QA& 専門医に聞く、治療のABC

Vol.3
無症候性高尿酸血症の治療の必要性、
また治療開始のタイミングについて
教えてください
  • 食生活や運動などの生活習慣の是正を優先し、薬物治療の適応は患者個々に考える
  • 既往歴や合併症がない場合、血清尿酸値が9.0mg/dL以上では生活指導に加え薬物治療を開始し、9.0mg/dL未満では生活指導を先行する
  • 既往歴や合併症がある場合、非尿酸塩沈着症を念頭に生活習慣の是正とともに早めに薬物治療を開始する

血清尿酸値7.0mg/dLを超える高尿酸血症が長年続くと、尿酸一ナトリウム(monosodium urate monohydrate:MSU)結晶が関節や腎臓などの体組織に沈着し、炎症を惹起すること(尿酸塩沈着症)により、痛風発作や痛風結節、痛風腎などの臨床症状が現れる。このような臨床症状のない高尿酸血症が無症候性高尿酸血症である。

無症候性高尿酸血症でも、関節エコー検査などで関節内にMSU結晶がかなりの頻度で存在すると指摘されている1)。しかし、欧米のガイドラインなどは無症候性高尿酸血症への薬物治療に消極的で、痛風とは病態的に区別している2)3)

しかし近年、“非”尿酸塩沈着症としての無症候性高尿酸血症という概念が提唱されてきた。従来から疫学研究で高尿酸血症との関連性が示されていた慢性腎臓病(CKD)や高血圧などについて、最近の介入研究4)5)では因果関係、すなわち必ずしもMSU結晶を伴わない高尿酸血症がCKDや高血圧などを発症・進展させることが示唆されてきたからである。

とはいえ、CKDや高血圧などの発症・進展予防目的に高尿酸血症の薬物治療を行うには大規模臨床試験による裏づけが必要である。現時点では、無症候性高尿酸血症の場合、食生活や運動などの生活指導を優先し、薬物治療は患者個々に考える。

たとえば、痛風発作などの既往歴がなく、CKD、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの合併症もない場合、血清尿酸値が8.0~9.0mg/dLまでならまずは3ヵ月間生活習慣の是正を試みる。それにより血清尿酸値が7.0mg/dL程度まで下がれば生活指導を継続し、そうでなければ薬物治療を考慮する。一方、血清尿酸値が9.0mg/dL以上なら尿酸塩沈着症・非尿酸塩沈着症はいずれも悪化するため、生活指導と同時に薬物治療を始める。

既往歴や合併症がある場合は、血清尿酸値が8.0mg/dL以上であれば、生活指導とともに薬物治療も行う。特にCKDや高血圧を合併している場合、痛風腎とは異なる非尿酸塩沈着性の腎障害を発症・進展する可能性が高いため、早めに薬物治療を行う。

References
1) Puig JG, et al. Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids. 2016;35: 517-23.
2) Khanna D, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64: 1431-46.
3) Richette P, et al. Ann Rheum Dis. 2017;76: 29-42.
4) Kanji T, et al. BMC Nephrol. 2015;16: 58.
5) Grayson PC, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2011;63: 102-10.

合併症のある高尿酸血症治療において、
SGLT2阻害薬などの尿酸降下作用を
もつ薬剤との
併用を
どのように考えればよいでしょうか
  • まず生活習慣の是正を試み、薬物治療の際には合併症治療を優先する
  • 糖尿病合併の高尿酸血症治療においても治療開始時はメトホルミン/DPP-4阻害薬にてしっかり血糖をコントロールし、効果不十分なら、血糖および尿酸降下作用のあるSGLT2阻害薬の併用も考慮する

合併症のある高尿酸血症において、まず薬物治療の前に生活習慣の是正を試みる。生活指導でも効果がみられない、あるいはCKDなど早期介入が必要な場合に薬物治療を試みる。その際には合併症の治療が優先される。糖尿病を例に挙げると、日本の糖尿病ガイドラインでは2型糖尿病に対する第一選択薬は特に指定されていない。しかし、禁忌でなければ、欧米のガイドライン1)が第一選択薬に推奨しているメトホルミンを少量から開始し徐々に増量する。高齢者(特に75歳以上)にはdipeptidyl peptidase-4(DPP-4)阻害薬が第一選択でもよい。

生活習慣の是正に加えて血糖降下薬を使用し血糖コントロールが改善すると、血清尿酸値も低下する可能性が高い。2型糖尿病の主な病態であるインスリン抵抗性指数(HOMA-IR)が血清尿酸値と正の相関、尿酸クリアランスと負の相関を示す2)ことや、高インスリン血症が尿細管で尿酸トランスポーター1(URAT1)の発現を亢進し、尿酸の再吸収を促進して血清尿酸値を上昇させる3)機序が示唆されているからである。

第一選択薬(メトホルミン、DPP-4阻害薬)の単独投与によっても血糖コントロール目標値に達しない場合はその増量、血糖降下効果の高い薬剤への変更、もしくは作用機序の異なる薬剤との併用を考慮する。併用療法では、尿酸降下作用のあるsodium-glucose cotransporter 2(SGLT2)阻害薬の追加も検討する。

ただし、SGLT2阻害薬による血清尿酸値の低下は平均0.7mg/dL4)と臨床的に十分ではない。また、SGLT2阻害薬には利尿作用があるため、高齢者では脱水のリスクが高くなる。このようなことを踏まえ、個々の患者の状態に応じてガイドラインなどの総論と医師の経験・患者個人の差による各論を使い分け、バランスをとりながら最適処方をめざすことが実地医家にとって重要である。

References
1) American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl.1): S1-S232.
2) Facchini F, et al. JAMA. 1991;266: 3008-11.
3) Kakutani-Hatayama M, et al. Am J Lifestyle Med. 2015;11: 321-9.
4) Zhao Y, et al. Diabetes Obes Metab. 2018;20: 458-62.