患者さん目線で考える
栄養管理最前線

各先生のご所属等は掲載当時のものです。

第1回

CKDに対するタンパク質および食塩制限

菅野 丈夫 先生
神奈川工科大学健康医療科学部
管理栄養学科実践臨床栄養学研究室 教授

はじめに

慢性腎臓病(CKD)ではステージの進行とともに高窒素血症、血清電解質異常、腎性貧血などさまざまな臨床症状が出現する。原疾患や個々の経過により適切なタイミングでの食事療法導入が望まれるが、CKDでは複数の栄養素の調整が求められるため他疾患に比べ複雑という印象をもたれがちである。今回は「タンパク質制限」、「食塩制限」を中心に、患者が続けやすい食事療法のコツを紹介する。

なぜCKDではタンパク質制限、食塩制限を行うのか?

CKDではタンパク質の負荷により糸球体血流量が増加し、糸球体内圧の上昇が生じて尿タンパク量増加と糸球体硬化を引き起こす。タンパク質の最終分解産物である尿素の排泄障害は高窒素血症を惹起するほか、タンパク質の代謝は体内に酸を産生させ、代謝性アシドーシスを生じさせる。よって、タンパク質制限はCKDの進行抑制、高窒素血症改善、代謝性アシドーシス緩和を期待して行う。ほかにも、食品中のタンパク質含有量とカリウム量、リン量は正の相関関係にあるため、タンパク質制限はカリウム、リンの制限も期待できる。

また、CKDでは食塩摂取量増加による腎機能低下リスク増大1)、食塩制限による尿タンパク減少2)が報告されている。尿タンパクは腎機能障害の増悪因子であるため、CKDの進行抑制効果も期待して、食塩制限は病期を問わず継続的に実施する。

患者が続けやすい食事療法のコツ

治療用特殊食品の利用で食卓を豊かに

タンパク質制限を実行するうえで重要なのは、十分なエネルギー摂取とアミノ酸スコア(アミノ酸価)への配慮が必要であるが、通常食品のみ(量を減らすなどの工夫)でそれらを達成することは困難である。そこで推奨されるのが、治療用特殊食品、特に主食用の低タンパク食品の利用である。

たとえば、主食である米やパン、麺類は植物性タンパクであり、アミノ酸スコアが低い。そこで、主食を通常食品から低タンパク質の治療用特殊食品に置き換えれば、米飯1食180gならタンパク質量が約5gのところ、治療用特殊食品では0.18gで同程度のエネルギーが得られる。節約された植物性タンパク質を肉、魚、卵、乳製品などの動物性タンパク質にまわせば、十分なエネルギー摂取とアミノ酸スコア100の達成が可能となる。

主食のタンパク質は治療用特殊食品で減らしつつ、肉や魚を一定量確保できるようになるため、副菜が豊かになり、患者は満足感を得やすい。

※アミノ酸スコア(アミノ酸価):食品のタンパク質の栄養価を判定する評価法の1つ。
必須アミノ酸がアミノ酸必要量に対する必須アミノ酸の割合を示し、スコアが100に近いほど良質なタンパク質となる。

急激な食塩制限はNG

CKDでは腎でのナトリウム保持能が低下しており、低ナトリウム血症になりやすい。急激な食塩制限を行った場合、尿中ナトリウム排泄量と摂取量が同等となるまで5日間程度の時間が必要である3)。その間のナトリウムバランスは負となり、低ナトリウム血症や脱水を生じやすくなるため、食塩制限は徐々に行う。

また、仮に1日12g程度の食塩を摂取し濃い味付けに慣れていた患者にとって、CKDの減塩目標である1日6g未満の食事は物足りない。「不味い」と感じる食事では患者の脱落を招きやすいため、徐々に薄味に慣れさせることが重要である。

患者の食習慣を大きく変えない

なにより食事療法で重要なのは、患者のそれまでの食習慣を大きく変えないことである。そこで我々も栄養指導の際には、普段の生活や食習慣の聴き取りを行い、食習慣をなるべく変えないで食事療法ができる方法を検討する。

また、指導においては「食べてはいけない」ではなく、患者が「工夫次第で何でも食べられる」という思考になることを意識する。「ラーメンを食べたい」、「毎日晩酌を楽しみたい」と願う患者に対し、頭ごなしに禁止せず、食事療法のなかでどうすれば実現できるかをサポートしていただきたい。多くの患者は食事療法に慣れると積極的に、かつ楽しみながら創意工夫を重ねるようになる(図1)。

