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高尿酸血症をマネジメントする
尿酸 NEXT Stage 2022 No.1
痛風発作の原因は、関節内における持続的な尿酸ナトリウム塩結晶の沈着であり、血清尿酸値>7.0mg/dLの期間が持続することが条件となる。痛風発作を懸念する患者は多いが、健康診断で高尿酸血症が判明し、自発的に医療機関を受診するケースは稀であろう。
痛風発作を懸念しつつも治療を敬遠する患者には、積雪モデル(図)1)を用いた説明が有用である。尿酸ナトリウム塩結晶を雪、高尿酸血症を降雪とすると痛風発作は雪崩にたとえられ、雪が降り積もってもすぐに雪崩は起きないが、一部が溶け出すと雪崩が起きる。雪崩を阻止するには積もった雪を少しずつ溶かす、すなわち血清尿酸値をゆっくり下げながら尿酸ナトリウム塩結晶を徐々に溶かす必要がある。
また、高尿酸血症は痛風発作のみならず腎障害や心血管死、全死亡のリスクとなる。わが国の縦断的全国規模のコホート研究からも、血清尿酸値の上昇はより急速なeGFRの低下や腎不全と関連し2)、血清尿酸値が高い場合に全死亡および心血管死亡のハザード比(HR)が増加すること3)が明らかになっている。
さらに最近の話題として、わが国のCOVID-19症例を対象とした臨床的特徴の検討において、高齢、慢性腎臓病(CKD)に加えて高尿酸血症が死亡のリスク因子として示された4)。尿酸は血管内皮細胞や脂肪細胞、血管平滑筋に作用して炎症や酸化ストレス、血管平滑筋の増殖を惹起するが、COVID-19症例では高尿酸血症の存在によりサイトカインストームを通じた過剰な炎症が増幅され、死亡リスクが上昇したと考える。
このように血清尿酸値>7.0mg/dLの状態が続けば全身への悪影響が懸念されるため、自覚症状がなくても放置せず、降り積もる雪を溶かすように適正な血清尿酸値を保つ必要がある。
なお、高尿酸血症の治療に消極的な患者であっても、腎機能低下と関連づけた治療の必要性についての説明は心に響きやすい。特に透析導入による生活への影響は想起しやすく、「透析だけは回避したい」という患者は少なくない。幸い腎機能は血清クレアチニン値やeGFRなどの数値で把握しやすく、腎保護という視点で高尿酸血症治療の意義を説明することは患者の理解と納得を得るのに有用である。
図積雪モデル
文献1)より改変・引用
References
1) 清水徹.Med Pract.1995;12:723-6.
2) Kamei K, et al. Nephrol Dial Transplant. 2014; 29: 2286-92.
3) Konta T, et al. Sci Rep. 2020; 10: 6066.
4) Ishii M, et al. J Infect. 2020; 81: e3-5.
痛風発作を懸念する患者の多くが口にする質問に「生活習慣はどうすればよいですか?」というものがある。わが国のガイドラインでも、高尿酸血症の治療においては、薬物療法より生活指導を優先すべきことが示されている1)。
血清尿酸値を低下させる生活指導として、一般的にプリン体やアルコールの摂取制限、有酸素運動などが推奨されるが、高尿酸血症の発症には遺伝要因と環境要因が関与する1)。特に痛風発作の既往がある場合や血清尿酸値≧9.0mg/dLの場合、生活指導のみによる血清尿酸値の低下効果は限定的と考えられる。
これらの患者では早期の薬物療法導入が望ましいが、患者自身が服薬に消極的な場合は3ヵ月程度の期間を設定し、生活習慣の是正を試みる。猶予期間を設けて本人の十分な納得を得ることは、各患者の服薬アドヒアランスを高めるうえでも重要なプロセスとなる。
高尿酸血症は古典的に尿酸産生過剰型、尿酸排泄低下型、混合型に分類され、日本人に多い尿酸排泄低下型には理論的に尿酸排泄促進薬が適している1)。しかし、尿酸排泄促進薬は腎臓尿細管での再吸収を抑制して尿酸の尿中排泄率を上昇させるため、重度の腎機能障害患者では他剤での治療を考慮することとなっている。フェブキソスタットやトピロキソスタットは尿酸生成抑制薬であるが尿酸排泄低下型にもある程度の効果が期待でき、中等度の腎障害例にも減量せずに使用が可能である1)。
新規選択的尿酸再吸収阻害薬(SURI)ドチヌラドは、既存の尿酸排泄促進薬であるベンズブロマロンの肝障害の原因とされるミトコンドリア毒性2)や肝薬物代謝酵素CYP2C9阻害による薬物相互作用が少なく3)、尿酸再吸収に関与するトランスポーターURAT1を選択的に阻害して尿酸の尿中排泄を促進させるとの報告がある4)。実臨床においても効率的に尿酸の排泄を促進し、強力に血中尿酸値を低下させる効果に期待したい。
また、薬物療法導入後、血清尿酸値が低下すると、多くの患者は服薬を自己中断しやすい点に注意が必要である。血清尿酸値の急激な変動は痛風発作を誘発するため、飲み忘れ防止を含めて継続服用の重要性を強調しておく。特に高齢患者はポリファーマシーとなりがちだが、個々の服用の目的や効果について丁寧に説明すれば服用に関する意識が向上し、治療継続に前向きになることを実感している。
References
1) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会(編).高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版.東京:診断と治療社;2018.
2) 山田眞徳ほか.薬理と治療. 2020; 48: 157-64.
3) Omura K, et al. Drug Metab Pharmacokinet. 2020; 35: 313-20.
4) Taniguchi T, et al. J Pharmacol Exp Ther.2019; 371: 162-70.