チェロに没頭した医学部6年間
医師になろうと思ったのは、高校3年生の秋のことです。脳外科医の叔父が学会参加の折、私の家に立ち寄り、医師の仕事についてさまざまな話をしてくれたことがきっかけです。私は4歳からピアノに親しみ、「将来は音楽関係の仕事でも」と考えていましたが、叔父が懸命に患者さんを治そうとする姿に触れて医学部進学を決めました。
しかし、高知医科大学(現・高知大学医学部)に入学すると、やはり音楽のない生活が物足りず、オーケストラ部に入部するとチェロの魅力に取りつかれてしまいました。1日8時間はチェロを弾き、月に1度は往復8時間かけて鳴門市のプロ演奏家のもとに通いレッスンを受ける日々。大学以外にも2つの市民オーケストラに入団し、まさにチェロ三昧の6年間でした。
循環器内科に入局し、肺高血圧症を専門に
医学部卒業後に循環器内科を選んだのは、内科でありながら、カテーテル治療などの手技が豊富で、外科的要素もある点が魅力的だったからです。九州大学循環器内科に入局すると、3年目からは下川宏明助教授(当時)のもと、肺高血圧症の研究に従事しました。下川先生からは、「循環器内科領域で治らない疾患が心不全と肺高血圧症。現在、肺高血圧症は特異的治療薬もない」といわれたのを覚えています。
研究を始めて間もなく、肺高血圧症の進展における分子機序としてRhoキナーゼの重要性を報告し、2002年にAHA(米国心臓協会)のBest Abstract Awardを受賞しました。それをきっかけに海外へ留学することになり、コロラド大学、ヴァージニア連邦大学、南アラバマ大学と異動しながらRhoキナーゼの研究を続けてきました。その研究のなかで、ヒトの肺の病理組織を再現した肺高血圧モデルラット(Su/Hx/Nxモデル)を開発し、Circulation誌のeditorが選ぶ過去3年間で最もインパクトのある論文30編の1つに選出されたのは喜びです。
尿酸を糸口に、肺高血圧症進展機序の解明を目指す
九州大学に戻ってからは、Rhoキナーゼによる肺血管過収縮に対しNO(内因性一酸化窒素)が抑制的に働くことを報告し、現在は過収縮を惹起する因子として尿酸に注目した研究を手がけています。
高尿酸血症はPAH(肺動脈性肺高血圧症)の予後不良因子であることが知られていますが、尿酸がPAHの病態生理に及ぼす直接的影響については解明されていません。われわれは、Su/Hx/Nxラットにウリカーゼ阻害薬を投与して高尿酸血症を合併させ、NO産生が阻害されて肺高血圧の病態が増悪する一方で、尿酸降下薬投与による抑制を認めました。
次のステップは、ヒトにおける高尿酸血症への介入による血行動態の変化をみることです。簡単な道のりではありませんが、ゴールはやはり患者さんを治すことですね。重症肺高血圧症患者さんを救う、新規治療戦略につながる成果を目指したいと思います。
新たなチャレンジの重要性
医学部、留学時代を振り返って、自ら選んだ道を信じて、努力を続けてきたことに満足しています。若い学生にアドバイスするなら、ぜひ多様な価値観・世界にチャレンジしてほしいですね。特に留学を通して厳しい環境に身を置くことは必ずや人生の糧となります。耐え抜き、解決する力が備われば、その後の医師人生も変わってくるはずです。
私自身のチャレンジはこれからも続きます。肺高血圧症から尿酸の世界に足を踏み入れ、異質な存在かもしれませんが、新しい風となって尿酸領域の発展に関わっていきたいと思います。