痛風発症患者の治療継続
痛風の主症状である急性痛風関節炎(痛風発作)の患者は、疼痛を主訴に整形外科を受診する場合が多い。整形外科において、どのような痛風管理が行われているか、また、その後の治療継続のために内科と連携することの重要性について、整形外科と腎臓内科のエキスパート2人に解説いただいた。
痛風を取り巻く環境
森先生
まず、整形外科診療における痛風の位置づけについてお話します。
整形外科にはさまざまなサブスペシャリティがあります(図1)が、痛風は専門を問わず外来で診療しています。
2019年に、近畿大学整形外科学教室同門会(近整会)で痛風診療に関するアンケート調査を実施したところ、62施設156人中84人(53.8%)より回答が得られました。その結果、整形外科医が急性痛風関節炎に遭遇する頻度は、1ヵ月~数ヵ月に1度と回答した割合が約半数でした。また、痛風結節が高尿酸血症患者に合併している割合は、1〜5%と回答した割合が53%と最多でした。
内科診療における痛風治療の現状については、いかがでしょうか。
図1:整形外科のサブスペシャリティ
嶋田先生
痛風治療では治療の中断が問題視されています。2011年の日本リウマチ学会での発表によると、初診後1ヵ月以内に3割の患者が治療を中断し、1年後の受診継続率は約50%でした1)。
治療中断の原因として、痛風発作時の痛みがなくなることで患者が治療の必要性を感じなくなることや治療薬の服用に対する拒否感、痛みの消失に伴い痛風ではなかったのだと自分を納得させてしまう、などのケースが考えられます。患者には痛風発作の再発や合併症を予防し、さらに生命予後を改善するという治療継続の意義を理解してもらうことが必要と考えています。
また、患者側だけでなく医療者側にも、痛風治療中、血清尿酸値の管理目標値6.0mg/dL以下の順守が求められると思います。
森先生
患者背景については、いかがですか。
嶋田先生
2019年に、当院に初診で来院した134人の痛風患者背景をお示しします(表1)。痛風発作での来院が大部分で、合併症の内訳は慢性腎臓病(CKD)患者が2割弱、高血圧疑いが約半数でした。
表1:嶋田病院 痛風患者背景(2019年)
痛風関節炎の診断と鑑別
森先生
では、急性痛風関節炎の診断と鑑別に関して、内科と整形外科でどのような相違があるのかをお伺いしたいと思います。整形外科では、関節炎の原因の一つに痛風を疑って鑑別を行います。来院する痛風発作患者は痛みの除去が目的なので、その後、日常生活での健康管理のために整形外科への通院を継続する方は少ないです。
嶋田先生
当院では治療を開始する前に蓄尿検査や全身的な評価を行い、合併症に対する教育アプローチも含めて患者に治療方針を説明しています。そのことが健康管理の意識醸成につながっているのかもしれません。
森先生
整形外科では、4〜5月に痛風患者が増えているという印象がありますが、痛風を発症しやすい時期というのはあるのでしょうか。
嶋田先生
おっしゃるように、季節性があると感じています。年間でみると、梅雨入りから初夏にかけての時期と、年末年始の2つのピークがありますね。当院でも、気温の上昇とともに患者が増加する傾向があり、脱水になりやすい状況が引き金の一つになっているのではないかと考えています。
森先生
『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版』によると、急性痛風関節炎の好発部位は、母趾の中足趾節(metatarsophalangeal:MTP)関節が多いとされています2)が、嶋田先生のご施設ではいかがですか。
嶋田先生
やはり母趾MTP関節は多いです。次いで、第2から第5趾のMTP関節や足関節に多くみられるという印象です。
森先生
急性痛風関節炎の診断において、近整会のアンケート結果では、高尿酸血症の既往を最重視していました。また、母趾MTP関節の罹患と関節液中の尿酸一ナトリウム(monosodium urate:MSU)結晶を確認するとの回答が5割程度ありました。急性痛風関節炎を疑った際は、偽痛風や化膿性関節炎、蜂巣炎との鑑別を挙げた医師が多数でした。関節リウマチや変形性関節症との鑑別は問題ないという印象です。
先生はこの結果をご覧になって、どのようなご意見をお持ちですか。
嶋田先生
