山陰労災病院循環器内科 部長
水田 栄之助 先生
両祖父が医師の環境で
私の両親は医師ではありませんでしたが、同居していた母方の祖父が消化器、父方の祖父が産婦人科を専門とする医師で、子どもの頃から自然と医師を目指していました。大学受験では2浪していますが、3回目の試験直前に阪神淡路大震災が起きて、兵庫県神戸市東灘区の自宅は一時期住めなくなりました。参考書もノートもなく、高校まで3駅歩いて内申書を取りに行く大変な状況でしたが、そこで気持ちが切り替わったように思います。
無事鳥取大学に合格して、将来は内科医を考えていたのと、所属していたバドミントン部顧問の故・重政千秋先生(元第一内科教授)の誘いもあり、第一内科に入局しました。その後、久留一郎先生のもとで循環器の領域に進み、2006年から1年間、国立循環器病センター研究所に国内留学しています。
うま味研究の道へ
国立循環器病センターでは、森崎隆幸・裕子先生のもと、Suita Studyに関わる機会を得ました。それは味覚と生活習慣病との関係をテーマとしたもので、レプチン受容体遺伝子や甘味受容体の遺伝子多型と肥満度に有意な関連が得られて俄然面白くなり、味覚の研究にはまっていきました。
国内留学を終えて大学に戻った後、2011年に山陰労災病院に赴任して現在に至ります。臨床が非常に多忙な環境ですが、そんななかでもできる研究をしたいと考え、うま味感受性と肥満の相関について検討を行ったところ、うま味感受性の低値群は正常群に比べ肥満者の頻度が有意に高いことが明らかとなりました。それを高血圧学会でポスター発表したところ、たまたま医学系雑誌の編集者の目に留まり、記事に取り上げてくれたのです。そこから多くのメディアに注目されて、テレビ番組で特集が組まれるほどになりました。
産官学一体の研究へブレイク
その経験から、やはり味覚は広く社会で注目されるテーマなのだと痛感しました。そこで現在は、「おいしい社会的減塩」と銘打った減塩啓発活動に産官学一体で取り組んでいます。
一般の人は「減塩」と聞くと、「物足りない」「手間がかかる」といったネガティブイメージを抱きがちです。調理でのコントロールが難しい側面もあるため、鳥取県の産業技術センターや大学、地元企業と連携し、うま味を活用した減塩加工食品の開発に乗り出しました。ポイントはあえて「減塩」を正面から訴求しないことです。食べる人が意識しないまま「こっそり減塩」ができて、おいしく食べられる品目を増やしていきました。
たとえば、うどんは小麦粉のつなぎに塩が必要ですが、鳥取県境港市で多く水揚げされる海藻「アカモク」で代替すると、アカモクの粘りで喉越しよく、うま味のあるおいしいうどんができました。
こうした「こっそり減塩」の取り組みは、一般企業の間でも広がっています。今後、市民に受け入れられやすい健康づくりの手法としてさらに普及していくことを期待します。
高尿酸血症研究でもうま味をヒントに
高尿酸血症と生活習慣との関係にも注目し、研究を続けています。最近では、座位時間の長さと高尿酸血症有病率の関連について明らかにしており、近々論文化の予定です。
他にも、うま味と高尿酸血症の関連に注目し、核酸の1つのウリジル酸を解析したことがありますが、恐らく交絡因子の問題で残念ながら有意差は得られませんでした。また、いろんな魚の出汁の核酸測定を行い、現在はサワラの出汁に注目しています。
このように、高尿酸血症と生活習慣の関連についてはアプローチを工夫して、特に味覚感度と高尿酸血症・痛風との関係を明らかにできれば嬉しいですね。
研究はうま味、趣味はウマミン
趣味といえば、以前は馬でした。医師になった初任給で一口馬主を始め、13年ほど前に北海道の牧場で馬を購入して馬主になりました。名前は「うま味」をもじって、「ウマミン」です。地方競馬でウマミンのレースを見るのが楽しみでしたが、すでに引退して、現在は地元の大山乗馬センターで過ごしています。グッズもある人気者になっているようですよ。
今はさしずめ野球観戦でしょうか。子どもの頃から阪神タイガースの熱烈なファンでした。それは弱い球団を応援するのが好きだったからですが、2000年を過ぎて強豪球団になってしまって、それ以降はひたすら千葉ロッテマリーンズを応援しています。
すっかり臨床が多忙となってしまいましたが、研究にも趣味にもバランスよく時間を割いて、日々を充実させていきたいですね。