痛風発作とは
痛風は尿酸の代謝異常による疾患である。尿酸の過剰産生あるいは排泄低下により高尿酸血症(血清尿酸値>7.0mg/dL)が長期間持続すると、尿酸一ナトリウム(monosodium urate monohydrate:MSU)結晶が関節内・軟部組織内に析出沈着し、微小痛風結節が生じる。痛風発作とは、MSU結晶が急激な血清尿酸値の変動や外的な刺激などの要因で関節腔内に剥がれ落ち、白血球により貪食され激しい炎症を起こして生じる急性痛風関節炎である。
急性痛風関節炎は、MSU結晶沈着がメカニカルに刺激を受けやすい、心臓から遠く体温が低く結晶が溜まりやすい小さな関節などに起こりやすい。初発の急性痛風関節炎は7~8割が母趾中足趾節(MTP)関節に起こる。
罹患関節には日常生活や歩行が困難になるほどの非常に強い痛みがあるほか、腫脹や発赤、熱感などが認められ、それら症状は24時間以内にピークに達した後2週間ほどで消失する(self-limited)。初回痛風発作後に適切な治療介入がなければ、その後も痛風発作を繰り返す。頻度は個々で異なり、頻回に繰り返す場合もあれば、数年後に再発する場合もあり、急性発作を繰り返すうちにやがて慢性化し痛風結節を生じる。
確定診断には関節穿刺が必要だが…
痛風の確定診断のゴールドスタンダードは、関節を穿刺して関節液や組織内のMSU結晶を同定することである1)。しかし、穿刺が困難なことも多いため、まずは問診で、過去に血清尿酸値が高いと指摘されていないか、過去に同様の症状を経験していないか、家系的に血清尿酸値が高くないか、過去に尿路結石を指摘されていないか、高血圧や心疾患などのために利尿薬を処方されていないか、新たに尿酸降下薬を服用していないかなど確認する。
通常は中高年の男性で、前述の急性痛風関節炎の症状が母趾MTP関節にあり、以前から高尿酸血症を指摘されていた場合や同様の症状を繰り返し起こしている場合などの“典型例”には、関節穿刺を行わず痛風と診断してもよい2)。また、明らかな痛風結節があれば診断は確定的である。
一方“非典型例”、たとえば女性で、膝や手など大関節が痛い、慢性の痛みがある、関節だけでなくその周囲を含めて全体的に腫脹や発赤を認める、発熱などの全身症状がある場合や腫脹、発赤が日増しに増悪する、鎮痛剤治療を開始して2週間以上経ても痛みがおさまらない場合などには、外傷性関節炎や偽痛風、化膿性関節炎、回帰性リウマチ・関節リウマチ、乾癬性関節炎、蜂窩織炎、靱帯損傷、外反母趾などとの鑑別が必要になる。これらの疾患のなかで、生命危機や下肢切断などのリスクもある感染症との鑑別は非常に重要になる。
感染症合併の除外を含めて痛風の確定診断として、関節穿刺によるMSU結晶の証明を行う場合がある3)。関節液検査はMSU結晶の同定だけでなく、性状(化膿性関節炎では膿状)やグラム染色、培養などにより、化膿性関節炎などの感染症と痛風を鑑別できる。
また、血液検査やX線検査などの結果も考慮する。たとえば、血液検査で白血球数の上昇があれば感染症を、リウマトイド因子や抗CCP抗体が陽性であれば関節リウマチを疑い、X線検査で石灰化(ピロリン酸カルシウムの結晶)が確認できれば偽痛風を疑う。痛風ではリウマトイド因子や抗CCP抗体は陰性であり、MSU結晶はカルシウムを含まないためX線検査では確認できないからである。
診断のピットホール
痛風の診断にあたり念頭に置くべき点の一つは、痛風発作中の血清尿酸値は発作前より低値になることがあり、その診断的価値は低いことである1)。痛風発作中の血清尿酸値ではなく、これまでの血清尿酸値がどの程度であるかを患者に問診することが重要である。また、痛風発作は血清尿酸値の変動が引き金になることもあるため、他院での尿酸降下薬の処方・服用有無、開始時期、投与量を確認することが重要である。
関節エコーは診断にも治療にも有用