高尿酸血症の既往は非常に重要だと思います。特定の関節の炎症があるからといって、必ずしも痛風であるとはいえないと考えています。母趾MTP関節に痛みがあっても、痛風ではない場合もあります。
また、関節液については、非常勤の整形外科医と一緒に穿刺・採取し、鑑別するようにしています。関節液が化膿性かどうかを、整形外科医はどのように判断されていますか。
森先生
関節液細菌塗抹培養検査を必ず実施する医師は約4分の1で、状況によって実施する医師が半数程度でした。化膿性関節炎かどうかの鑑別は、経験の豊富な整形外科医であれば関節液の色を目視することである程度判断できる場合もあります。
また画像検査については、単純X線はほとんどの整形外科医が撮影していました。偏光顕微鏡を用いた関節液の検査は約50%の実施にとどまっていますが、令和4年度診療報酬改定で加算されるようになったと聞いています3)。
嶋田先生
当院では、全例に関節エコーを実施しています。関節エコーは保険適用外ではありますが、関節エコー画像ではdouble contour sign(関節軟骨の表面に確認される高輝度のMSU結晶)や関節滑膜の肥厚なども見て取れます。実際の画像をみせることで患者の納得感が高まり治療意欲も湧いてくるようです。症例によっては変形性膝関節症やリウマチなどを合併している場合もあり、X線、エコー、血清学的評価から総合的に鑑別していくことが重要と考えています。
急性期の薬物治療
森先生
『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版』では、「急性痛風関節炎(痛風発作)を起こしている患者において、NSAID・グルココルチコイド・コルヒチン(低用量)は非投薬に比して条件つきで推奨する」と記載されています2)。
近整会のアンケートでは、9割以上の整形外科医がNSAIDsで急性痛風関節炎の初期治療を行っていました。コルヒチンと回答した割合は26%で、経口グルココルチコイドの回答割合はそれよりも低いという結果でした。
コルヒチンがあまり使用されない理由として、肝機能障害患者・腎機能障害患者への慎重投与が必要なこと、消化器症状がみられる他、服用方法の煩雑さが挙げられていました。嶋田先生は急性痛風関節炎の初期治療をどのようにされていますか。
嶋田先生
私は早い段階で1日1錠0.5mgを投与し、コルヒチンカバー※をかけます。まず1ヵ月ほど使用してみて、問題がなければ6ヵ月以内で終了できるようにコントロールしていきます。NSAIDsとしては、痛風発作に適応のあるナプロキセンを使用しています。
当院では、NSAIDsで痛風発作を抑制しても、次に尿酸降下薬を投与するまでに発作を起こすおそれがあることから、尿酸降下薬投与前からコルヒチンを使用することで、尿酸降下薬のアドヒアランスを改善できると考えています。
※コルヒチンカバー:尿酸降下薬開始後に生じるおそれのある痛風発作の予防方法の一つ。コルヒチン0.5〜1.0mg/日を尿酸降下薬と併用し、3〜6ヵ月後にコルヒチンを中止する。欧米のガイドラインでも、コルヒチンの投与期間が8週間では中止後に関節炎が頻発することから6ヵ月が妥当であると推奨されている4)。
森先生
近整会のアンケートによると、コルヒチンを使用している整形外科医の約7割は痛風発作の前兆期にコルヒチンを4日などの短期で頓用していました。コルヒチンの予防投与期間はどの程度が妥当だとお考えですか。
嶋田先生
血清尿酸値が6.0mg/dLまで低下したタイミングで、患者と相談しながらコルヒチン投与を終了していきます。そこまで下がれば、あまりひどい発作は生じません。期間としては、3〜4ヵ月が妥当だと思います。
森先生
コルヒチンの安全性については、いかがですか。
嶋田先生
肝機能障害患者・腎機能障害患者への慎重投与の他、若年の男性の場合は男性不妊のリスク5)6)について説明したうえでコルヒチンを使用しています。それでも、患者は痛風再発作に対する恐怖があるため、コルヒチンカバーは少し長めを希望されるケースが多い印象です。
森先生
なるほど、わかりました。では、血清尿酸値が目標値に達するまでの期間、たとえば、急いで血清尿酸値を下げようとして尿酸降下薬の投与量を増加すると、急性痛風関節炎が起きやすくなるといった傾向はありますか。
嶋田先生
