しいNEXT Generation

若手研究者紹介

防衛医科大学校 分子生体制御学講座 講師

中山 昌喜 先生

2006年
防衛医科大学校医学科 卒業
防衛医科大学校病院および自衛隊中央病院 初任実務研修医
2008年
航空自衛隊西部航空警戒管制団第9警戒隊(下甑島分屯基地)
2009年
航空自衛隊航空医学実験隊(入間基地)
2010年
防衛医科大学校分子生体制御学講座 専門研修医
2012年
航空自衛隊硫黄島基地隊(硫黄島分屯基地)
2013年
防衛医科大学校医学研究科 入校、博士(医学)取得
2017年
航空自衛隊西部航空警戒管制団衛生隊(春日基地)
2020年
防衛医科大学校 分子生体制御学講座 講師(現在に至る)
所属学会:
日本痛風・尿酸核酸学会、日本リウマチ学会、日本ヒト細胞学会、日本人類遺伝学会、日本疫学会、日本癌学会、日本生理学会、日本生化学会、日本薬理学会、日本内科学会、日本腎臓学会、日本防衛衛生学会

一味違う学び舎で

出身は、兵庫県淡路島にある津名町(現・淡路市)です。中学1年生のときに阪神・淡路大震災を経験し、震源地の北淡町は隣町でしたが、幸い自宅は大きな損壊を受けることなく済みました。

その後、淡路市にある県立津名高等学校を経て防衛医科大学校に進学しました。医学教育の内容は一般の医学部と変わりませんが、やはり学内生活は独特だったと思います。入校した時点で特別職国家公務員という社会人としての身分をもち、全寮制の相部屋生活でした。制服や日々の食事が支給されて給料も支払われますが、授業への出席は「勤務」なのでさぼれば懲戒処分、場合によって留年となるなど他の一般大学よりは厳しかったですね。

しかも、外出や外泊は事前に申請しないといけないため、おのずと校内にいることが多かったです。最低限、体育会系部活1つに所属する必要があり、私の場合は合気道部、スキー部、医用工学部、宇宙研、囲碁・将棋部を掛け持ちでした。その後、松尾洋孝先生(現・分子生体制御学教授)を指導者としてMM(Molecular Medicine)研究会を立ち上げ、学生のうちから学会発表をするような、積極性のある後輩をたくさん輩出することができています。

聴診器一本で住民と触れ合う

卒後の臨床研修は、自衛隊中央病院と防衛医科大学校病院の2ヵ所で行われます。その後のいわゆる後期研修の前に2年程度、全国の基地医務室などに配属されます。私の場合は1年目に鹿児島県本土からフェリーで3時間半ほどの下甑島しもこしきしまに赴任することとなりました。

下甑島は北部、中部、南部にそれぞれ医師が常駐していましたが、ある日突然、中部の先生が診療を続けられない状況となったのです。所属の航空自衛隊分屯基地は中部にあったことから、私はその日からいきなり高齢化率50%の地域住民1,500人を1人で診る事態となりました。

結局、0歳児から100歳まで、オペ、出産、看取り以外を経験することになりました。分屯基地の医務室業務を行いながら、地元診療所、派遣診療所、老人ホームを診て回り、小学校と中学校の校医も兼務しました。就学時健診をやった自衛隊医官は私ぐらいではないでしょうか(笑)。

その後赴任した小笠原諸島にある硫黄島でも医師1人体制で、下甑島や硫黄島といった離島では「先生、倒れていました!」と運ばれてきたハトの骨折、飼いネコの体調不良に首をひねるなど、僻地ならではの総合診療(笑)でした。ないものはそれなりに工夫しながら、まさしく聴診器一本で自衛隊員や住民と触れ合った日々を懐かしく思います。

尿酸研究の最前線へ

卒後研修のこうしたエピソードを披露すると、やはり防衛医科大学校は特殊なところと思われがちですが、研究を志す医師であれば、国家公務員として身分が保証され、比較的自由に研究テーマを決めることができるなど、恵まれた環境にあるとも思います。

私が尿酸研究の道に入ったのは医学科3年生のとき、松尾先生に声をかけてもらったのがきっかけですが、下甑島に赴任中も隊員の健康診断時の検体を集め、大学に送り解析も行いました。もちろん許可は得ていましたが、自衛隊医官の立場をフル活用して隊員を対象とし、「さあやるぞ!」とガンガン研究を進めることができました。その結果、痛風と尿酸トランスポーターであるABCG2の関連が浮上し、最終的に生活習慣病としての痛風の主要な原因遺伝子であるABCG2遺伝子変異の報告に辿り着くことができました。

尿酸トランスポーターは尿酸の再吸収と排泄に重要な役割を果たし、血中の尿酸濃度を調整する分子です。尿酸トランスポーターに遺伝子変異があると、その機能がどう変化するかを対照群と比較することができ、病態と結び付けて考えやすいのも魅力的ですね。

現在の尿酸降下薬は合成酵素阻害薬が主流ですが、尿酸トランスポーターはその次のターゲットとして有望です。近年の全ゲノム関連解析により、すでに複数の尿酸トランスポーターが同定されていますが、生体内での役割の全容解明には至っていません。多様なアプローチで個々のトランスポーターの特性を解析し、新たな治療法の開発を実現したいと思います。