対談CrossTalk

Vol.2
谷口敦夫先生×森戸俊典先生

痛風発作の病態と
診断・治療の実際

痛風は現在、患者数が増加傾向にある。しかし、診断に迷う症例があったり、治療のアドヒアランスが悪く痛風発作を繰り返してしまう患者さんがいたりと、その診断と治療は必ずしも容易とはいえない。そこで今回は、痛風発作の病態と診断・治療のポイントについて、本領域のエキスパートにクロストークにて解説いただいた。

谷口先生

本日は、近年増加傾向にある痛風の病態と診断・治療について、整形外科医として初発の痛風患者さんを多く診療されている森戸俊典先生とお話ししたいと思います。

森戸先生

よろしくお願いいたします。私は痛風の診断に超音波検査を活用しておりますので、本日はその画像も提示しながらお話しできればと思います。

谷口先生

痛風の有病率と臨床像

谷口先生

まずは私から、痛風とは何かについてお示ししたいと思います。

2018年の厚生労働省による国民健康・栄養調査1)で、血清尿酸値7.0mg/dL以上の男性は16.8%、すなわち約1,034万人と推計されます(男性総人口数61,532,495人より算出)。2019年の国民生活基礎調査2)では、男性の痛風患者数は約120万人とされていますので、高尿酸血症患者さんのなかで痛風患者さんは12%程度と考えられます。男性の痛風有病率は増加傾向にあり、有病率は年齢とともに上昇するとの報告が最近目立ちます。

痛風発作の臨床的な特徴としては、男性が多く、発症から疼痛のピークまでが24時間未満、疼痛の程度が強く(Visual Analog Scale(VAS)で10段階の7以上)、突然発症して2週以内に軽快する、単関節罹患、母趾MTP(metatarsophalangeal joints)関節あるいは足関節の罹患、罹患関節の発赤、罹患関節に触れるだけで痛みを訴える、歩行困難などの機能障害あるいは眠れないほどの痛み、あるいは安静時の痛みなどが挙げられます3)

痛風発作は高尿酸血症が持続した結果として、関節中に尿酸一ナトリウム(monosodium urate monohydrate:MSU)結晶が析出し、この結晶によって生じる急性関節炎です。痛風発作の発症までに、MSU結晶の沈着を伴う無症候性高尿酸血症の段階があります。沈着があってもすぐに発作が起こるわけではありませんが、血清尿酸値が高いほど、また高尿酸血症の期間が長いほど痛風発作を起こしやすいと示されています4)。痛風発作は急性の病態ですが、痛風発作の原因となるMSU結晶の沈着は慢性の病態であるところがポイントです。

森戸先生は臨床において、痛風発作の特徴をどのようにご覧になっておられますか。

森戸先生

痛風発作は体温度が低く、また運動量の多い四肢の末梢に起こりやすく、それも下肢の膝から下に生じることが多いといわれています。当院のデータでも、痛風患者さん291名の罹患関節は母趾MTP関節が44%と最も多く、次に足関節 14%、膝関節 9%、リスフラン関節 8%と続き、これらで合計75%にのぼります。

発作が起こる時間帯について、患者さんはよく「夜中に痛くて眠れなかった」、「痛みで目が覚めた」といわれ、海外の調査でも痛風発作は夜中から早朝に好発することが報告されています5)。また、当院で522例の痛風患者さんを対象に痛風発作を発症した月を調べると、5月が最も多く、次いで7月、6月、8月に多いことがわかりました。

谷口先生

痛風発作のメカニズム

谷口先生

次に、痛風発作のメカニズムについて解説いたします。痛風発作は、関節滑膜や軟骨表面へのMSU結晶の沈着が起因となります。その際、MSUが過飽和状態であることが重要な要素であり、そこに軟骨の破片やコラーゲンなど、結晶の種になるものがあると結晶が作られやすいといわれています。ただし、MSU結晶が全身に一様に沈着しているわけではないことから、関節局所の要因(温度、水分の移動、組織の変性など)も関係していると考えられています。

MSU結晶が沈着巣から剥落する(crystal shedding)と炎症の一連の過程が始まります。その際、剥落する結晶の大きさや表面を被う蛋白質なども炎症の発生に関係すると考えられています。ただ、MSU結晶が白血球に貪食されても、それだけで炎症が起こるわけではなく、脂肪酸などの他の要因が必要だと考えられています。痛風発作の発症において炎症性サイトカインであるIL-1βが中心的なメディエーターとなります6)が、脂肪酸などをToll-like receptor(TLR)が認識して、細胞内でPro-IL-1βが産生され、MSU結晶の貪食によりインフラマソームが活性化されると、Pro-IL-1βがIL-1βに変換されるといわれています(図1)7)

