対談CrossTalk

Vol.12
𡈽橋 卓也 先生 × 荒川仁香 先生

高血圧と高尿酸血症

高血圧患者における高尿酸血症の合併は高頻度であり、将来的な心血管病の発症抑制を見据えた介入が求められる。メタボリックシンドロームの病態を呈する患者も多く、適切な生活指導のあり方、尿酸代謝への影響を考えた降圧薬の選択、尿酸降下薬の導入のタイミングと病型分類を用いた薬剤選択など、検討すべきポイントは多い。そこで今回は、高血圧外来にて多くの高尿酸血症合併患者を診るエキスパートに、治療の現状と課題について対談いただいた。

高血圧患者に関する現状と対応

高血圧患者に多くみられる合併症

𡈽橋先生

本日は、高血圧の専門外来で患者さんを診ておられる荒川仁香先生をお招きし、「高血圧と高尿酸血症」をテーマにお話を伺いたいと思います。

高血圧に高尿酸血症が多く合併することは臨床的に知られていますが、実際、外来で時間が限られるなか、初診の高血圧患者さんに対する病歴聴取や検査について気をつけておられることを教えてください。

荒川先生

病歴に関しては、まずは高血圧を指摘された時期と治療歴を確認し、家族歴や、腎障害との兼ね合いで出生時体重や成人後の体重増加なども重視しています。女性であれば妊娠高血圧症候群の既往も必ず確認します。さらに、運動習慣や睡眠の状況、高尿酸血症と関連が示唆される飲食・飲酒習慣、喫煙、性格・精神心理状態なども聴取しています。

臨床検査については、一般的な血液検査と尿検査、生化学検査ではeGFR、尿酸、電解質、脂質・糖代謝、肝機能をルーティンで測定しています。二次性高血圧が疑われるような、急激に血圧が上昇したような場合はスクリーニング検査を行い、異常があれば専門医が行う特殊検査も実施しています。

𡈽橋先生

先生の専門外来には、二次性や治療抵抗性を含め、実地医家の先生方からの紹介が多いと思いますが、高血圧患者さんにおける合併症の頻度はいかがでしょうか。

荒川先生

2022年に当院高血圧内科を受診した456名の検討では、肥満(BMI 25以上)が46%、脂質異常が61%、慢性腎臓病(CKD)も高齢化により年々増えて60%が高血圧患者に合併していました。糖尿病は23%で増加の印象はなく、高尿酸血症の合併は31%でした。ここで高尿酸血症に注目すると、高血圧患者さんでは降圧薬服用数が増えるほど高尿酸血症の合併率が高くなり、降圧薬3剤以上では、41%にまで増加しているのが現状です。これは、服薬する降圧薬に利尿薬が含まれる影響もあると思われます。

高尿酸血症に対する管理、介入の方法

𡈽橋先生

高尿酸血症を合併する患者さんは、肥満で脂質異常も合併しているような、いわゆるメタボ型の方が多いと思います。高血圧専門外来を受診している患者さんですから、血圧管理が最優先であることは認識しておられるでしょう。ただ、メタボリックシンドロームかつ血清尿酸値が高いとなった場合、それら合併症に対しても治療が必要と説明しても理解が得られにくいのではないでしょうか。先生はその他のリスク要因について、どのような手順を踏んで治療されていますか。

荒川先生

確かに、初診の患者さんに検査を行うといくつも異常が観察されて、何から着手すべきか迷います。ただ、いずれも動脈硬化や心血管病のリスクであることは間違いありません。

手順としては、𡈽橋先生がおっしゃる通り、当然ながら血圧管理から着手します。まずは減塩、増カリウム、節酒、禁煙、運動を指導しますが、これらが肥満や糖尿病、脂質異常、高尿酸血症に悪影響を及ぼすことはありません。その後、患者さんの様子をみながら、次は糖尿病と脂質異常のいずれか重症度の高いほうから薬剤による介入を行います。ある程度の血圧管理ができたところで、血清尿酸値が高い場合は高尿酸血症の管理を考え、将来的なリスク予防を目指します(図1)。

図1:高血圧患者に対する合併症治療の優先順位

荒川先生 作成

𡈽橋先生

血圧、コレステロール値と違って、尿酸値については意識されていない方が多いのではありませんか。

荒川先生

その通りですね。自覚症状のない方がほとんどですし、血清尿酸値とは何か、その値が将来的にどのようなリスクがあるか、一から説明をしなければならないことがほとんどです。

𡈽橋先生

特に高血圧、血糖値、脂質異常がコントロール不良な状況で、なおかつ血清尿酸値が7.0~8.0mg/dL台を推移している場合、高尿酸血症の治療の必要性についてはどう説明されますか。

荒川先生

患者さんがすでに4、5剤を併用している場合、高尿酸血症は比較的薬剤で下がりやすい印象がありますので、「血清尿酸値を下げることで、将来的なリスク軽減を目指しましょう」と話すことはあります。

