Current Lecture 専門医による疾患解説

Vol.6

開業医の立場での痛風治療 長瀬 満夫 先生 
長瀬クリニック 院長

痛風の臨床像と留意点

痛風発作は、中年男性において片側の母趾中足趾節(metatarsopharangeal:MTP)関節や足関節に急性関節炎を認める場合、典型例として診断できることが多い。一方、若年や高齢男性、女性では、手指や膝に慢性的な関節炎症状を示すという非典型例も認められる。痛風の病因として、尿酸トランスポーターであるABCG2の遺伝子変異1)による機能不全は、20代以下で発症した患者の約9割で軽度から重度の報告がされており2)、若年の発症も珍しくない。また、エストロゲンによる尿酸蓄積の抑制によって閉経前の女性における痛風発作の頻度は低いが、痩身目的で購入した利尿剤により誘発されるケースもある。

発症部位は、尿酸-ナトリウム塩(monosodium urate:MSU)が体温の低い部位に蓄積しやすいことから母趾以外の足趾や、手指にも生じる可能性があり、私もこれまでプロの楽器奏者で手指の痛風発作を診断した経験がある。手指のX線像で痛風発作以外の関節炎を除外できず、本人同意のもと尿酸降下薬投与により寛解を得たが、初発が手指である場合は診断に難渋する。

なお、臨床像から診断に迷うケースでも丁寧な病歴聴取が役に立つ。問診時、「これまで痛みはありませんでしたか」と質問すると、「そういえば何年か前」と患者が思い出すことがある。初発と思われる患者でも発作の既往について確認すべきである。

痛風診断の現状と課題

発作中、血清尿酸値は発作前より低値となることがあるので、その診断的価値は低い。痛風の確定診断においては、可能な限り急性関節炎の関節液を偏光顕微鏡で観察し、白血球に貪食されたMSU結晶を証明することが推奨されている3)

しかしながら、わが国では偏光顕微鏡を用いた関節液の鏡検が普及しておらず、自施設内でMSU結晶を証明する開業医は限定的と考えられる。私自身、疼痛部位が関節穿刺の容易な膝関節で診断に迷う場合を中心に、検査センターに外注して確定診断につなげているが、この検査そのものは保険適用外である。

MSU結晶の認識には、他にも画像検査の手法がある。単純X線検査では初期から特徴的所見が認められることはほとんどなく、むしろ鑑別診断における役割が大きい。

最近、関節エコー検査やdual energy CT(DECT)の登場により、侵襲性のある関節穿刺以外にもMSU結晶の描出が可能となりつつあり、それぞれの特性がある(4)。関節エコー検査では、関節軟骨表面のdouble contour signという特徴的所見によりMSU結晶の描出が可能であるが、わが国では整形外科においてもこれを用いて痛風を診断する医師は多くはない。DECTによるMSU結晶の描出は偏光顕微鏡と同程度の感度・特異度が期待できるが、エコー検査よりもさらに実施施設が限定されている。よって、痛風はMSU結晶という病因が明らかではあるものの、多くの開業医は臨床症状に基づいて診断を行っている状況がうかがえる。

なお現在、わが国では深刻な病理医不足を課題として、AIを活用した病理診断支援技術の開発が進んでおり、内科系学会社会保険連合、外科系学会社会保険委員会連合を中心に保険収載に向けた働きかけが行われている。画像認識による診断はAIと親和性の高い領域であり、MSU結晶検索も新しい技術とともに保険収載され、臨床現場に導入されれば、開業医における痛風診断のあり方も変化してゆくかもしれない。

偏光顕微鏡、X線解析、単純X線、DECT、MRI、エコーそれぞれの特性、長所、短所(現状での自説)

文献4)より引用

他の関節炎との鑑別のコツ

痛風発作の鑑別診断としては、急性関節炎を起こす疾患が対象となる。鑑別の機会が多いのは、化膿性関節炎やピロリン酸カルシウム結晶沈着による偽痛風、ハイドロキシアパタイトに代表される塩基性リン酸カルシウム結晶沈着による関節炎などである。