痛風では、関節エコーによる関節硝子軟骨表面の高輝度のMSU結晶沈着としてdouble contour sign(DCS)(図)、関節や関節腱周囲の微小結節(MSU crystal aggregate)の検出は比較的疾患特異性が高い4)。また、炎症が生じている場所、関節か軟部組織かの同定もでき、痛風と偽痛風や乾癬性関節炎、蜂窩織炎、外反母趾などとの鑑別診断に有用である。
さらに、尿酸プールの指標であるMSU結晶の沈着の程度から重症度を評価できることに加え、診療の場において患者に対する痛風の原因や病態の説明、尿酸降下療法と介入の必要性の説明、治療継続の指導、服薬コンプライアンスや治療に対するモチベーションの維持・向上の支援のツールとしても有用である。
図
痛風の関節エコー所見(DCS)
益田先生ご提供
実は痛風診断後のICが最も重要
以上のことを踏まえ、痛風と診断した患者には、痛風発作の治まった後にも必ず再来するインフォームドコンセント(informed consent:IC)を行うことが何よりも重要である。
初診時には患者に関節エコー画像を提示し、DCSを指し示しながら「ここに結晶が溜まっています」と原因を、「結晶が何らかの要因で雪崩を起こすと痛風発作が起こります」と病態を、「今後痛風発作が起こらないようにするには結晶を溶かす治療が必要です」と治療戦略を説明する。そのうえでさらに、「血清尿酸値が高いままだと腎臓が悪くなり将来透析になる可能性や、高血圧や心疾患などから心筋梗塞や脳卒中を引き起こして命に関わるリスクもあります」と合併症についても言及する。
さらに、次回受診時までに尿酸排泄低下型、尿酸産生過剰型、混合型いずれかをある程度把握しておくために尿検査を実施する。フェブキソスタットやトピロキソスタットなどの非プリンアナログ系尿酸生成抑制薬は病型にかかわらず十分な血清尿酸値の降下作用を認めるため、従来よりも病型分類を行う必要性は減っているが、たとえば極端な排泄低下型などの場合は尿酸降下薬の選択に影響を及ぼすことから、随時尿でもよいので検査を行うとよい。(尿中尿酸/尿中クレアチニン比)
痛風発作治療と尿酸降下治療の注意点
初発の痛風発作や尿酸降下薬未服用時の痛風発作の治療としては、原則、血清尿酸値を変動させ発作の増悪を招く恐れがあるので尿酸降下薬投与を開始せず、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)パルス療法で発作の鎮静をめざし、痛風発作がおさまれば新たに尿酸降下薬投与を開始する1)。その際にも、痛風診断時と同様に痛風の原因や病態、治療戦略、合併症などをあらためて説明したうえで、「尿酸降下薬により、血清尿酸値をMSU結晶が溶ける6.0mg/dL以下まで下げ、それを維持し続けて結晶沈着を消しましょう」と治療継続の重要性について強調する。
最初から長期間の服用については触れず、「まずは2~3年は尿酸降下薬を服用して、半年~1年ごとに関節エコーを実施し、結晶沈着の残りの状態を確認していきましょう」と治療計画の見通しを示す。また、尿酸降下治療開始後半年間は血清尿酸値が不安定なため、痛風発作が起こる可能性があることについても説明し、痛風発作時には尿酸降下治療を続けながらNSAIDパルス療法を追加するので、自己判断で尿酸降下薬を中止しないように注意喚起しておくことも大切である。
References
1) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会(編). 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版. 大阪: メディカルレビュー社; 2010.
2) Wallece SL, et al. Arthritis Rheum. 1997; 20: 895-900.
3) Janssens HJ, et al. Arch Intern Med. 2010; 170: 1120-6.
4) Dalbeth N, et al. Curr Opin Rheumatol. 2012; 24: 132-8.