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高尿酸血症をマネジメントする
尿酸 NEXT Stage 2021 No.2
痛風発作の原因は、関節内に沈着したMSU結晶である(図)。尿酸は血液などの体液に溶けにくい性質があり、さまざまな場所に沈着する。しかし、尿酸一ナトリウム(monosodium urate monohydrate:MSU)結晶が沈着している状態では発作は起こらない。結晶の一部が組織から剥がれ落ち、関節液のなかに「浮遊している」MSU結晶の量が増えると発作が起こると考えられている。浮遊したMSU結晶を体が異物とみなし、好中球が集積してMSU結晶を貪食することにより、炎症性サイトカインやケモカインなどの生理活性物質が放出されて、激しい痛みや腫れが引き起こされるのである。
図痛風の原因 尿酸塩結晶とは?
MSU結晶は、さらに拡大すると長軸方向できれいなcut面になっていた。
株式会社富士薬品 患者説明用資材より引用
MSU結晶が浮遊する誘因としては、激しい運動、過食や大量の飲酒、脱水などによる一時的な血清尿酸値の上昇が挙げられる。長距離の歩行や打撲といった物理的な負荷もMSU結晶の浮遊を招くと考えられている。また、尿酸降下治療の開始後数ヵ月は痛風発作のリスクが上がるが1)、これは血清尿酸値の低下により関節内微小痛風結節が表面から溶け出すことで結節の構造がゆるくなり、MSU結晶が関節液中に剥落するためといわれている。
痛風発作は、高尿酸血症の「罹患期間」と「血清尿酸値レベル」を掛け算し、それが閾値を超えたときに起こりやすいと考えられている2)。つまり、高尿酸血症の期間が短い人や血清尿酸値7.0mg/dL程度で推移している人であれば、痛風発作を起こさなくても不思議はない。
また、関節腔内でアポリポ蛋白Bなどが防御的に働いて痛風が起こりにくい人がいるともいわれており3)、関節腔内の環境の個人差が関係する可能性もある。
生活改善と必要に応じた薬物治療で血清尿酸値をコントロールすることが重要である。
References
1) Neogi T. N Engl J Med. 2011; 364: 443-52.
2) Li EK. Hong Kong Med J. 2004; 10: 261-70.
3) Ortiz-Bravo E, et al. Arthritis Rheum. 1993; 36: 1274-85.
血清尿酸値が正常であっても、痛風発作を起こすことがある。具体的には、痛風発作時には血清尿酸値が発作前よりも低くなることが知られている。その要因として、痛風発作の発症時は強烈な痛みによるストレスからグルココルチコイドが分泌されるが、このグルココルチコイドが尿酸の排泄を促進する作用を有することが推定される1)。さらに、発作時には炎症が起こり、インターロイキン6(IL-6)が放出されるが、IL-6にも尿酸の排泄を促進する作用がある2)。
また、生活習慣の改善や薬物治療により血清尿酸値が正常値に維持されているが、それまでの経過で関節内のMSU結晶の蓄積が大きい場合、血清尿酸値の変動により痛風発作が起こることがある。血清尿酸値が上昇・低下する誘因としては、運動や過食、大量の飲酒、脱水、尿酸降下治療などが挙げられる。
なお、尿酸降下薬により血清尿酸値が適切にコントロールされていても、関節内のMSU結晶の消失には長い期間を要することが報告されている3)。痛風患者の関節穿刺液を経時的に評価した研究で、血清尿酸値を6.0mg/dL以下に保った患者の関節内からMSU結晶が消失するまでに3~33ヵ月を要していた。また、MSU結晶の消失に要する期間は罹病期間の長さと相関しており、罹病期間が長いほどMSU結晶の消失には長い期間が必要となる3)。
さらに、関節内のpHが低い場合や体温の低い末梢部では、血清尿酸値が正常でも痛風発作が起こることがある。尿酸はpHや温度によって溶解度が低下し、結晶が析出しやすくなるからである。尿中尿酸の溶解度は、pH7.0では200mg/dLであるがpH5.0では15mg/dLである4)。たとえば、激しい運動をしたときには多量の乳酸が生成され、関節周囲組織のpHが下がるため関節内に結晶が析出しやすくなる。温度については、MSUはナトリウム濃度140mM、37℃の条件下で、6.8mg/dL以下までは溶解すると考えられており5)、それを根拠に血清尿酸値7.0mg/dLを超えるものが高尿酸血症と定義されている4)。足趾や耳たぶなどの身体の末梢部は体温が30℃程度になることもあり、30℃での溶解は血清尿酸値4.5mg/dL以下であるため5)、血清尿酸値が正常値であってもMSU結晶の析出が起こる可能性も推測される。
References
1) Urano W, et al. J Rheumatol. 2002; 29: 1950-3.
2) Tsutani H, et al. J Rheumatol. 2000; 27: 554.
3) Pascual E, et al. Ann Rheum Dis. 2007; 66: 1056-8.
4) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会(編). 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版. 東京: 診断と治療社; 2018.
5) Loeb JN. Arthritis Rheum. 1972; 15: 189-92.