図1
こんなメニューも可能に~ これまでの食事内容を変えないための工夫

主食のパンを低タンパク食品とすることで、主食のタンパク質を減らし、その分副食のタンパク質を大幅に減らす必要がなくなる。また、エネルギーの確保も容易となる。
さらに、タンパク質を減らすことでカリウムやリン、食塩も減少させることができる。これらの結果、今までの食事内容を大幅に変えることなく食事療法が実行可能となる。

たまには緩めに、自由度高く

多くの食事療法では栄養素の配分を3食均等とするが、CKDの食事療法ではタンパク質の配分は均等でなくても効果に違いはない。たとえば、朝食はなるべくタンパク質を少なく夕食は多めの設定とすれば、夕食の副菜が充実し、家族と同じものを食べることも可能となる。

なかには定年退職後、「昼に行きつけの喫茶店で“遅めのモーニング”を楽しむのが生きがい」という患者がいる。その患者は、朝食・夕食のタンパク質を少なめに設定する工夫により日々、“遅めのモーニング”を楽しんでいる。

また、日ごろしっかり食事療法を実施できていれば、タンパク質が1日30g制限のところ、旅行先で60〜70g程度を摂取しても悪影響はない。それまでと変わらない食習慣を工夫しても、365日続けるのはつらいはずである。食事療法を継続するためにも、少しの息抜きは許容範囲である。

効果的かつ持続可能な食事療法をめざして

改善効果の“見える化”が重要

CKDでは自覚症状がない患者がほとんどであり、医師から食事療法を指示されても必要性を理解できない患者が多い。そこで、食事療法を継続するためのコツとしては、効果の“見える化”が重要と考える。

食事指導による改善効果を客観的に把握するには、「24時間蓄尿」が有用である。医師は正確な腎機能や尿タンパク量を把握でき、患者は自身の頑張りの成果を確認できて、さらなるモチベーションアップにつながるなどメリットは大きい。

図2に我々が指導を行ったIgA腎症患者の例を示す。低タンパク質の治療用特殊食品を取り入れた食事療法導入により、透析導入が14年以上にわたって大幅に遅延された。このように、“見える化”によりその効果を評価することで、患者は主体的に食事療法を実行・継続するようになると期待できる。そのため、医師および患者自身のためにも「24時間蓄尿」を半年に一度は実施すべきである。

図2
食事療法による改善効果の例 49歳男性原疾患:ⅠgA腎症

9年目より食事療法を開始したが、それまで直線的な低下傾向を示していた腎機能は、食事療法開始以降低下傾向が顕著に抑制された。
透析導入の目安は血清クレアチニン値(S-Cr)8.0 mg/dLであるが、もし食事療法を行っていなかった場合、10年目には透析導入となっていたと考えられる。
本症例では、食事療法によって14年以上にわたって透析導入を遅延できたということになる。なおこの間、栄養状態の低下を認めていない。

菅野丈夫、他. 腎と透析.2009;67:332-9.より一部改変引用

クリニックでも管理栄養士による指導を

薬物療法と異なり、食事療法は患者自身が行う治療である。「1日タンパク質30g」の食事療法を処方されて、すぐに日常生活で実践できる患者はそう多くはない。自分で栄養計算を行い、献立を考え、買い物にいって調理をするため、習得するまでにある程度の時間を要する。そのため、指導は1回で終わりにせず、患者の理解や実行度を評価しつつ継続的に行うことが求められる。

丁寧にフォローアップしていくためにも、クリニックにおいて管理栄養士による指導を行うことが望ましい。令和2年度診療報酬改定により、常勤の管理栄養士だけでなく、栄養ケア・ステーションなど外部との連携による指導に対しても「外来栄養食事指導料」が算定可能となっている。クリニックではCKD以外にも高血圧、脂質異常症、糖尿病など栄養指導が必要な疾患は多い。ぜひ、患者に身近なクリニックで、管理栄養士によるCKDの食事療法を提供していただきたい。

References
1) Lin J,et al.Clin J Am Soc Nephrol.2010;5:836-43.
2) Slagman MC,et al.BMJ.2011;343:d4366.
3) Simpson FO.Lancet.1988;2:25-9.