多くの観察研究からCKDと高尿酸血症
が悪循環を形成していることが
示唆されている
慢性腎臓病(CKD)ではステージが3a、3b、4と進むにつれ血清尿酸値7.0mg/dLを超える割合が約20%、30%、50%と増えることが示されている1)。CKDにおける高尿酸血症の主因は、糸球体濾過量(GFR)の低下に伴い尿酸濾過量が低下することだと考えられている。
一方、高尿酸血症におけるCKDのリスクについて、1990年代までは尿酸一ナトリウム(monosodium urate monohydrate:MSU)結晶が尿細管や腎臓の間質に沈着して生じる痛風腎との関連が考えられてきたが、1990年代後半から腎臓におけるMSU結晶の証明方法が普及すると典型的な痛風腎はそれほど多くはなく、痛風腎がCKDをもたらす大きな原因とは言えない可能性が指摘された。
2001年Isekiらが沖縄県の住民健診受診者6,403名を1997~1999年の2年間観察した結果、血清尿酸値が血清クレアチニン(Cr)高値への進展と正の相関を示すことを報告した2)。さらに、住民健診受診者48,177名を対象に、1993~2000年の約7年間、末期腎不全の累積発症率を高尿酸血症(血清尿酸値により男性は7.0mg/dL以上、女性は6.0mg/dL以上)の有無で検討した結果、女性において高尿酸血症(血清尿酸値≧6.0mg/dL)は末期腎不全の独立した予測因子(補正ハザード比5.770、p=0.0002、多変量COX解析)であることを発表した3)。
以後、高尿酸血症によるMSU結晶を介さない腎障害が注目されるようになり、国内外から同様の報告が相次いでなされた。これまでの多くの観察研究から、腎機能低下は速やかに血清尿酸値の上昇を招き、逆に血清尿酸値の上昇はCKD発症・進展のリスクになり得ることが示され、CKDと高尿酸血症には悪循環が生じていると示唆された。この悪循環を断ち切るために、薬物治療により血清尿酸値を低下させ、将来のCKDの発症・進展を抑制することが重要と考えられる。同時に観察研究では原因と結果の明確化に限界があり、腎機能のごく軽度の障害が血清尿酸値の上昇として現れたとの解釈もできるため、厳密には介入試験が必要である。
CKD合併高尿酸血症治療は、
個々人の背景を考慮し患者とともに
意思決定していく
実際に高尿酸血症治療薬では、無作為化対照比較試験(randomized controlled trial:RCT)も多数報告されており、わが国でも複数報告されている。高尿酸血症治療薬の介入によりeGFRの変化量を検討したRCT論文5報を抽出したメタ解析と、腎イベント発症を検討した3報を抽出したメタ解析では、いずれも統計的な有意差が認められた4)。しかし後者では異質性が認められたため、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』では、腎障害を有する高尿酸血症の患者に対して、腎機能低下を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることを条件付きで推奨している4)。
しかしその後、国内で行われたプラセボ対照のRCTでは、治療介入による腎機能低下の抑制については有意差が認められなかった5)。
ただし、RCTは被験者の適合基準が厳格であり、その結果をもって一般的な話として外挿することの妥当性については疑義が呈されている。また、現在使用可能な尿酸降下薬の多くは尿毒症物質を体外に排泄しにくいことが明らかになってきた。血清尿酸値を低下させることによるプラスの影響が尿毒症物質を蓄積することによるマイナスの影響によって打ち消され、RCTのメタ解析でポジティブな結果が得られなかったと推察される。
そこで、CKDを有する無症候性高尿酸血症患者に対する尿酸降下療法については、現時点で得られているエビデンスを土台に、総合的に判断したうえで、患者とともに意思決定(shared decision making:SDM)を実践していくことが望ましい。
eGFR<60mL/分/1.73m2で
尿酸降下療法を開始、
血清尿酸値6.0mg/dL未満をめざす