化膿性関節炎は、関節液穿刺によるグラム染色および細菌培養の所見に基づき除外可能である。また、高齢者に多い偽痛風は足趾には発生せず、単純X線画像により典型的な関節軟骨の線状石灰化が認められ、塩基性リン酸カルシウム沈着による関節炎は関節周囲の雲状陰影が認められる点で鑑別可能である。

他には外反母趾や変形性関節症、外傷(骨折)、関節リウマチなど下肢に出現する疼痛や腫脹を鑑別すべきである。痛風発作の炎症部位がMTP全体であるのに対し、外反母趾は脛骨側のみである。変形性関節症は疼痛が慢性的に持続し、外傷は契機があり、関節リウマチは両足性である点で鑑別につながりやすい。

なお、私の経験では乾癬性関節炎との鑑別が必要となる機会が増加しており、皮膚科の受診歴や髪の生え際など露出部の赤い皮疹の有無を確認している。

痛風治療の目的

痛風診療に関してはよく「発作の痛みが消失すれば通院しなくなる」などと耳にする。

薬物治療を開始し、血清尿酸値が一時下がっただけでは再発リスクは残存しているため、血清尿酸値≦6.0mg/dLの維持を目標とした継続受診が重要となる。しかし、患者の生活習慣やニーズは千差万別であり、薬物治療を希望しない患者に対して私は「では、また痛くなったら来てください」と伝えている。つまり、患者の意向を尊重する形で関係性を維持し、再発時の本人のモチベーションアップに期待する。

しかし、受診時にすでに腎機能低下が疑われる場合は例外である。痛風治療の目的は、まずは痛風発作の再発を防ぐことであるが、近年、高尿酸血症と慢性腎臓病(CKD)の発症、進展との関連が示唆されており、腎機能低下の進行抑制は患者の予後を考えても重要な課題となる。現に、わが国のコホート研究において、血清尿酸値は血清クレアチニン高値(男性≧1.4mg/dL、女性≧1.2mg/dL)への進展と正の相関を示し、血清尿酸値≧8.0mg/dLの集団の相対危険度は、血清尿酸値<5.0mg/dLと比較して男性で約2.9、女性では約10.4であったことが報告されている5)6)

そこで私は、「あなたの腎臓が心配なので、医師として責任をもって診させてください」と伝え、薬物治療の導入と継続治療を呼びかけている。継続受診における患者負担を減らす配慮として、検査は初診時のみとし、その後は患者が持参する健診結果を参考にフォローしているケースもある。

「一病息災」を実現する痛風治療

痛風治療は、医師側が治療のあり方を決めつけず、患者のニーズに合わせることで、将来的な予後改善につながると考える。痛風発作で通院する患者は、長い経過のなかでさまざまな合併症を併発する。私は、患者が持参する健診結果のあらゆる数値に目を配るよう心掛けており、これまでふとした検査値異常への気づきから重篤な疾患の診断・治療につながったケースも少なくない。

現・日本痛風・尿酸核酸学会の創始者である御巫(みかなぎ) 清允(きよのぶ)先生が「一病息災」といわれたように、痛風があることで患者が日々の生活に留意し、その後の人生をかえって健康なものとすることに開業医は関与可能である。主に中年世代で発症する痛風に対する治療は、患者のその後の健康を包括的に改善する起点となるであろう。患者の一時の治療中断を見過ごさず、痛風をきっかけに、患者の生涯に寄り添った診療を心がけることが重要である。

References
1) Matsuo H,et al.Sci Transl Med.2009;1:5ra11.
2) Matsuo H,et al.Sci Rep.2013;3:2014.
3) 日本痛風・尿酸核酸学会 ガイドライン改訂委員会(編).高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版.東京.診断と治療社.2018.
4) 長瀬満夫.高尿酸血症と痛風.2013;21:25-8.
5) Tomita M,et al.J Epidemiol.2000;10:403-9.
6) Iseki K,et al.Hypertens Res.2001;24:691-7.