臨床症状から紐解く疾病診断

各先生のご所属等は掲載当時のものです。

Vol.1

むくみを見逃すな Part1

松尾 汎 先生
医療法人 松尾クリニック 理事長

はじめに

「むくみ」は外来を訪れる患者さんの訴えとして多い症状ですが、実はさまざまな疾患が潜んでいます。ここでは特に訴えの多い「下肢の浮腫」について、2回にわたって紹介します。まず第1回目となる今回は、1) むくみの診断方法、2) 浮腫の病態生理と原因疾患について詳しく解説します。

むくみの診断方法:軽度の浮腫の判定にエコーが有効

「足が腫れている」と患者さんが訴えられた場合、さまざまな原因が考えられます。極端にいえば、太っただけでも足は腫脹しますので、まずは腫脹と浮腫の鑑別が必要です。腫脹は「腫れて膨れている状態」、すなわち体積の増加を意味します。その原因として、腫瘍、嚢胞、出血・血腫、動脈瘤、脂肪などが挙げられ、そのなかに浮腫も含まれます。浮腫は「間質液が過度に増加して腫れた状態」をいい、特に下肢の浮腫の場合には、「下肢の皮下に体液が過度に貯留して腫れている状態」を指します。浮腫は、腫れている部位を指で数秒以上押し、圧迫痕が残ることで判定できます(図1)。ただし、軽度の浮腫では圧迫痕が残らないこともあり、そのような場合に超音波検査(エコー検査)が有効です。

図2は下腿の超音波所見です。図2Bが軽度の浮腫例であり、表皮・真皮層と筋層との間にある皮下脂肪層がすりガラス様になり液体貯留を認めます。図2Cは圧迫痕がしっかり残る中等度の浮腫例と判定します。図2Aの正常例でみられるような線状の線維組織は目立たなくなり、液体貯留を示す黒い筋(低輝度部分)を認めます。下肢の浮腫を超音波で診る場合、超音波プローブは7.5〜10MHzのリニア型が適していますが、腹部用のコンベックス型でも診ることはできます。

図1
浮腫の診断方法

図2
浮腫の超音波所見

浮腫の病態生理と原因疾患:体液循環のバランスの崩れが浮腫の原因

浮腫と診断できれば、次は原因を探ることになります。ここではまず、浮腫が起こる病態生理について解説したいと思います。心臓から送り出された血液は、動脈から毛細血管を経て約90%が静脈から心臓に戻り、残る約10%はリンパ管から還流します。この体液(間質液)循環のバランスが崩れ、間質液の移動に障害が生じた場合に浮腫が発生します。浮腫の機序としては、①血管壁の透過性亢進、②静水圧せいすいあつの上昇、③膠質浸透圧の低下、④リンパ還流障害、⑤皮膚弾性張力の減弱が挙げられます(図3)。

続いて、それぞれの機序に対し、その病態を引き起こす疾患とともに解説します。①の血管壁の透過性亢進とは、細菌やウイルス、外傷などによる炎症やアレルギーにより体液が滲出することを指します。②の静水圧の上昇とは、心不全や腎不全あるいは深部静脈血栓症などにより静脈がうっ滞した結果、血管外への間質液の移動が増加するものです。③の膠質浸透圧とは、アルブミンによる水分を血管外から血管内に引き込む力のことで、ネフローゼ症候群でアルブミンが尿中に大量に喪失したり、栄養障害や肝硬変などでアルブミン合成能が低下したりすると、膠質浸透圧が低下して血管内への間質液の移動が減少します。④のリンパ還流障害は先述の通り10%程度と関連度合いは高くありませんが、リンパ管系からの間質液の回収が低下することで浮腫をきたします。多いのは、婦人科がんや前立腺がんの治療のためのリンパ節郭清や放射線治療によるリンパ浮腫です。⑤の皮膚弾性張力の減弱とは、高齢者や女性では皮膚が柔らかいためにむくみやすく、復元しづらいことを示します。

図3
毛細血管での微小循環と浮腫の原因

CHF:congestive heart failure、DVT:deep vein thrombosis

おわりに

ひと口にむくみといっても、その背景にはさまざまな疾患が潜んでいます。今回は、圧迫痕とエコーによるむくみの診断方法、また浮腫の病態生理と原因となる疾患について解説しました。次回は、鑑別診断の方法とむくみを軽減する圧迫療法についてご紹介します。