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高尿酸血症をマネジメントする
尿酸 NEXT Stage 2023 No.4
ヒトの血管内皮はその総重量が肝臓とほぼ等しく、総面積はテニスコート約6面分、総延長が地球約2.5周に相当する人体最大の内分泌器官の1つである。
正常な血管内皮は、血管の拡張と収縮、血管平滑筋の増殖と抗増殖、凝固と抗凝固、炎症と抗炎症、酸化と抗酸化のバランスをとることにより、血管トーヌス(血管壁における収縮力の状態)の調節のみならず血管恒常性の維持に重要な役割を果たす。血管内皮が障害されるとこれらのバランスが崩れ、動脈硬化が生じる。動脈硬化は血管内皮機能障害を第一段階として発症し、進行すると心血管疾患を引き起こす1)。
尿酸は、高血圧や脂質異常症、糖尿病、喫煙、CKD、肥満、閉経などの動脈硬化リスク因子と密接に関連しており、心血管疾患発症のリスクマーカーと考えられている(図1)2)。一方、動脈硬化の病態形成や発症、維持における尿酸単独の役割を調べることは困難であり、尿酸が心血管疾患の独立したリスク因子であるかどうかについて、一定の見解は得られていない。ただ、これまでの臨床研究や基礎研究の結果から、高尿酸血症により血管内皮機能が障害される可能性が示唆されている。
図1尿酸と心血管疾患の関係
丸橋先生 作成
たとえば、高尿酸血症合併患者では、血管内皮機能の指標である血流依存性血管拡張反応(FMD)が有意に低下していることが報告されている3)。また、男性における尿酸とFMDの関係として、尿酸がFMDの独立したリスク因子であることも示されている4)。一方、女性において尿酸が内皮機能障害の独立したリスク因子であるかどうかについては、あまり検討されていない。さらに、閉経の有無が尿酸と内皮機能の関係に関連するかどうかも不明なままであった。そこでわれわれは、749名の女性を対象に尿酸と血管内皮機能障害の関連について検討を行ったところ、単変量解析において、血清尿酸値の上昇とともにBMI、収縮期血圧、総コレステロール、中性脂肪、血糖が有意に上昇、eGFRは有意に低下し(すべてp<0.001)、高血圧症、脂質異常症、メタボリックシンドローム、CKDの有病率が上昇していた5)。一方で、血清尿酸値の上昇に伴い、FMDは漸減を示した(4mg/dL未満:6.85± 3.65%、4~5mg/dL未満:6.79± 3.60%、5~6mg/dL未満:6.24±3.58%、6mg/dL以上:5.27± 3.18%、p=0.01)5)。次にFMD≤4.9%を血管内皮機能障害と定義して多変量解析を行うと、血清尿酸値との有意な関連は認められたが、年齢や他のリスク因子(HDL-C、血糖値、喫煙)で補正をしたところ関連は消失した5)。そこで血清尿酸値と血管内皮機能障害との関係について閉経を考慮し、閉経有無別に多変量解析を行うと、閉経前女性では有意な関連は認められなかったが、閉経後女性の高尿酸血症は血管内皮機能障害の独立したリスク因子(OR:1.23、95%CI:1.01~1.50、p=0.04)となった5)。
ここで、高尿酸血症が血管内皮機能障害を引き起こすと考えられる機序(図2)2)を示す。1つは、キサンチン酸化酵素(XO)を介した血管内皮機能障害である。尿酸産生過程で働くキサンチン酸化還元酵素(XOR)の酸化型であるXOは、プリン代謝の最終段階においてキサンチンから尿酸への酸化反応を触媒する酵素であり、血管内皮細胞にも発現する。その酸化反応の際に、酸素分子(O2)を電子受容体とするため、活性酸素であるスーパーオキシド(O2−)が生成される。O2−の活性自体は弱く反応性に乏しいが、NOと反応してNOを不活化させると同時に、強力な酸化物質であるペルオキシナイトライト(ONOO−)を生成させて血管内皮機能障害を引き起こす。
図2高尿酸血症による血管内皮機能障害の機序
丸橋達也, 他. 高尿酸血症と痛風. 2018;26:38-41より引用改変
もう1つは、尿酸自体による血管内皮機能障害である。近年、血管内皮細胞には尿酸トランスポーターであるURATv1(GLUT9)が発現し、血管内皮細胞への尿酸の取り込みに重要な役割を果たしていると推察されている。ヒト血管内皮細胞を用いた研究からも、血管内皮細胞に取り込まれた尿酸は、炎症や酸化ストレスを惹起し、NOの生物学的活性の低下、内皮細胞の増殖・遊走能の低下、内皮細胞の老化やアポトーシスの亢進を介して血管内皮機能障害を引き起こすと考えられている6)-8)。さらに、これらの血管内皮細胞における反応が、尿酸トランスポーター阻害薬の添加により抑制されることも確認されている6)-8)。
具体例として高尿酸血症患者を対象にXOR阻害薬であるトピロキソスタットを用いて血管内皮機能に対する効果を検討した研究では、8週後に血清尿酸値の有意な低下(7.31±1.43mg/dLから5.44± 1.11mg/dL、p<0.001)と、FMDの有意な増加が認められている(4.53±2.09%から5.54± 3.08%、p=0.045)9)。さらに、血管内皮機能に対するアロプリノールの効果を検討した10件のRCTのメタ解析では、FMDの有意な増加が示されているが(WMD:1.79%、95%CI:1.01-2.56、p<0.001)、血清尿酸値の変化とFMDの変化との間に有意な関連は認められなかった10)。この結果は、血清尿酸値の低下効果とは無関係に、XO阻害により血管内皮機能が改善されたと解釈できる。
一方、尿酸トランスポーター阻害薬について、プロベネシドを用いた検討では、8週後のFMDにおいて有意な変化は認められなかったが(7.4±5.1%から8.3± 5.1%、p=0.7)11)、尿酸トランスポーター阻害薬の血管内皮機能に対する効果を検討した研究そのものが少なく、今後のさらなる検討が期待される。
尿酸には、まだまだわれわれの知らないメカニズムが存在すると考えられる。高尿酸血症が血管内皮機能障害や動脈硬化進展、さらに長期的な視点で心血管疾患の発症にどのような影響を及ぼすのか、さらなる知見の蓄積が必要である。
References
1) Higashi Y, et al. Circ J. 2009;73:411-8.
2) Maruhashi T, et al. Atherosclerosis. 2018;278:226-31.
3) Kato M, et al. Am J Cardiol. 2005;96:1576-8.
4) Tomiyama H, et al. Am J Hypertens. 2011;24:770-4.
5) Maruhashi T, et al. BMJ Open. 2013;3:e003659.
6) Kang DH, et al. J Am Soc Nephrol. 2005;16:3553-62.
7) Mishima M, et al. Drug Res (Stuttg). 2016;66:270-4.
8) Yu MA, et al. J Hypertens. 2010;28:1234-42.
9) Higa S, et al. J Clin Hypertens (Greenwich). 2019;21:1713-20.
10) Cicero AFG, et al. Drugs. 2018;78:99-109.
11) Borgi L, et al. Hypertension. 2017;69:243-8.