QA& 専門医に聞く、治療のABC
山本 徹也 先生
社会福祉法人大阪暁明館 大阪暁明館病院 検診センター長

Vol.10
プリン体カットビールは血清尿酸値を上げませんか?
  • プリン体カットのビールは通常のビールに比べ血清尿酸値を上げないが、飲む量が増えればプリン体が少ないアルコール飲料でも血清尿酸値を上げる
  • アルコール飲料の種類により血清尿酸値上昇(痛風発症)のリスクが異なる

飲酒が血清尿酸値を上昇させ、痛風発作を引き起こすことは経験的によく知られている。米国の前向き研究1)においても、痛風の発症リスクは飲酒量と比例して増加することが報告されている。ただし、アルコール飲料の種類によってそのリスクは程度が異なり、ワイン1日1杯(118mL、エタノール含有量11.0g)なら痛風発症に有意な関連は認められない。ウイスキーなどの蒸留酒は1日1杯(44mL、同14.0g)で相対リスク(RR)は1.15[95%信頼区間(CI)1.04〜1.28]に対し、ビールは1日1本(355mL、同12.8g)でRR1.49(95% CI 1.32〜1.70)にまで増加していた。また、日本人約8万人の健診データを用いた横断研究2)でも、男女ともビールが血清尿酸値の上昇と関連していたことが報告されている。

ビールは他のアルコール飲料に比べ、プリン体を多く含むことが知られている。アルコールを含まないビール凍結乾燥物の水溶液が血清尿酸濃度を有意に上昇させたとする報告3)からも、ビールに含まれるプリン体が血清尿酸値の上昇に関与すると考えられる。そこで近年、特殊製法でプリン体含有量を減らしたプリン体カットビールが開発されており、「これなら安心」と手にする患者さんも多い。

ここで留意すべきは、血清尿酸値の上昇にはプリン体のみならず血中アルコール濃度も関連している点である。血中アルコール濃度が50〜100mg/dLではほとんど影響がないが、ビールを飲んだ場合、100〜200g/dLになると血清尿酸値は13〜24%上昇し、200g/dL以上になると20%上昇する4)。これは、アルコールを大量に摂取するとアデノシン三リン酸(ATP)の産生低下による過剰消費が起こり、プリン分解が促進されて尿酸が産生されるためである。また、アルコール代謝過程における乳酸上昇が尿酸排泄低下を起こすものであり、アルコール飲料の種類を問わない。

よって、「プリン体カットビールなら飲んで大丈夫ですか?」と質問する患者さんがいれば、答えは「プリン体カットビールであっても量次第」である。

さらに付け加えれば、最近ブームのサウナや運動の後にビールを摂取すると、血清尿酸値が相加的に上昇しやすい点にも注意が必要である5)6)図1、2)。そもそも、サウナは発汗による脱水から尿中尿酸排泄が低下し、筋力トレーニングなど強度の高い運動では筋肉内のATP消費によりプリン分解が促進され、尿酸排泄を抑制する乳酸が過剰産生されることで血清尿酸値を上昇させる。

図1ビールとサウナの血清尿酸値に与える影響

山本先生 作成

図2運動とビールの血清尿酸値に与える影響

山本先生 作成

そのため、たっぷり汗をかき、喉が渇いたときの1杯としてビールは極力控えるべきである。逆に推奨されるものの1つが乳製品であり、痛風の発症リスクの抑制に有効とされている7)。手軽に摂取できる点からも、「汗をかいたあとの1杯」として、牛乳などはお勧めの飲料といえる。

References
1)Choi HK,et al.Lancet.2004;363:1277-81.
2)Fukui S,et al.JAMA Netw Open.2023;6:e233398.
3)Yamamoto T,et al.Metabolism.2002;51:1317-23.
4)Yamamoto T,et al.Clin Chim Acta.2005;356:35-57.
5)Ka T,et al.J Rheumatol.2003;30:1036-42.
6)Yamamoto T,et al.Metabolism.2004;53:772-6.
7)Choi HK,et al.N Engl J Med.2004;350:1093-103.

痛風発作の前兆にはどのような症状がありますか?また、痛風発作を起こさないための対処方法を教えてください
  • 前兆の症状としては、「患部の違和感」、「軽い痛み」、「むずむずした感じ」など
  • 痛風発作リスクの高い患者さんには痛風発作特有の前兆を伝え、早期受診を勧める
  • 十分な尿酸管理をベースにコルヒチンをうまく使うことで再発を予防する

痛風発作の前兆として、患者さんはしばしば「患部の違和感」、「軽い痛み」、「むずむずした感じ」を訴え、時間帯は朝方が中心で、「朝起きると足に違和感があり、どこかにぶつけたのかと思った」と表現する患者さんもいる。過去に痛風発作を経験した患者さんは前兆症状を感じたとき、市販の鎮痛消炎剤などを服用し発作に備える患者さんもいるが、これまでに発作を経験したことのない方では、発作の前兆を感じてもそれが痛風発作の前兆症状とは気づかず、多くは24時間以内に激烈な痛みを迎える。

対策として、無症候性高尿酸血症の通院患者さんにおいては血清尿酸値が7.0mg/dLより高く、患者背景(家族歴)や生活習慣などから痛風発作のリスクが示唆される場合、痛風発作の原因となる尿酸塩結晶(MSU)を消失すべく、尿酸値を6.0mg/dL以下に維持することを目標とし、さらに上述の前兆を伝え、可能な限り早期の受診を勧めることが重要である。

痛風発作既往歴がある患者さんに対しては、わが国で実施されたFORTUNE-11)からも、痛風患者さんを尿酸降下薬常用量のみの投与群(非漸増群)、漸増法による投与群(漸増群)、尿酸降下薬常用量投与とコルヒチン少量投与の併用療法群(コルヒチンカバー群)の3群に分けた検討によって、非漸増群に比べ漸増群とコルヒチンカバー群では痛風発作の頻度が低く、漸増群とコルヒチンカバー群の比較では痛風発作の頻度に差は認められなかった。コルヒチンには発作予防の適応もあるため、尿酸降下薬にて十分な尿酸管理をベースにコルヒチンをうまく使いこなすことも重要である。

References
1)Yamanaka H,et al.Ann Rheum Dis.2018;77:270-6.