体育会系の部活を掛け持ちした大学時代
周囲に医療従事者や医療をめざす友人がたくさんいた学校生活のなかで、自然と医師の道を志しました。福井大学医学部に入学すると、バスケットボール部と水泳部を掛け持ちしました。気のあう友人たちにも恵まれ、誰かの家に集まって料理を作ったり、テスト前には一緒に勉強したりと、濃密な学生時代を過ごしました。
内科学(1)教室に入局したのは、血液・腫瘍内科は長期間療養される方が多いことから、じっくりと患者さんとの関係性を築けるのではないかと考えたからです。また、血液疾患はそれまでの生活習慣などにかかわらず突然に発症するものであり、その治療に大きな意義があるとも感じました。加えて当時、教授だった上田孝典先生(現 福井大学学長)が、「内科学(1)教室に入れば、内科のジェネラリストとしても、血液のスペシャリストとしても活躍できますよ」と熱心に誘ってくださったことに背中を強く押されました。
腫瘍崩壊症候群をサブスペシャリティに
入局後、大学で勤務したのち、越前市にある林病院に2年間勤務しました。当時、林病院には故 中村徹先生(福井大学名誉教授)がおられ、先生に尿酸排泄に関する研究について意見を求められたことが、この領域に足を踏み入れた第一歩だったと思います。当教室は、血液・腫瘍内科を軸として、血液腫瘍の化学療法時に多くみられる腫瘍崩壊症候群を研究してきた歴史があります。大学に戻り、上田先生と山内高弘先生(福井大学医学部病態制御医学講座内科学(1)教授)のもと、腫瘍崩壊症候群における高尿酸血症に対する尿酸生成抑制薬の有用性と忍容性の研究に携わりました。その後、同薬はがん化学療法に伴う高尿酸血症に対して保険適用を追加取得しています。
腫瘍崩壊症候群は化学療法により腫瘍細胞が急速かつ大量に崩壊し、核酸や電解質などが血中に大量に放出されることにより生じます。現在は生化学データから診断しているこの疾患を、メタボローム解析を用いて代謝の面から病態を明らかにしたいと考え、研究を進めています。また近年、分子標的薬がさまざまな科で使用されるようになりました。腫瘍崩壊症候群の予防と速やかな治療の重要性について、がんを扱うすべての先生方に広く知っていただけるよう啓発に努め、化学療法の副作用による死亡や合併症を防ぎたいと考えています。
ゆっくりでも「研究を続けること」が1つのモデルケースになれば
腫瘍崩壊症候群というテーマに出会えたことで、上田先生や山内先生に熱心にご指導いただき、隔年で開催される国際プリン・ピリミジン代謝学会に3人で参加する機会も得ました。スペインのマドリードやフランスのリヨンを訪れたことは研究発表という貴重な経験に加え、旅番組好き、歴史遺産好きの私にとって、とてもよい思い出です。日本痛風・尿酸核酸学会では若手委員とダイバーシティ推進委員を拝命しています。腫瘍崩壊症候群をサブスペシャリティとしたからこそ、こうした自分の視野を広げる活動に参加させていただけていると実感しています。
現在、子育て真っ只中です。これまで産休・育休を取得し、時短勤務を経て、現在も時間外や当直も最低限になるよう配慮をいただきながら大学で臨床と研究を続けています。毎日がギリギリの生活という感じではありますが、とにかく「続けること」が大切だと思っています。他の人が1年でできることを3年かけたとしても、前に進めていく。それが男女問わず、さまざまなライフステージにある臨床医・研究者の1つのモデルケースになればと考えています。