Current Lecture 専門医による疾患解説

Vol.10

痛風の疫学・治療~国際比較からの検討および考察~ 桑原 政成 先生 
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院循環器センター内科 医長

国内外における痛風の頻度

痛風患者数は国内外を問わず増え続けている。わが国における推定痛風患者数は厚生労働省の国民生活基礎調査によると、1986年の25.5万人から2016年の110万人へと30年間で約4倍に増え、男性に限ると約5倍に増加している1)

米国の全米入院情報抽出(NIS)データベースを用い1993~2011年までの関節リウマチと痛風の入院件数を検討した研究では、2005年を境に痛風の年間入院件数が関節リウマチの年間入院件数を抜いている。関節リウマチに対しては、生物学的製剤などによる薬物治療が進歩し、外来での治療が可能となってきたこともあり、年間入院件数は1993年の人口10万人あたり13.9であったのに対し、2011年に4.6に減少していた。一方で、米国では高尿酸血症に対する予防的な治療が一般的に行われていないこともあり、痛風の年間入院件数は1993年の人口10万人あたり4.4から、2011年の人口10万人あたり8.8に増加していた2)

痛風が増加する理由

高尿酸血症・痛風の原因としては、肥満、フルクトース(果糖)やアルコール、プリン体の多い食品の摂取過多が影響していることが知られている。たとえば、肉類摂取量が多い集団では1.4倍、魚介類摂取が多い集団では1.5倍の痛風発症リスクになることが報告されている3)。また、フルクトースが多く含まれる清涼飲料水(ソフトドリンク)の摂取が多い集団では1.9倍痛風発症リスクが増加している3)。フルクトースやアルコールが代謝される際に、ヒトのエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)が使われるため、結果としてヒトにおけるATPの最終代謝産物である尿酸が上昇することにつながる3)

一方で、高尿酸血症・痛風の原因としては、遺伝的な要因が大きいという報告もある。高尿酸血症・痛風には他の生活習慣病と同様、多数の遺伝子が関連している3)。これまで全ゲノム関連解析(GWAS)により尿酸トランスポーターABCG2をはじめ20を超える関連遺伝子が抽出されており、遺伝的な要因が大きいとする報告も多くみられる。しかしながら、前述したとおり、高尿酸血症・痛風の患者数が近年増加していることを考慮すると、遺伝的要因だけでなく、食生活をはじめとする後天的な環境の要因も大きいと考えられる3)

中国においても痛風の有病率は経年的に増加しているが、農村部より都市部、沿岸部より内陸部で有病率が高いといった地域差が報告されている4)。都市部で痛風の有病率が高いことは食事の欧米化やフルクトースの摂取増加など、食生活やライフスタイルの変化が関連している可能性も考えられる。

痛風発症後の血清尿酸値の管理目標

わが国のガイドラインでは、痛風関節炎を繰り返す患者さんや痛風結節を認める患者さんでは、薬物治療により血清尿酸値を6.0mg/dL以下に維持することが推奨されている3)表1)。痛風結節の縮小には、治療中における血清尿酸値が密接に関係していると考えられる。尿酸降下療法を行う際には、血清尿酸値を尿酸塩結晶の飽和溶解度以下にすることが必要であり、血清尿酸値を低くするほど尿酸塩結晶が溶解しやすく、痛風結節も縮小しやすくなると考えられる。また、高尿酸血症の期間が長かった患者さんほど、痛風結節は大きくなっている可能性があり、痛風結節を完全に消失させるためには、高尿酸血症に対する治療も長期間必要になると考えられる。

米国のガイドラインでは、痛風結節を有する重症痛風患者では血清尿酸値を5.0mg/dL以下とするよう記載されている5)表1)。前述の通り、血清尿酸値が低いほど痛風結節の縮小が期待できることから、痛風結節を認める患者さんに対しては、より低い血清尿酸値を維持することは適切と考えられる3)

一方で、急激な血清尿酸値の低下は関節内に蓄積した尿酸塩結晶が剥がれ落ち、痛風発作を誘発する可能性もある。そのため、高尿酸血症を長期間無治療で過ごしていた患者さんや痛風患者さんに対しては、症状が落ち着いていることを確認し、食事などの生活指導も行いながら、少しずつ血清尿酸値を低下させていくことが大切である。実臨床においては、痛風発作の予防のために尿酸降下薬にコルヒチンを併用することや痛風発作時に備えて鎮痛薬を処方しておくことも選択肢にあげられる。

表1

日米における高尿酸血症・痛風のガイドラインの対比

日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会(編).高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版(2022年追補版).
東京:診断と治療社;2022.より引用

高尿酸血症の定義と治療

わが国において高尿酸血症は、性別、年齢を問わず、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えるものと定義されている3)。本定義は、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えると血液中で尿酸が尿酸塩結晶となりやすいという、尿酸の溶解度を基に示されている3)。一方で、海外においては各疾患との関連から高尿酸血症の定義が示されていることが多く、男性では血清尿酸値が7.0mg/dLを超えるもの、女性では血清尿酸値が6.0mg/dL以上という定義がよくみられる。血清尿酸値の男女差については、エストロゲンなどの女性ホルモンが血清尿酸値を下げる働きがあるため、女性のほうが男性よりも血清尿酸値が低い。痛風の発生率も女性が男性よりも明らかに低いが、閉経後では女性ホルモンの低下などにより、女性においても血清尿酸値は上昇しやすく、痛風の発症頻度も年齢とともに増加するため注意が必要である。