血清尿酸値は徐々に下げたほうがよいと思います。当院では、高尿酸血症の病型分類後、少量から投薬を開始し、6ヵ月以内に血清尿酸値を6.0mg/dL以下にもっていくことを一つの目安にしています。患者ごとに治療前の尿酸値や反応性も異なるので、一概にはいえませんが、コルヒチンカバーも併用しながら、3〜4ヵ月くらいで6.0mg/dL以下を達成できることが多いと思います。
慢性期の薬物治療・治療継続
森先生
慢性期の薬物治療は、2019年の近整会アンケートによると、整形外科医は尿酸生成抑制薬を中心に使用している結果が得られました。ベンズブロマロン、プロベネシドなどの尿酸排泄促進薬の使用は2割程度でした。尿酸コントロールの方針について、ご教示いただけますか。
嶋田先生
当院では、初診時に1泊2日の検査入院で蓄尿検査を行っています。24時間法による病型分類では、95%の患者が尿酸排泄低下型に該当し、尿酸排泄促進薬のベンズブロマロンを使用する場合が多くあります。メタボリックシンドローム傾向のある患者の場合は、尿酸排泄低下型であっても尿酸産生量を抑えないと尿酸値が下がりづらいため、まずは尿酸生成抑制薬を使うということもあります。その後、患者によっては尿酸排泄促進薬を併用する場合もあります。
森先生
治療の継続や生活習慣に関する工夫について伺えればと思います。
嶋田先生
当院の痛風クリニカルパスをお示しします(図2)。最初の2日間は病型分類、前後して関節エコー、腹部エコー、体脂肪率の測定(InBody)などを実施します。同時に、管理栄養士から栄養指導、理学療法士から運動指導も行っています。患者にも基本的な知識をもってもらい、そのうえで次回来院した際に検査結果について時間をかけて説明します。その後、尿酸降下薬投与を開始し、1ヵ月おきくらいに診て尿酸値を安定させていきます。
毎回、多職種が密接に患者とかかわりあうことで、治療継続率を改善させています。当院の痛風治療では、尿酸降下薬内服開始から半年後の中断率は17%であり、83%の患者が治療を継続しています。
図2:嶋田病院 痛風クリニカルパスと多職種連携
森先生
2020年秋に日本痛風・尿酸核酸学会で内科医を中心に実施されたアンケートによると、尿酸管理目標値6.0mg/dL以下は93.8%で順守されていました。
近整会のアンケートでは、尿酸管理目標値を6.0mg/dL以下と回答した割合は半数強で、次いで多かったのが、正常上限以内の回答でした。
このような結果を踏まえると、整形外科医に対してこの疾病分野に関する啓発を進めていかなければと実感します。
嶋田先生
ぜひ全国の痛風患者によりよい治療を施せるように、整形外科、内科の専門領域を超えて知識を共有していけたらと思っております。
森先生
ありがとうございます。急性痛風関節炎の治療は整形外科でも行いますが、その後の尿酸管理については、薬物治療以外にも総合的な取り組みが必要になってきますね。
嶋田先生
そこは内科医の腕の見せどころだと思います。内科医にバトンタッチいただくのも一つの選択肢ではないでしょうか。
森先生
本日は有意義なお話をいただき、ありがとうございました。
References
1) 市川奈緒美,他.痛風と核酸代謝.2013; 37:9-15.
2) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会(編).高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版.東京:診断と治療社;2018.
3) 厚生労働省.令和4年度診療報酬改定の概要.https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906922.pdf(閲覧:2022-5-20)
4) Wortmann RL, et al. Clin Ther. 2010;32:2386-97.
5) P Kastrop, et al. J Assist Reprod Genet. 1999;16:504-7.
6) F Neumann, et al. Andrologia. 1976;8:203-35.
森先生
本日は、整形外科臨床における痛風の日常診療に関するアンケート結果を紹介させていただきつつ、「痛風発症患者の治療継続」をテーマに、腎臓内科医として痛風患者を多く診療されている嶋田先生より痛風治療、尿酸管理の最適化のためにご意見をご教示いただければと考えています。どうぞよろしくお願いします。