𡈽橋先生

そこの説明は難しいですね。私は、血圧や他のリスク要因を管理する過程で、のちのち血清尿酸値に関する介入が必要となる可能性を伝えています。そして診察の都度、「今日も血清尿酸値が高いですね」などと話をし続け、「半年間様子をみたけれども改善の兆しがありませんね」などと説明して、薬物治療に繋げています。未治療の段階から患者さんに注意喚起しておくと、いざ薬物治療となったときに納得を得やすい印象です。

観察研究からみる高血圧と高尿酸血症の関連

𡈽橋先生

わが国の観察研究では1)、6年間の追跡により血清尿酸値上昇とともに高血圧発症率も上昇し、国内外25研究を対象としたメタ解析では2)、高尿酸血症患者における高血圧発症の相対リスクが1.48と有意に高かったことが報告されています。これらの結果からも、高血圧と高尿酸血症の間に密接な関係があることは明らかです。

その機序として、メタボ型の高血圧に合併する高尿酸血症は、食べ過ぎ、運動不足、肥満などに付随したプリン体やフルクトースの摂取過剰により尿酸産生過剰となる要因に加え、メタボリックシンドロームの病態でみられるインスリン抵抗性により近位尿細管でナトリウムと有機アニオンが共輸送体で再吸収され、有機アニオンがURAT1の駆動をもたらして尿酸排泄低下に至る要因も寄与すると考えられています3)。高尿酸血症合併高血圧患者におけるわれわれの検討では、約9割が尿酸排泄低下型という結果でしたので、メタボ型の高血圧患者さんでも尿酸排泄低下の側面はあると考えられます。

高血圧患者における高血圧、高尿酸血症の治療

生活指導のポイント

𡈽橋先生

高尿酸血症合併高血圧患者に対する治療の考え方として、わが国の『高血圧治療ガイドライン 2019』4)は、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版』5)に準じた記載となっています。

すなわち、血清尿酸値が7.0mg/dLを超える場合は高尿酸血症と診断し、まずは生活指導を開始します。『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版』に基づけば、「適正なエネルギー摂取」「プリン体・果糖の過剰摂取の回避」「尿をアルカリ化する食品の摂取」「適切な水分補給」「飲酒制限」がポイントになると考えられます。荒川先生は、食事に関してはどのような指導をされていますか。

荒川先生

今挙げられたなかでは、「尿をアルカリ化する食品の摂取」については十分に指導できておりません。

𡈽橋先生

尿のアルカリ化は尿酸の排泄を亢進させますが、メタボ型でお酒を飲み、肉が好きな方は酸性に傾いているケースが多いと考えられます。尿のアルカリ化は、乳製品や野菜、海藻類、豆類を摂るなど、高血圧に対するカリウム摂取指導に通じるところがありますし、食事改善の指標として有効だと思います。

また、プリン体というとお酒好きな方は「ビールをやめて焼酎にしました!」とよく言われますが、アルコール自体が尿酸値を上昇させますから、必ずしもビールを控えればよいわけではありません。私は自作の「尿酸チェックシート」(図2)を用いて、尿酸値を上昇させるリスク13項目を患者さんにチェックしてもらうなどして指導に役立てています。

図2:尿酸チェックシート(尿酸上昇リスク13項目)

𡈽橋先生 ご提供

尿酸代謝に配慮した降圧薬の選択の仕方

𡈽橋先生

高血圧治療に関しては、尿酸代謝に影響を与えないCa拮抗薬、ARBの選択が望ましく、ARBのロサルタンはURAT1阻害作用を有して血清尿酸値を低下させることが報告されています5)6)。ただ、メタボ型の患者さんではこの2剤でコントロールできるケースは少なく、利尿薬をどう使うかが課題となります。利尿薬を使うと血清尿酸値が上がることはしばしば経験しますが、荒川先生は利尿薬の使用をどうされていますか。

荒川先生

そのような場合、私は利尿薬を使わず、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、MRB(選択的ミネラルコルチコイド受容体ブロッカー)を選択しています。それで効果がみられなかった場合には、サイアザイド系利尿薬の併用を検討します。

𡈽橋先生

私は、利尿薬を使う必要があるときは、患者さんに「あなたはもともと血清尿酸値が高いので、このお薬を使用するとさらに上がる可能性があります。その場合は尿酸降下薬を併用しますよ」と説明し、了承を得てから利尿薬を投与しています。

尿酸降下薬の選択のポイント

𡈽橋先生

高尿酸血症合併高血圧患者の薬物治療(図3)に関しては、『高血圧治療ガイドライン 2019』4)において、血清尿酸値8.0mg/dL以上の場合に尿酸降下薬の開始を考慮すると記載されています。この「考慮」という言葉には、リスクを包括的に評価し、患者さんの意向も確認しつつ納得が得られれば治療を開始するというニュアンスが含まれています。ここで尿酸降下薬の使い分けが必要となりますが、荒川先生はどのようなお考えですか。

