QA& 専門医に聞く、治療のABC
森 克仁 先生
大阪公立大学大学院医学研究科 腎臓病態内科学 准教授

Vol.11
SGLT2阻害薬の血清尿酸値への影響について教えてください
  • SGLT2阻害薬は糖尿病、および併存疾患へのエビデンスが蓄積されつつある
  • SGLT2阻害薬による血清尿酸値低下は、尿中尿酸排泄亢進によるものと考えられる
  • 十分な血清尿酸値低下作用を求める場合は、病態に応じて尿酸降下薬の使用を検討する

SGLT2阻害薬は併存疾患合併症例へのエビデンスが蓄積されつつある

わが国における糖尿病診療の考え方を示したコンセンサスステートメント1)では、2型糖尿病の薬物治療のアルゴリズムとして、まずはインスリンの適応か否かを確認し、肥満の有無に応じて薬剤選択を行うとしている。そして、低血糖リスクをはじめ安全性に配慮し、心血管疾患、心不全、慢性腎臓病(CKD)などの併存疾患にはAdditional benefitsも考慮してSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬を用いることが示されている。

Additional benefitsについて採用したエビデンスのほとんどが海外からの報告である点には注意が必要だが、併存疾患に対するSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の有用性は妥当と考えられる。日本でもCKDと慢性心不全の適応を取得したSGLT2阻害薬があり、診療科を超えて注目される機会が増えている。

米国糖尿病学会のStandards of Medical Care in Diabetes2)でも、第一選択は基本的にメトホルミンと生活習慣改善を含めた包括的な治療だが、動脈硬化性心血管疾患の合併あるいは高リスク状態、心不全、CKD合併例ではSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬がレベルAで推奨されている。

SGLT2阻害薬による血清尿酸値低下は、尿中尿酸排泄亢進によるものと考えられる

原尿中のグルコースは近位曲尿細管管腔側に発現するSGLT2により90%、近位直尿細管に発現するSGLT1により10%が近位尿細管細胞内に取り込まれ、それぞれ基底膜(血管側)に発現するグルコーストランスポーター(GLUT)2、GLUT1を介して血管内に輸送(再吸収)される(図13)

血糖値が約180mg/dL以上になると、原尿中のグルコースは近位尿細管の再吸収能を超え、尿糖排泄として観察されるが、糖尿病患者では尿細管における糖再吸収能が亢進していることが知られている3)。SGLT2阻害薬はグルコース再吸収の90%を担うSGLT2を阻害し血糖を低下させるとともに、臨床試験では各薬剤に共通して対照に比べ有意な血清尿酸値の低下作用が観察されている4)

健常成人男性を対象にSGLT2阻害薬の1つであるルセオグリフロジンの血清尿酸値低下作用機序を検討した研究では、本剤投与による血清尿酸値低下と尿中尿酸排泄量増加が相関し、尿中尿酸排泄量の増加と尿糖排泄量の増加も相関していた5)。また、ルセオグリフロジンはin vitroにてURAT1を含むさまざまな尿酸トランスポーターの活性を阻害しなかったことから、本剤の尿酸排泄促進作用は尿糖排泄増加を介した間接作用と考えられた5)

そこで本研究では、尿酸とグルコースの双方を輸送する尿細管管腔側に存在するGLUT9 isoform2に着目し、GLUT9 isoform2を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞を用いた検討が行われた。その結果より、①近位尿細管におけるSGLT2阻害薬による尿細管管腔のグルコース濃度上昇、②上昇したグルコース(10mMグルコース)のGLUT9 isoform2刺激によるグルコースと尿酸の交換輸送(尿酸分泌)促進(Trans-stimulatory effect)、③集合管における高濃度グルコース(100mMグルコース)によるGLUT9 isoform2阻害による尿酸再吸収の抑制(Cis- inhibitory effect)、という仮説が提唱された。図25)

よって本研究からは、SGLT2阻害により増加した尿糖がGLUT9 isoform2を介し尿酸排泄を促進または取り込みを阻害することが示唆されるが、あくまでもin vitroの結果であり、in vivo、ヒトにおいても同様であるのか、今後さらなる検証が必要と考えられる。

図1近位尿細管におけるグルコース再吸収

ATP:アデノシン三リン酸

文献3)より作図

図2SGLT2阻害薬による尿中・尿酸排泄増加の機序(仮説)

文献5)より作図

十分な血清尿酸値低下作用を求める場合は、病態に応じて尿酸降下薬の使用を検討する

『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版(2019年改訂)』6)では、無症候性高尿酸血症であっても、合併症があれば血清尿酸値8.0mg/dL以上から、合併症がない場合は9.0mg/dL以上から薬物治療を開始し、痛風関節炎をくり返したり痛風結節がある場合の治療目標としては血清尿酸値6.0mg/dL以下が推奨されている。

2型糖尿病を対象としたSGLT2阻害薬の臨床試験では各薬剤投与群で対照に比べ有意な血清尿酸値の低下が観察されたが、62本のRCT(34,941名)によるメタ解析ではSGLT2阻害薬による血清尿酸値の低下は平均-0.634mg/dLであった4)

一方、たとえば糖尿病性腎症合併高尿酸血症患者を対象としたETUDE試験では、トピロキソスタット24週間の投与によって、低用量(40mg/日)群で-1.5 ± 0.26mg/ dL、高用量(160mg/日)群では-3.3 ± 0.26mg/ dLと、血清尿酸値の有意でかつ著明な低下が得られている7)

SGLT2阻害薬による血清尿酸値の低下作用は紛れもない事実である。しかし、実臨床において、目標とする十分な尿酸値低下作用を得られるかどうかは大きな疑問である。また、SGLT2阻害薬はCKD合併糖尿病患者において腎保護の観点からは推奨されるが、CKDステージG4以降に該当するような高度腎機能低下例では尿糖排泄も低下するため、尿中尿酸排泄増加も期待できず、理論的には尿酸値低下作用も減弱する点にも留意されたい。

高尿酸血症の治療においては、病態に応じて十分な血清尿酸値低下作用の得られる尿酸降下薬を使用することで、治療目標到達をはじめとする臨床ニーズが充足されると考えられる。

References
1) 坊内良太郎,他.糖尿病.2022;65:419-34.
2) American Diabetes Association Professional Practice Committee.Diabetes Care.2022;45:S125-43.
3) Nair S,et al.J CIin Endocrinol Metab.2010;95:34-42.
4) Zhao Y,et al.Diabetes Obes Metab.2018;20:458-62.
5) Chino Y,et al.Biopharm Drug Dispos.2014;35:391-404.
6) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会(編).高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版(2019年改訂).東京:診断と治療社;2018.
7) Mizukoshi T,et al.Nephrology (Carlton).2018;23:1023-30.