痛風発作のメカニズム図

図1: 痛風発作のメカニズム

文献7) より改変・引用

谷口先生

診断の流れとポイント

谷口先生

続いて森戸先生に、痛風の診断の実際について伺いたいと思います。

森戸先生

痛風発作らしき訴えで来院された患者さんに対しては、独自のチェックシート(表1)を用いて問診を行います。体温、血圧、身長、体重、腹囲、BMIを測定し、痛風や尿路結石などの既往症、痛風やリウマチの家族歴、飲酒や喫煙について聞き取ります。そして、過去に高尿酸血症が指摘されていた患者さんには健診データを次回に持参するように伝え、高尿酸血症の治療の有無、発作の経歴などを細かく確認します。また、なぜ痛風発作が片側性に起こるのかを解明すべく、利き足も確認するようにしています。利き足の定義もさまざまですので、ボールを蹴る方や歩き出しなど細かく確認します。

血清尿酸値は測定しますが、よく知られているとおり、痛風発作時は基準値内であることが多いです。当院の253名の痛風患者さんを対象とした調査では、30%が血清尿酸値7.0mg/dL以下でした。MSU結晶はX線透過性のため単純X線撮影では確認することができませんので、初回の痛風発作で来院され、血清尿酸値が基準値内かつ高尿酸血症の既往が不明の場合、確定診断に難渋することがあります。そこで重要なツールとなるのが超音波検査です。

表1: 痛風初診時チェックシート

痛風初診時チェックシート

森戸先生ご提供

谷口先生

超音波検査について是非、解説をお願いします。

森戸先生

超音波検査については、2007年に初めて痛風に特異的な所見としてdouble contour sign(DCS)が報告されました8)図2Aのように、関節軟骨の表面に沈着したMSU結晶の層が軟骨下骨のラインと並行にみえる状態のことです。そのほかに痛風に特徴的な所見として、hyperechoic aggregateなどといわれる結節像(図2B)、非特異的な所見ではありますがhyperechoic spotといった小さな点状に結晶がみえることもあります(図2C)。

当院で関節に初回痛風発作を起こした136例を調べると、DCSが65.0%、結節像が91.9%にみられました。DCSと結節像のいずれか、あるいはいずれもみられた患者さんは100%でした。つまり、初回発作時でも関節超音波検査にて必ずMSU結晶が検出できるということです。

超音波検査による関節に沈着したMSU結晶所見画像

図2: 超音波検査による関節に沈着したMSU結晶所見

森戸先生ご提供

通常はBモード法でみますが、パワードプラ法を用いると、滑膜炎による異常血流を観察することができます(図3)。たとえばアキレス腱など関節以外に発作を起こしている場合、圧痛点と一致して結晶らしきものを認め、パワードプラ法で異常血流を観察できれば診断をつけやすいです。また、赤く燃え上がっているようにみえますので、これをリアルタイムに患者さんに示すと効果的です。

超音波検査パワードプラ法による痛風発作時の滑膜炎所見画像

図3: 超音波検査パワードプラ法による痛風発作時の滑膜炎所見

森戸先生ご提供

谷口先生

鑑別診断にも超音波検査は有用ですか。

森戸先生

特に偽痛風と蜂窩織炎は鑑別の助けになります。まず偽痛風ですが、ご存じのとおり痛風とよく似た症状を訴えます。しかし当院のデータを分析すると、偽痛風は女性のそれも高齢の方に多く、発作が上肢や下肢の中関節にもよく発生し、約半数に37.5℃以上の発熱がみられました。そうした臨床的な特徴に加え、超音波像では、ピロリン酸カルシウム二水和物(calcium pyrophosphate dihydrate:CPPD)結晶の関節軟骨内への沈着がみられます。軟骨表面に沈着する痛風とは明らかに所見が異なります。

また、蜂窩織炎も痛風と診断を迷う疾患です。蜂窩織炎は皮下組織に細菌が侵入し、炎症から浮腫を起こした状態であり、超音波検査では浮腫による間質液の増加に伴い、皮下組織の「敷石様所見」を認めます。パワードプラ法では浮腫の箇所に異常血流がみられ、滑膜炎により関節包の周辺に異常血流をみとめる痛風とは所見が異なります。