図3:高血圧を合併した高尿酸血症の治療手順

UUA/Cr:尿中尿酸/クレアチニン比

𡈽橋先生 作成

荒川先生

以前はフェブキソスタット中心でしたが、私が診ている高尿酸血症合併高血圧の患者さんの多くは尿酸排泄低下型と認識しており、本来なら尿酸排泄促進薬の使用が理にかなっていると思っていました。ただ、従来品の安全性に懸念があったところに、ドチヌラドが登場したので、ABCG2を阻害しないという点にも期待しています。

𡈽橋先生

高尿酸血症の病型分類は、患者さん個々に合った治療法の選択において有用ですが、蓄尿での24時間法による評価は容易ではありません。簡便法により尿中尿酸/クレアチニン比が0.5 以上で尿酸産生過剰型、0.5未満で尿酸排泄低下型と診断できますが、実際には0.4~0.5あたりが多く、どう対応するかの判断が難しい印象です。

最初に上流で尿酸の生成を抑えて血中濃度を下げておき、尿酸排泄促進薬を併用するのが安全性は高いかもしれませんが、尿中尿酸/クレアチニン比が0.4~0.5程度の患者さんに尿酸排泄促進薬を使用する場合は、尿酸排泄増加に伴う尿路結石の発症予防のため、水分摂取や尿のアルカリ化を図る必要があると思います。

今後の検討課題

𡈽橋先生

最後に、高尿酸血症合併高血圧患者において、今後検討すべき課題についてお伺いします。まず、高血圧患者において血清尿酸値を下げる目的ですが、痛風予防はもとより、心血管病予防とする考え方があります。これについて、荒川先生はどこまで説得力があるとお考えですか。

荒川先生

降圧治療はエビデンスによる裏付けがあり、自分の日々の高血圧診療が患者さんの予後の改善に繋がっていると自信をもてます。そのなかで高尿酸血症も積極的に治療はしていますが、それが心血管病予防を含め、本当に患者さんの役に立っているのか実感に乏しいのが本音です。いまだ、無症候性高尿酸血症の治療による予後改善について確立された結論は出ていませんが、高尿酸血症は高血圧や脂質異常、糖尿病といったリスク因子に次ぐ4番手の位置づけになるのではないかと考えています。

一方、高血圧を合併していない段階で高尿酸血症を発症している一群があるのは確かです。そこをターゲットに食事指導などを行いつつ、早めに尿酸降下薬投与を開始すれば、高血圧の発症予防になり得るのではと感じています。

𡈽橋先生

そうですね。高血圧予備群で血清尿酸値も高い患者さんについては、高尿酸血症に積極的に介入することで、将来の高血圧管理、心血管病予防においてメリットがあるかもしれません。

また最近、尿酸値を下げることと、XOR活性を抑制することのどちらが重要かの議論があります。仮にXOR阻害薬であるフェブキソスタットやトピロキソスタットで血清尿酸値が十分に下がらなくても、活性酸素種を産生するXORを阻害することが心血管保護に働く可能性はあるでしょうし、URAT1の阻害自体が重要とする考え方もあります。現状ではエビデンスに乏しい状況ですが、先生は実臨床のなかでどう思われますか。

荒川先生

私自身は先ほどお話しした通り尿酸排泄促進薬にシフトしはじめていますが、動脈硬化やCKDが進行している方はXORを阻害するほうが臓器障害のためにはよいという考え方もあり、うまくバランスをとる必要があると思います。もちろん病型分類が明確な場合はそれに準じますが、先生が指摘された尿中尿酸/クレアチニン比0.4~0.5の患者さんの薬剤選択は迷いますね。

𡈽橋先生

おっしゃる通りだと思います。このような患者さんにはまずはフェブキソスタットやトピロキソスタットの尿酸生成抑制薬で上流を抑えようとなりますが、問題は血清尿酸値8.0mg/dL以上あった方が7.0mg/dL付近まで下がったとき、随時尿中の尿酸/クレアチニン比は低いことが多いという点です。つまり、上流を抑えて尿酸値は高めだけれども尿中には出ていない状態なら、さらに入口を閉めるより出口を開くほうがよいと思います。

そこで私は最近、少量の尿酸生成抑制薬と尿酸排泄促進薬を併用していますが、比較的よい感触が得られています。欠点は服用錠数が増えることですが、そこは今後、合剤が開発される可能性に期待したいと思います。

本日は高血圧合併の高尿酸血症の診断と治療方針、生活指導など幅広い領域について、荒川先生に豊富な話題をご提供いただきました。荒川先生、どうもありがとうございました。

荒川先生

こちらこそ、ありがとうございました。

References
1) Kansui Y, et al. J Hypertens. 2018;36 : 1499-505.
2) Wang J, et al. PLoS One. 2014;9:e114259.
3) 嶺尾郁夫, 他. メタボリックシンドロームにおける高尿酸血症の意義とその管理―近年の研究からわかってきたこと. 大阪:フジメディカル出版;2010.
4) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編). 高血圧治療ガイドライン2019. 東京:ライフサイエンス出版;2019.
5) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会(編). 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版(2019年改訂). 東京:診断と治療社;2018.
6) Ito S, et al. Hypertens Res. 2012;35:867-73.