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高尿酸血症をマネジメントする
尿酸 NEXT Stage 2023 No.1
体内で産生された尿酸は主に腎臓から尿中に排泄されることから、腎機能低下により尿酸排泄が低下し、血清尿酸値が上昇すると考えられている。一方、観察研究では血清尿酸値が高くなるほど腎機能が低下する傾向が認められている。
沖縄の一般住民を対象に尿酸と腎機能関連を検討したIsekiらのコホート研究では、血清クレアチニン値上昇における相対危険度が血清尿酸値の上昇と有意な関連を有していたことが報告されている1)。 41,632人の大規模コホートを対象とした我々の検討においても、血清尿酸値 6.0mg/dL以上は、男性では腎機能障害発症のリスク因子であり(図1)2)、女性では蛋白尿発症のリスク因子となることが明らかとなっている2)。
図1腎機能と血清尿酸値の関連
追跡期間の中央値4年。
A:文献2)より引用、B:遠山先生 提供
また、腎生検の検討により、血清尿酸値が高いほど細動脈の硝子化や壁肥厚などの腎細動脈硬化所見が悪化する傾向が認められている3)。このような病理学的背景も、臨床において高尿酸血症患者の尿酸値を下げるべきとする理論的根拠となっている。
さらに近年、尿酸降下薬における腎機能低下の抑制効果を検討すべく、複数の無作為化比較試験(RCT)が実施されている。わが国で最大規模の介入研究はフェブキソスタットを用いたFEATHER studyである。本試験では血清尿酸値の有意な低下は確認されたが主要評価項目である推算糸球体濾過量(eGFR)の変化に有意差は認められなかった4)。
ここで、近年実施された2つの介入研究を紹介する。まず、微量アルブミン尿を伴う糖尿病性腎臓病合併高尿酸血症患者を対象に早朝尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の変化率について検討したUPWARD studyである。トピロキソスタット群はプラセボ群に比べベースラインからのUACR変化率に有意差は認められなかったものの、副次評価項目ではトピロキソスタット群はプラセボ群に比べ28週時点で血清尿酸値の有意な低下に加え、eGFR変化量の有意な抑制が認められた5)。さらに、顕性蛋白尿を伴う糖尿病性腎臓病合併高尿酸血症患者を対象に実施したETUDE studyでは、トピロキソスタット40mg/日(低用量群)および160mg /日(高用量群)のいずれにおいても薬剤投与24週後で血清尿酸値が有意に低下し、主要評価項目であるアルブミン尿が高用量群で有意に減少することが報告された6)。
一方、CKD-FIX studyでは糖尿病合併例が半数弱を占めるアルブミン尿が顕著なCKD患者を対象にアロプリノールを投与し、eGFRの変化に有意差は認められなかった7)。
これらの試験結果を踏まえ、糖尿病性腎臓病に伴う高尿酸血症患者においてアルブミン尿減少、腎機能維持による腎保護をめざすならば、トピロキソスタットは病態によっては有用な選択肢の1つと考えることができる。
ここで、高尿酸血症の合併症に汎用されるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)とSGLT2阻害薬による血清尿酸値低下のエビデンスにも着目したい。
まず、ARBのなかでも、ロサルタンカリウムは尿細管における尿酸の再吸収を担うURAT1を阻害して尿酸の排泄を促進することが知られており、実際、血清尿酸値を平均0.8mg/dL低下させたことが報告されている8)。また、SGLT2阻害薬による血清尿酸値の低下は平均0.7mg/dLであった9)。仮に合併症を有する高尿酸血症患者の血清尿酸値が8.0mg/dLを超えていれば、これらの薬剤による尿酸値低下作用は、臨床的には十分ではない可能性がある。
実際、臨床で糖尿病性腎臓病の診療において、ARBやSGLT2阻害薬を使用しているにもかかわらず進行性に腎障害進行する症例に遭遇する。ときに1年足らずで微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿へと変化するような症例があるなかで、高尿酸血症合併例に対して腎保護が期待できる尿酸降下薬が治療選択肢として存在することは、医療側はもちろん、患者側にとっても心強いと思われる。
糖尿病性腎臓病は進行性の病態であることが多く、患者と医療従事者で尿酸治療の効果を共有しにくい場合があることがある。そこで私自身は、投与開始時には「この薬は、尿酸値の低下に加えて腎機能低下のスピードを緩めることが期待できる」と説明し、その後は随時データに加え年単位の腎機能推移を共有するよう努めている。そうした工夫で、患者の治療に対するモチベーションの向上も期待できる。
なお、臨床での留意点として、女性の糖尿病患者は非糖尿病例に比べ高尿酸血症の合併率が有意に高く、その値は高血圧患者に次いで高値であることが報告されている(図2)10)。男性に比べ頻度は低いが、女性の糖尿病患者を診る際には高尿酸血症の存在にも注意を払うことで、治療選択肢に次の一手が加わる可能性がある。
図2男女における疾患別高尿酸血症の合併率
*:p<0.0001(カイ二乗検定),#:p<0.0001(コクラン-アーミテージ検定),NS:Not significant
文献10)より引用
References
1) Iseki K,et al.Hypertens Res.2001;24:691-7.
2) Toyama T,et al.PLoS One.2015;10:e0137449.
3) Kohagura K,et al.Hypertens Res.2013;36:43-9.
4) Kimura K,et al.Am J Kidney Dis.2018;72:798-810.
5) Wada T,et al.Clin Exp Nephrol.2018;22:860-70.
6) Mizukoshi T,et al.Nephrology(Carlton).2018;23:1023-30.
7) Badve SV,et al.N Engl J Med.2020;382:2504-13.
8) Würzner G,et al.J Hypertens.2001;19:1855-60.
9) Zhao Y,et al.Diabetes Obes Metab.2018;20:458-62.
10) Higa S,et al.Arch Rheumatol.2019;35:41-51.