谷口先生

ありがとうございます。超音波検査の他にはどのような検査を実施されていますか。

森戸先生

発作が鎮静化したら、病型分類のために尿酸クリアランスを60分法で測定しています。また、尿pHの日内変動を試験紙により自宅で調べ来院してもらっています。

谷口先生

治療の実際

谷口先生

痛風発作の治療はどのようにされていますか。

森戸先生

関節炎を鎮静化させるために非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を使用します。初日のみナプロキセン製剤300mgを3時間ごとに3回投与し、その後も関節痛が続く場合は常用量で1日量300~ 600mgを2~3回に分け投与を行います。腎機能の低下した方にはNSAIDの使用は避け、経口グルココルチコイドを用います。また、NSAIDのみで痛みが治まらない患者さんには、経口グルココルチコイドを10mg程度上乗せしています。頻回に痛風発作を繰り返すような患者さんには、尿酸降下薬投与開始後に発作再発防止のため、コルヒチン1日0.5mgを連日服用するコルヒチン・カバーを行います。

なお、痛風発作を早く消退させるためには、発作中の血清尿酸値を変動させないことが望ましいことから、尿酸降下薬の投薬は、発作鎮静後に開始します。すでに尿酸降下薬を服薬中の場合は継続が必要ですので、患者さんには、「痛風発作が起こった際に、尿酸降下薬を止めても増やしてもいけない」ことを伝えています。

※ナプロキセン製剤の痛風発作に対する投与量は、初回400~600mg

谷口先生

痛風発作鎮静後の治療戦略についてお聞かせください。

森戸先生

血清尿酸値6.0mg/dL以下を目指して、尿酸降下薬を処方して尿酸コントロールを行います。酸性尿を伴う患者さんには尿アルカリ化薬も併用します。生活指導としては、摂取エネルギーの適正化と十分な水分摂取、飲酒量の制限、有酸素運動の推奨をしています。

診察時には、毎回、血圧と体重を測定し、受診までの期間における痛風発作や予兆の有無を聞きとり、飲酒量の確認も時折行います。血液検査・尿検査は、投薬開始後2年間は2ヵ月ごとに、それ以降は3~4ヵ月ごとに行っており、超音波検査は6ヵ月ごとに実施しています。

谷口先生

尿酸降下薬の使い分けについてはどのようにお考えですか。

森戸先生

近年は薬剤選択に病型分類は必ずしも必要ではないという流れにありますが、効果的な薬剤の選択および副作用の軽減のために、患者さんの病態を考慮することは重要だと考えています。たとえば、尿酸産生過剰型の患者さんに尿酸排泄促進薬を使用する際には、尿路結石予防のための尿路管理を十分に行う必要があります。また、尿酸排泄低下型の患者さんにアロプリノールを投与する際には、血中オキシプリノール濃度の上昇に伴う副作用が懸念されるため注意が必要です。非プリン型選択的キサンチンオキシダーゼ阻害薬のフェブキソスタットやトピロキソスタットについては、腎機能に対する影響が少ないことから、中等度腎機能低下までは用量調節の必要がなく使用しやすいです。新たに登場した選択的尿酸再吸収阻害薬(Selective Urate Reabsorption Inhibitor:SURI)のドチヌラドは、尿酸トランスポーター(URAT1)選択性が高く、効率よく尿酸排泄を促進するので、今後、使用経験を積んでいきたいと思っています。

谷口先生

患者指導のポイントがありましたら教えてください。

森戸先生

患者さんには、「血清尿酸値が6.0mg/dL以下の状態を続けなければMSU結晶が溶けていかないこと」、「7.0mg/dLを超えるとせっかく減り始めたMSU結晶がまた増えてしまうこと」を強調して伝えています。そして定期的に血清尿酸値を測定し、6.0mg/dL以下であれば「グッドコントロール!」、「ベリーグッド!」といって励ましています。

また、超音波所見で服薬により関節に蓄積した結晶が溶けて減少している様子をみせて実感してもらうことも有用です。超音波検査のメリットの一つは、MSU結晶の蓄積を可視化できるところであり、治療へのアドヒアランス向上のツールになり得ます。

谷口先生

ありがとうございました。痛風発作の基本事項から診断や鑑別、治療の実際まで、幅広くお話しできたかと思います。特に、超音波検査を用いた診断のポイントや患者さんの治療アドヒアランスよくする工夫などはとても参考になるものでした。ありがとうございました。

森戸先生

こちらこそありがとうございました。

References
1) 厚生労働省. 血清尿酸値の分布. 平成30年国民健康・栄養調査.
2) 厚生労働省. 性・年齢階級・傷病(複数回答)別にみた世帯人員・通院者数・通院者率. 2019年国民生活基礎調査の概況.
3) Taylor WJ, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2015;67:1304-15.
4) Dalbeth N. Ann Rheum Dis. 2018;77:1048-52.
5) Choi HK, et al. Arthritis Rheumatol. 2015;67:555-62.
6) 山下浩平. 高尿酸血症と痛風. 2018;26:19-24.
7) Dalbeth N. Lancet. 2016;388:2039-52.
8) Thiele RG, et al. Rheumatology. 2007;46:1116-21.