筆者はRCTの結果はネガティブであることを念頭に置きつつ、自らの基礎研究や観察研究の結果から、尿酸の腎毒性は存在し、血清尿酸値の上昇が腎臓に対して悪影響を及ぼすという考えのもと、CKDを有する無症候性高尿酸血症患者の個々の必要性に応じて尿酸降下療法を行っている。私案ではあるが、SDM実践のもと、eGFRが60mL/分/1.73m2未満で、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えていれば、禁忌がない限り、尿酸降下療法を考慮する。
尿酸降下療法を実施する場合は、無症候性高尿酸血症でも血清尿酸値6.0mg/dL未満をめざしている。われわれは後ろ向きコホートとしてCKDステージ3/4の803名を対象に、リアルワールドの診療データから6年間の末期腎不全への進展(透析導入リスク)をエンドポイントとして尿酸値の影響を検討した。その結果、時間平均血清尿酸値が6.0mg/dL、6.5mg/dL、7.0mg/dLいずれの境界値でも、血清尿酸値の低値群は高値群に比べ透析導入リスクを有意に低下していた(図)6)。特に、境界値が6.0mg/dLの場合、血清尿酸値6.0mg/dL未満群は透析導入リスクを22%減少し、6.0mg/dL以上群と比べ有意差を認めた(p=0.01)6)7)。このことから、血清尿酸値を6.0mg/dL未満に維持することは臨床的有用性があると考えている。
図
高尿酸血症患者における透析導入リスク分析(傾向スコアマッチング後分析)
文献6)より改変・引用
随時尿から得られる情報を活用し
飲水励行や食事指導をベースに
薬物治療を行う
尿酸降下療法の具体的な進め方については、まず随時尿から尿酸濃度とCr濃度を測定し、尿中尿酸クレアチニン比を求める。この値が0.5以上の場合は尿酸産生過剰型、0.5未満の場合は尿酸排泄低下型と診断する8)。尿酸産生過剰型であればキサンチン酸化還元酵素(XOR)阻害薬を第一選択とし、それにより尿中尿酸クレアチニン比が0.5未満になっても高尿酸血症が持続すれば尿酸排泄促進薬を併用する。実際には病型が混在していることが少なからずあり、尿酸生成抑制薬を先行して体内の尿酸プールを小さくしてもなお治療が不十分であれば尿酸排泄促進薬を追加するのが合理的である。
薬物治療を開始する際は、少量から始めることが原則である。通常量であっても、血清尿酸値が急激に低下すると関節内でMSU結晶が剥がれ落ち、痛風発作を惹起する可能性があるからである。また、薬物治療開始時や薬剤の増量あるいは追加、変更時などに、随時尿で尿酸濃度が50mg/dLを超えていれば、2週間~1ヵ月間は尿路結石のリスクを考慮し、心機能の低下などがなければ1日2L以上の飲水を励行する9)。随時尿から得られる情報は多く、尿pHを確認することも重要である。pH 5.5以下であれば、酸性尿による尿路結石のリスクを考慮し、尿のアルカリ化を検討する9)。その方法として、まずは緑黄色野菜や海藻類などの摂取を勧め、それで不十分であれば高カリウム血症に注意しながら尿アルカリ化薬を試みる。
References
1) Sofue T, et al. PLoS One. 2020; 15: e0240402.
2) Iseki K, et al. Hypertens Res. 2001; 24: 691-7.
3) Iseki K, et al. Am J Kidney Dis. 2004; 44: 642-50.
4) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会(編).高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版.東京: 診断と治療社; 2018.
5) Kimura K, et al. Am J Kidney Dis. 2018; 72: 798-810.
6) Uchida S, et al. PLoS One. 2015; 10: e0145506.
7) 内田俊也.内科.2021; 128: 722-4.
8) 大田祐子,他.痛風と核酸代謝.2011; 35: 169-74.
9) 日本泌尿器科学会,他(編).尿路結石症診療ガイドライン2013年版.東京: 金原出版; 2013.