Current Lecture 専門医による疾患解説

Vol.5

生活習慣病としての尿酸値の捉え方 大野 岩男 先生 
東京慈恵会医科大学総合診療内科 客員教授

高尿酸血症例における生活習慣病の合併

1995年度の人間ドック男性受診者を対象としたわれわれの研究では、高尿酸血症(血清尿酸値>7.0mg/dL)の頻度は全体の22.2%であった1)。そのなかで、高尿酸血症のみの症例は20.1%に過ぎず、約80%は高尿酸血症以外の生活習慣病を同時に1つ以上合併していた(図1A1)。合併する生活習慣病のなかでは脂質代謝異常が最も多く、次いで耐糖能異常、肥満、高血圧であった(図1B1)

また、2008年の特定健診受診者を対象とした研究では、高尿酸血症の頻度は全体の9.1%、男性では19.4%、女性では2.1%であった2)。男性の場合、40代が最も高く加齢とともに低下傾向にあったのに対し、女性の場合には加齢に伴い増加傾向にあった。高尿酸血症を呈する例では脂質異常症が62.5%、高血圧が38.7%、糖尿病が10.9%に合併していた2)

すなわち、性別や年齢などの背景により異なるものの、高尿酸血症例では生活習慣病を合併している割合が高く1)2)、男性に限れば約8割が何らかの生活習慣病を合併していた1)

図1

高尿酸血症と生活習慣病

文献1)より改変・引用

高尿酸血症とメタボリックシンドロームをはじめとした生活習慣病、心血管疾患の関連性

沖縄での4年間のコホート研究において、高尿酸血症はメタボリックシンドローム(MetS)の重要な独立した予測因子であり、MetS累積発生率に有意に関連し、血清尿酸値が高いほどMetS発生リスクが増加することが示されている3)。また、高尿酸血症が高血圧の新規発症リスクになること4)5)、糖尿病の発症6)や腎障害7)8)のリスクファクターであることが報告されているほか、心血管死亡との関連9)-11)も認められている。

MetS、すなわち内臓脂肪蓄積はインスリン抵抗性、高インスリン血症を招く。それが腎臓に作用して尿酸の再吸収を促進し、尿酸の排泄低下を介して高尿酸血症を、ナトリウムの再吸収を促進して高血圧を惹起する(図2)。また、肝臓では遊離脂肪酸(FFA)が門脈を通して大量に流入し、トリグリセリド(TG)の合成・代謝が促進されて高TG血症を惹起する。同時に、FFAからTGへの代謝の過程で補酵素のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)が失われ、それを補うためにグルコースから尿酸へのde novo合成が促進されることから、尿酸産生過剰型の高尿酸血症を引き起こす(図2)。

血糖や血圧、脂質は無作為化比較試験(RCT)やメンデルランダム化(MR)試験で心血管疾患の「強い真のリスクファクター」であることが証明されている。一方、高尿酸血症は心血管疾患の「弱いリスクファクター」、あるいは「単なるバイオマーカー」ではないかという指摘がなされている12)。その背景には、高尿酸血症がMetSや何らかの生活習慣病と相互に密接に関連しているため、高尿酸血症だけを抽出して心血管疾患のリスクファクターであるか否かを解析し難いということが考えられる。

図2

メタボリックシンドロームと高尿酸血症の関連

大野先生ご提供

高尿酸血症への介入の重要性

高尿酸血症状態が長期に続けば、やがて尿酸塩沈着症としての痛風、尿路結石、痛風結節が生じる。また、尿酸塩沈着症が現れなくても、そのほかの生活習慣病の発症、さらには心血管疾患を引き起こすことになり得る13)ことから、高尿酸血症への介入は重要といえる。その際、男性だけでなく女性(特に閉経後の女性)に対しても、血清尿酸値の増加や高値に注意を払い、血糖や血圧、脂質などとともにしっかりと介入していくことが大切である。

閉経前の女性では、女性ホルモンの作用により尿酸が排泄されやすくなっている14)ことから、血清尿酸値は一般的に男性より1.5mg/dL程度低い。一方で、高尿酸血症の定義は血清尿酸値>7.0mg/dLと、男女ともに同じである。そのため、血清尿酸値が同レベルでも、女性のほうが高尿酸血症による障害を受けやすいと考えられている。実際、女性では男性よりも低い血清尿酸値から腎障害リスクが上昇すること7)、血清尿酸値が正常範囲内でも腎機能低下速度が速いこと15)が報告されている。

健診や人間ドックで高尿酸血症が判明したケースへの介入

一般的に、痛風発作経験者でなければ、高尿酸血症への関心は糖尿病や高血圧ほど高くないと感じられる。特に女性は痛風になりにくいこともあり、関心が低い。そこで、高尿酸血症が指摘された健診や人間ドックの受診者に対して、まずは痛風発作だけでなく、腎障害や尿路結石、MetS、高血圧、脂質代謝異常、糖代謝異常、心血管疾患などにも関連している可能性があることを説明する。そのうえで、生活習慣の是正(食事療法、運動療法)を促す。具体例としてはアルコールの摂取制限である。アルコールは血圧や血糖、コレステロールに対して直接的な影響が少ないが、尿酸に対しては直接的な影響を及ぼす16)。また、MetSや何らかの生活習慣病を合併しているケースについては、心血管疾患の真のリスクファクターとされる高血圧や糖尿病、脂質代謝異常への介入を優先し、薬剤選択に関しては尿酸代謝に好ましい降圧薬や血糖降下薬などの使用を考慮する。

このような高血圧や糖尿病、脂質代謝異常への介入や生活習慣の是正を行ってもなお血清尿酸値が8.0mg/dL以上の場合や、合併症がなくても血清尿酸値が9.0mg/dL以上の場合は、尿酸降下薬を開始する17)

前述のとおり、高尿酸血症例は約8割の高率で心血管疾患の真のリスクファクターとなる生活習慣病を合併している。自覚症状がなくても、健診で尿酸値が高いことを懸念した患者や痛風を発症して来院した患者は、各種合併症に負の影響をもたらす因子を治療するきっかけを有していることになる。その点から考えても、痛風発作消失後に高尿酸血症の治療が中断しないように患者をサポートすることの重要性をあらためて強調しておきたい。

References
1) 疋田美穂. 痛風と核酸代謝. 2000;24:139-51.
2) 今田恒夫. 痛風と尿酸・核酸. 2020;44:153-8.
3) Nagahama K, et al. Hypertens Res. 2014; 37: 232-8.
4) Wang J, et al. PLoS One. 2014; 9: e114259.
5) Grayson PC, et al. Arthritis Care Res(Hoboken). 2011; 63:102-10.
6) Kodama S, et al. Diabetes Care. 2009; 32: 1737-42.
7) Iseki K, et al. Am J Kidney Dis. 2004; 44:642-50.
8) Zhu P, et al. PLoS One. 2014; 9: e100801.
9) Zuo T, et al. BMC Cardiovasc Disord. 2016; 16: 207.
10) Hakoda M, et al. J Rheumatol. 2005; 32:906-12.
11) Kamei K, et al. Clin Exp Nephrol. 2016; 20:904-9.
12) Fukushima M. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2020; 319: E827-E834.
13) Fang J, et al. JAMA. 2000; 283: 2404-10.
14) Yahyaoui R, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2008; 93: 2230-3.
15) Kamei K, et al. Nephrol Dial Transplant. 2014; 29: 2286-92.
16) Faller J, et al. N Engl J Med. 1982; 307: 1598-602.
17) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会(編).高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版.東京:診断と治療社;2018.