臨床症状から紐解く疾病診断

各先生のご所属等は掲載当時のものです。

Vol.2

むくみを見逃すな Part2

松尾 汎 先生
医療法人 松尾クリニック 理事長

はじめに

本コーナーでは、臨床でよく出合う症状をどのように紐解いて診断につなげていけばよいのかを解説します。テーマは第1回に引き続き「むくみ」です。前回は、圧迫とエコーによる浮腫の診断、浮腫の病態生理と原因となる疾患について取り上げましたので、今回は、鑑別診断の方法とむくみを軽減する圧迫療法について解説します。

浮腫の鑑別診断

前回、むくみの診断方法および浮腫が起こる病態生理とその原因疾患について解説しました。今回は、その原因疾患を実際にどのように鑑別し、治療を行えばよいのかを解説していきます。図1の通り、浮腫は全身性と局所性に分けられ、それぞれに多種多様な要因があります。

まず、局所熱感、発赤、CRP高値、病歴(疼痛、アレルギー歴)などがあれば、図1の「炎症性」と「血管神経性」が診断できます。また、「心疾患」と「腎疾患」は胸部レントゲン検査、心エコー検査、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値、腎機能から評価できます。アルブミン低値により「肝疾患」が、内分泌機能評価の値により「内分泌性」の診断が可能です。薬歴(甘草、エストロゲン、チアゾリジン誘導体、カルシウム拮抗薬、抗がん剤など)や病歴(合併症、治療歴)の聴取により「薬剤性」の鑑別ができ、運動機能・随伴症状などから「その他(廃用性、月経前、蛋白漏出性腸疾患、血管炎)」の疾患が診断できます。さらに、血管エコー検査やDダイマー検査から「静脈性」が、リンパシンチグラフィ検査を行うことで「リンパ性」であるかが診断できます。

前回紹介した通り、エコー検査は皮下にある液貯留、すなわち皮下の浮腫を判定することができます。もちろん、その所見だけから浮腫の原因までを診断することはできませんが、エコー検査を全身の評価に活用すれば、心機能の評価、肝臓や腎臓の評価などから、浮腫との関連性が推定できます。さらに、静脈エコー検査により、深部静脈血栓症(DVT)の診断、静脈逆流を認める慢性静脈疾患(下肢静脈瘤や血栓後症候群など)の診断も可能です(図2)。

図1
浮腫の種類とその原因

CRP:C反応性蛋白

図2
鑑別診断に関するエコー画像

静脈血栓があるとプローブでの圧迫により圧縮されない(過度の圧迫は禁止!)

圧迫療法の方法とポイント

浮腫への対策は、その病態に応じて行うことが基本となります。たとえば、原因疾患となる心、腎、肝疾患などの治療、薬剤性であれば薬剤の変更、DVTには抗凝固療法などが検討されます。そのほかの対症療法としては圧迫療法が浮腫の軽減に有効です。圧迫療法は圧迫によって静脈拡張を抑制し、筋肉との協働で血液の逆流を減少させることが期待できます。なお、圧迫療法は心不全患者には禁忌であり、また炎症・感染による浮腫も、その治療が優先されるため圧迫はしません。それ以外を原因とする浮腫に対しては実施可能であり、特にDVTの場合には圧迫療法が血栓の再発予防につながります。ただし、痛みのあるときには行いません。

1.圧迫療法の方法

圧迫療法は下腿のみでも効果が得られるため、下腿のみの実施で構いません(ハイソックス型)。その際に腓骨頭にかからぬようにします。ポイントは腓骨頭から下を圧迫することです(図3A)。腓骨頭は膝下の外側にある小さな骨の出っ張りで、この周囲は腓骨神経が走行しており、圧迫により麻痺が生じる可能性があります。下腿を手で圧迫することでも効果が得られますが、継続的に圧迫できる弾性ストッキングの着用が有用です。弾性ストッキングは履くのに難渋される患者さんもおられますので、弾性ストッキングを使用する場合は、着脱指導(図3B表1)を行う必要があります。また、私は導入時には市販されている軽い圧迫圧の「筒状弾性包帯」の着用をお勧めしています。筒状弾性包帯にはサイズがあり、下腿の周径よりも少し細めのサイズを選択するとよいでしょう。基本的に、起床後に装着して1日中着用してもらいますが、緩い圧(20mmHg未満)であれば、夜間もそのまま装着いただいて構いません。

図3
腓骨頭の位置(A)、弾性ストッキングの履き方(B)

表1
弾性ストッキングの着脱指導について

2.圧迫療法には運動を併用

圧迫療法と併せて、筋肉を動かす運動を行うことが推奨されます。弾性ストッキングや筒状弾性包帯を着用しながら筋肉を収縮させると筋ポンプ作用が増強され、静脈還流の改善につながるためです。具体的には、足のつま先を上げ、かかとの上下運動や背屈、膝関節の屈伸、足踏みなどを指導するとよいでしょう。

むくみには積極的にエコー検査を

わが国では海外に遅れること約10年、ようやくエコー検査が臨床現場に普及してきました。近年は新たな抗凝固薬の登場もあり、血栓を診るためにエコー検査を導入するクリニックが増えてきています。診療報酬についても、2018年の改定で下肢血管エコーが新設され、450点が算定できるようになりました。逆流の有無を確認するためにドプラ法を実施すれば、150点が加算できます(ただし、パルスドプラ法の実施が1ヵ所は必要)。むくみは臨床上、よく遭遇する症状であり、その背景にさまざまな疾患が潜んでいます。エコー検査は簡便かつ非侵襲的な検査であり、浮腫の判定と鑑別診断に有用です。ぜひエコー検査を活用いただきたいと思います(図4)。

エコー検査の修得は無侵襲のため、被検者には全く害がありません。そのため、医師または技師、看護師が少し勉強すれば開始できますが、経験は必要です。血管エコーの講習会やセミナーが多く開催されていますので、まずは座学で聴き、ライブデモを視聴し、そしてハンズオンで実際に検査を実施してください。

下記に私もファカルティーとして参加しております学会をご紹介します。当学会では、座学、ライブデモ、そしてハンズオンも実施しており、1日だけでも参加可能です。

図4
エコープローブの種類と特徴


■エコー淡路のWEBサイトが開設されました。

Echo Awaji CV Imaging 2023
日時:2023年11月18日(土)・19日(日)
会場:兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
メインテーマ:アフターコロナ時代に向けた新たな心血管エコー
https://us-lead.com/echo-awaji/