Current Lecture 専門医による疾患解説

Vol.13

心腎連関から捉える心血管イベントリスク
-高尿酸血症をどう考えるか?- 田村 好古 先生 
帝京大学医学部内科学講座 准教授

高尿酸血症は心血管イベントのリスク因子か?

高尿酸血症と心血管イベントとの関連については古くから議論されてきたが、患者背景因子の特殊性や、評価方法の適切性などに課題を残しており一定の見解を得るに至っていない。とはいえ2000年には、血清尿酸値が上昇することが、男性であっても女性であっても心血管死のリスクと有意に関係しているとするストロング・エビデンスが示されている1)。また、高尿酸血症は心血管イベントのリスクとなる高血圧と密接に関連し、高血圧患者においては心血管イベントの独立したリスク因子であると考えられている2, 3)。加えて、高尿酸血症は左室肥大の組み合わせは、心血管イベントの予測因子として特定されており4)、2010年には、心房細動の発症に関連する可能性が指摘され5)、以降さまざまな研究で心房細動リスク増加への関与が報告されている。このように、高尿酸血症は左室肥大や不整脈などを介して心血管イベントのリスクとなっている可能性もある。

高血圧だけではない、腎硬化症のリスクとなる高尿酸血症

さらに、高尿酸血症は慢性腎臓病(CKD)とも密接に関連している。以前より、高尿酸血症は尿酸塩沈着による痛風腎(慢性間質性腎炎)を引き起こすことが知られてきたが、最近は痛風腎とは別にCKDの発症や進展に関係している可能性が注目されている。その機序の1つとして尿酸塩結晶が動脈硬化に関わる可能性が指摘されているが6)、わが国におけるヒト腎生検による検討では、高尿酸血症は腎細動脈硝子化の独立したリスク因子であることが報告されている7)。この結果は、高尿酸血症により硝子化を伴った腎細動脈障害が起こり、糸球体が硬化し腎硬化症となる可能性を示している。

透析導入の原因疾患第1位である糖尿病性腎症の透析導入率が、近年減少に転じた。これにより原因疾患第2位であり増加を続ける腎硬化症は、注目を集めている8)。高血圧の治療が進歩しているにもかかわらず、腎硬化症の患者数は増加を続けていることから、高血圧以外のリスク因子の存在が推測されてきた。そして、最近では加齢や高尿酸血症が腎硬化症の発症に関与すると考えられるようになってきている9)

高尿酸血症による心腎連関とその機序

このように、高尿酸血症は心血管イベントとCKDの両方に密接に関与しており、われわれは尿酸代謝からみた心腎連関として注目している。高尿酸血症が心・腎臓障害を引き起こす機序としては、前述の尿酸結晶による動脈硬化以外に、酸化ストレス、血管内皮細胞障害、炎症、そしてレニン・アンジオテンシン系などの複数の因子が関与していると考えられているが10)、後述するようにわれわれは特に酸化ストレスに着目した。

高尿酸血症による臓器障害(心、腎)を抑制するXOR阻害薬の可能性

高尿酸血症が心腎連関に関与すると考えられることから、尿酸降下療法による心血管イベントやCKDの発症または進展の抑制効果が期待される。そこで、われわれはキサンチン酸化還元酵素(XOR)阻害薬を用いた実験的な検討を行った11)。Sprague-Dawleyラットを用いて5/6腎摘CKDモデルを作製し、オキソニン酸を混餌投与することで高尿酸血症を発症させた。そして、このモデルラットにXOR阻害薬を投与し、腎臓および心臓への影響について評価した。

腎臓では、高尿酸血症CKDモデルにおいて上昇した蛋白尿がXOR阻害薬によって低減されていた(図1)。そこで、腎組織を評価すると、XOR阻害薬により糸球体面積および血管平滑筋のマーカーであるα-SMA陽性面積(図2)、糸球体上皮細胞障害マーカーのデスミン陽性面積、尿細管間質線維化マーカーのⅢ型コラーゲン陽性面積が減少し、腎障害の改善を認める組織像となっていた。また、心臓の組織に関しては、XOR阻害薬により左室壁厚およびシリウスレッド陽性の線維化領域(図2)、筋細胞の断面積が減少しており、心肥大と線維化の改善が認められた。さらに、蛋白尿と心筋組織像との関連について評価したところ、蛋白尿は、左室壁厚・シリウスレッド陽性の線維化領域・筋細胞の断面積とそれぞれ正の相関を示していた。この結果は、心腎連関にXORが関与することを示唆していると考えられる。

加えて、この心腎連関のメカニズムの1つとして知られる酸化ストレスに着目した検討を行った。腎組織および心筋組織ともに、酸化ストレスに応答して活性化する転写因子Nrf2およびその下流にある抗酸化酵素(HO-1)が、XOR阻害薬によって抑制されていた。これは、高尿酸血症による腎・心臓障害には、酸化ストレスが大きく関わっていることを示しており、高尿酸血症による臓器障害にはXORによる酸化ストレスが悪影響を及ぼしている可能性が推測される。

このような基礎研究の結果をそのまま臨床に反映させることはできないが、高尿酸血症を合併した蛋白尿を伴うようなCKD患者へXOR阻害薬を投与することによって腎臓や心臓などの臓器保護効果が期待されると考える。

図1

8週後の蛋白尿

RK+HUA→オキソニン酸投与
RK+HUA+Feb→オキソニン酸+XOR阻害薬投与
**:P<0.01、***:P<0.001

文献11)より引用
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

図2

腎臓および心臓の組織像

α-SMA:血管平滑筋マーカー、Sirius red:線維化部分が赤で染色
**:P < 0.01、***:P < 0.001

文献11)より引用
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

さいごに

残念ながらXOR阻害薬が心血管イベントやCKDに対して有効であるか否かの結論も出ていない。しかしながら、心腎連関の病態に高尿酸血症が深く関わっている可能性があり、今回紹介した基礎研究はさらにそこにXORの関与を示唆するものである。心腎連関を対処するうえでXOR阻害薬は重要な役割を果たす可能性がある。

心腎連関は、臨床的にはしばしば遭遇する病態であり、徐々に悪化、進行するケースも少なくない。この解説が、皆様の心腎連関に対する治療の一助になれば幸いである。

References
1) Fang J,et al.JAMA.2000;283:2404‒10.
2) Alderman H, et al. Hypertension.1999;34:144‒50.
3) Verdecchia P, et al. Hypertension.2000;36:1072‒8.
4) Iwashima Y,et al.Hypertension.2006;47:195‒202.
5) Letsas KP,et al.Hellenic J Cardiol.2010;51:209‒13.
6) Johnson RJ,et al.Kidney Int Rep.2022;8:229-39.
7) Matsukuma Y,et al.Atherosclerosis.2017;266:121‒7.
8) 新田孝作,他.透析会誌.2020;53:579-632.
9) Sofue T.Hypertens Res.2023;46:1707-9.
10) Jalal D,et al.Am J Kidney Dis.2013;61:134-46.
11) Omizo H,et al.Sci Rep.2020;10:9326.