無症候性高尿酸血症に対する治療介入については、前述の通り欧米では痛風結節などが認められなければ、積極的な薬剤治療は勧められていない6)7)。一方で、わが国のガイドラインでは一定の基準を満たす無症候性高尿酸血症に対して薬物治療が勧められている3)。具体的には、腎障害や尿路結石、心血管疾患のリスクと考えられる高血圧、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの合併症を有する場合は生活習慣の改善を行っても血清尿酸値 8.0mg/dL以上が続く場合、合併症を有しない場合は血清尿酸値 9.0mg/dL以上が続く場合で薬物治療が勧められている3)表1)。

他の合併症のない無症候性高尿酸血症であっても、高血圧や脂質異常症などの新規発症に関連することが示されている8)。わが国における尿酸降下薬の投与患者数は無症候性高尿酸血症に対するものが痛風に対するものよりも多いが9)、高尿酸血症に対する早期介入が行われている影響もあり、痛風患者さんの入院や巨大な痛風結節を認める症例が減っていると考えられる。

無症候性高尿酸血症に対する介入効果

2021年に、向當、山中らから、診療報酬請求データベースである日本医療データセンター(JMDC)データベースを用いて、2012〜2019年までの無症候性高尿酸血症を対象にした後ろ向きコホート研究で、尿酸降下薬を処方された血清尿酸値 6.0mg/dL以下の患者群は血清尿酸値が高値の患者群に比べて、痛風の発症が少ないことが報告された10)。本結果はわが国のガイドラインが推奨する薬物治療が適切であったことを示した重要な内容と考えられる。

痛風を発症する前段階から高尿酸血症に対して治療を行うことは、痛風結節の抑制や痛風発作の頻度低下、重症度の軽減に役立っている可能性がある。痛風結節は痛風の罹患期間と血清尿酸値の最大値に関連しているとの報告もあり、高尿酸血症の期間を短くすることが勧められる11)。高尿酸血症に対する治療で重要な点は、まずは食事・飲料を含む生活習慣の改善などを行い、それでも高尿酸血症が持続する患者さんに対して薬剤療法を行うことである。尿酸降下薬は最も中止されやすい薬の1つであるため、高尿酸血症に対しては、生活習慣の改善を行っても血清尿酸値が高い状態が続く場合の最後の手段が薬剤治療であることを認識する必要がある。

尿酸降下薬の使用状況

わが国では尿酸降下薬として尿酸生成抑制薬、尿酸排泄促進薬があり、高尿酸血症の病型分類(尿酸排泄低下型、尿酸産生過剰型、混合型)に応じた薬剤処方が可能である。

尿酸排泄促進薬のベンズブロマロンは肝障害の副作用報告があり、米国では未発売、欧州ではドイツやオランダ、他にはオーストラリアなどの一部の国での処方にとどまっている。高尿酸血症の治療の選択肢としては、海外ではアロプリノールが最も一般的に使用されており、同薬の使用が難しい際にフェブキソスタットが選択されていることが多い。一方で、わが国では、腎障害などの副作用の観点から、フェブキソスタットが最も多く使用されている。日本で2020年に発売された選択的尿酸再吸収阻害薬ドチヌラドは、薬物性肝障害が生じるリスクが少ないとされており12)、高尿酸血症に対する今後のエビデンスの蓄積が求められる。
※尿酸分解酵素薬は腫瘍崩壊症候群に使用される

まとめ

高尿酸血症は痛風の原因となるだけでなく、高血圧症など他の疾患とも密接に関係することから、無症候であっても生活習慣の改善を含めた適切な介入が必要と考えられる。高尿酸血症の罹病期間、関節の症状なども考慮しながら、個々の患者さんに応じた適切な治療を行っていくことが求められる。また、痛風発作が心血管疾患のリスクにもなることも報告されており、できるだけ合併症を認めない治療を心がける必要がある。日本発のガイドライン、エビデンスが今後世界に広がり、痛風などで苦しむ患者さんが減ることを期待する。

References
1) 厚生労働省.国民生活基礎調査.
2) Lim SY,et al.JAMA.2016;315:2345-7.
3) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会(編).高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版(2019年改訂).東京:診断と治療社;2019.
4) Liu R,et al.Biomed Res Int.2015;2015:762820.
5) FitzGerald JD,et al.Arthritis Care Res(Hoboken).2020;72:744-60.
6) Hui M,et al.Rheumatology(Oxford).2017;56:e1-20.
7) FitzGerald JD,et al.Arthritis Care Res.2020;726:744-60.
8) Kuwabara M,et al.Hypertension.2017:69:1036-44.
9) Hakoda M,et al.Mod Rheumatol.2019;29:880-4.
10) Koto R,et al.Ann Rheum Dis.2021;80:1483-90.
11) Ichikawa N,et al.Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids.2011;30:1045-50.
12) Hosoya T,et al.Clin Exp Nephrol.2020;24:71-9.(第Ⅲ相フェブキソスタット対照試験)
13) Hosoya T,et al.Clin Exp Nephrol.2020;24:62-70.(第Ⅲ相ベンズブロマロン対照試験)
14) Hosoya T,et al.Clin Exp Nephrol.2020;24:80-91.(第Ⅲ相長期投与試験)