しいNEXT Generation

若手医師紹介

大谷 直由先生

150年の歴史ある造り酒屋の後継ぎとして

私は父方、母方ともに医師の家系で、親族の多くが地元の鳥取県内で医師をしています。そのなかで母は明治5年創業の造り酒屋(大谷酒造)の5代目として、経営を切り盛りしており、長男の私はいずれ後を継ぐ予定で小中高は野球に熱中しました。高校時代には夏の全国高等学校野球選手権大会にも出場しました。いよいよ進学を考える時期になり、ものごとを突き詰める性格の私は研究職に憧れ、高知医科大学(現・高知大学医学部)へと進みました。

医学部時代は勉強だけではなく、学園祭の実行委員や国試対策委員を務めるなど、学業以外の活動にも広く取り組みました。国試対策委員では、試験直前からホテルに泊まりこみ、直前予想問題をコピーして6年生の部屋に配布したり、不足する筆記用備品を補充したりと大わらわでした。先輩たちが万全の態勢で試験に挑めるよう、全力を尽くしたのはよい思い出ですね。

循環器領域で研究をスタート

卒業後の研修は、心臓カテーテルが有名な獨協医科大学心血管・肺内科(現・心臓・血管内科)の金子昇教授(当時)にお世話になりました。3年目から大学院に進学し、研究に没頭できる環境となって嬉しかったですね。当時、薬の研究でネズミとばかり接していたため教授からは「君はネズミの医者になるのか」と揶揄され、「はい、そのつもりです」と即答したことを覚えています。4年目には英国のグラスゴー大学循環器医学研究所に留学し、心房細動治療薬K201(JTV519)の開発に従事しました。ラットの単離心筋細胞にカテコラミンを負荷して心筋細胞の障害を起こし、薬剤投与で是正する実験などを行い、帰国後は獨協医科大学に戻り、同様のテーマで博士号を取得しました。

尿酸トランスポーターの役割を研究

その後、尿酸は臨床的に生活習慣病と関連が深いだけでなく、抗酸化作用を有する点に興味を抱き、独自に研究を始めました。そんななか、獨協医科大学薬理学講座の安西尚彦教授(現・千葉大学大学院医学研究院薬理学 教授)に声をかけていただき、尿酸トランスポーターの研究を手がけることになりました。安西先生は尿酸トランスポーター領域の研究でご高名であり、「すばらしい先生に指導を受けると、こんなにもみえてくるものが違うのか」と痛感したものです。

その後、鳥取大学ゲノム再生医学講座の久留一郎教授(現・国立病院機構米子医療センター 病院長)の研究室に出向し、いまだ十分に機能が知られていないMCT(モノカルボン酸トランスポーター)9をテーマに研究に取り組みました。MCT9が心臓と血管で発現していることを確認し、Hsp70を介した翻訳語修飾により蛋白質の発現と機能を調節して尿酸の取り込みを制御する可能性をみいだしました。

尿酸研究で基礎と臨床の橋渡し役に

尿酸の興味深い点はいまだに役割がよくわかっていないことですね。尿酸は細胞外では抗酸化作用を発揮しても、ひとたび細胞内取り込まれると酸化ストレスを生み出します。つまり物質輸送が重要だと考えており、今後も尿酸トランスポーターの局在を含めて、輸送基質や生体内での役割を明らかにする研究を続けていきたいです。

留学中に手がけたK201の開発は治験の段階に進んでいます。現在、私自身これらの薬剤の開発に対し、基礎研究ではなく治験・臨床試験を行う立場として参加しています。基礎と臨床の橋渡し的な立場で経験を積み、ゆくゆくは尿酸領域、とりわけトランスポーターをターゲットとした創薬に貢献したいと思います。

実家の大谷酒造は全国品評会受賞の常連です。最近は大谷翔平選手のアメリカンリーグMVP選出を記念し、仕込み順17号の「純米大吟醸OHTANIラベル」を限定販売するなどチャレンジを続けており、私も負けられません。そういえば大学時代、ある先生から「お酒を飲ませるなら、お酒による病気を研究するのも面白いじゃないか」といわれたことがあります。気づけばその通りで、これからも尿酸の研究を続けたいと思っています。