルシウムが不足しがちな和食の欠点をうまくカバーすることが期待できる。

熱中症が危険な夏場、減塩はどうする?

夏は発汗によりナトリウムなどのミネラルが失われる。特に発汗が多い場合は皮膚からのナトリウム排泄が増加して脱水をきたしやすい。そのとき水だけを飲むと体液中のナトリウム濃度が低下し、体は水を吸収できずに尿として排泄してしまう。運動や作業などで過度に発汗があったときは、スポーツドリンクなどで水分とともにナトリウムも一緒に補給することを指導しておく。

食塩制限、そもそも適している?

高血圧や慢性心不全の患者でも、食欲が低下し、食事が十分に摂れていないときは食塩制限の適応とはしない。たとえば、食塩6gの食事が半分しか摂取できない場合、食塩摂取量は3gとなっており、ナトリウムの不足から脱水をきたしやすい。このような場合は、食塩制限を一旦解除し、食欲の回復を促すことが大切である。

さいごに

2023年4月より4回シリーズにて「患者さん目線で考える栄養管理最前線」の記事を掲載したが、共通メッセージとして「患者の理解と納得」、そして「無理なく続けられる工夫」を挙げたい。また、患者自身の努力だけでなく、周りの方(医療スタッフ、ご家族など)の協力も大切である。今回の記事が少しでも先生方の日常診療のお役に立てば幸いである。

References
1) Intersalt Cooperative Research Group. BMJ. 1988;297:319-28.
2) Sacks FM, et al. N Engl J Med. 2001;344:3-10.
3) Whelton PK, et al. JAMA. 1998;279:839-46.
4) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編). 高血圧治療ガイドライン2019. 東京:ライフサイエンス出版;2019.
5) Whelton PK, et al. Hypertension. 2018;71:e13-e115.
6) Williams B, et al. Eur Heart J. 2018;39:3021-104.
7) 厚生労働省. 平成29年国民健康・栄養調査結果の概要. https://www.mhlw.go.jp/ content/10904750/000351576.pdf(閲覧:2023-10-30)
8) Simpson FO. Lancet. 1988;2:25-9.
9) Doukky R, et al. JACC Heart Fail. 2016;4:24-35.
10) Paterna S, et al. Clin Sci (Lond). 2008;114:221-30.