しいNEXT Generation

若手研究者紹介

防衛医科大学校分子生体制御学講座 医学研究科学生

河村 優輔 先生

2013年3月
防衛医科大学校 卒業
2013年6月〜2015年6月
防衛医科大学校病院・自衛隊中央病院
初期研修医
2015年6月〜2016年7月
航空自衛隊 下甑島分屯基地医務室
鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学
2016年8月〜2017年7月
航空自衛隊 防府北基地医務室
山口県立総合医療センター 糖尿病・内分泌内科
2017年8月〜2019年7月
防衛医科大学校病院
総合臨床部・内分泌内科 専門研修医
2019年4月〜2019年6月
虎ノ門病院 内分泌代謝科(内分泌部門)
2019年8月〜2020年9月
航空自衛隊 横田基地医務室
2019年8月〜
防衛医科大学校病院 総合臨床部・内分泌内科
2020年10月〜
防衛医科大学校 医学研究科 分子生体制御学講座
所属学会:
日本痛風・尿酸核酸学会 評議員、認定痛風医、日本内科学会認定 認定内科医、日本宇宙航空環境医学会 宇宙航空医学認定医、日本内分泌学会、日本人類遺伝学会、日本疫学会、日本癌学会、日本ヒト細胞学会、下垂体患者の会

持ち続けた医師への思いはカルチャーショックを経て誇りへと

医師になりたいという思いは、病弱だった子供の頃から持ち続けていました。体の仕組みに興味があり、小学校の休憩時間にノートに臓器の模写をするなど、ちょっと変わった子供だったかもしれません。中学高校生の頃には母が脳腫瘍の手術を受けたこともあり、「将来は脳外科医に」と思っていましたが、ドラマ『Dr.コトー診療所』で妊婦さんが自衛隊のヘリコプターで搬送される場面をみて、「自衛隊のお医者さんも面白そうだな」と思ったことが防衛医科大学校に入校したきっかけでした。

防衛医科大学校での学生舎の生活は入校当初、同じ時間に寝起きし、服装、食事も同じ、外出には規制があるなど、カルチャーショックの連続でした。広島市で平和教育を強く受けてきたこともあり、入学して最初に迷彩バッグをもらったときは「間違いだったかも」とさえ思ったものです。それでも、医学科4年時に、東日本大震災の災害派遣で先輩医官や自衛官が頑張る姿を目の当たりにしたり、コロナワクチン接種の支援や各基地の隊員さんと一緒に仕事をしたりするなかで、今では自衛隊医官になったことに誇りを感じ、国を守る素晴らしい仕事に就けて幸せだと感じています。「僕は警察官だから国民の生活を守るのが仕事だけど、優輔は国と国民の健康を守るんだな」と15年前にいわれた祖父の言葉を思い出します。

病気に苦労した一方で、研究の面白さに目覚めた大学時代

大学では、せっかく自衛隊に入ったので格闘技系を!と思いレスリング部に入部しただけでなく、分子生体制御学講座教授の松尾洋孝先生に憧れ、分子医学研究部(Molecular Medicine Research Club:MM研)にも所属していました。

学生舎では朝6時半の点呼の後、朝食までの30分間は腕立てや筋トレ、授業が終わればまた筋トレにレスリングの練習、といった生活でした。その最たるものが並木祭(年に1回の文化祭)で、徹夜をして、もつ煮を作ってビールを飲み、またもつ煮を食べて筋トレをして、という3日間はとてもよい思い出です。仲間とのつながりや一緒に頑張ることが楽しかったのだと思います。

一方、MM研では松尾先生や同じ講座の中山昌喜先生のご指導の下、定期的な抄読会や勉強会、実験に解析だけでなく、学会発表・論文作成などを行い、研究の面白さを知ることができました。実は私の研究への興味は、通っていた幼稚園の目の前にある研究所の研究者だった父の姿を目にした頃にまでさかのぼります。MM研の活動は21時から23時の自習時間にということになっていましたが、時間を忘れて没頭し、研究室から直接朝の点呼に向かったこともありました。主なテーマは「尿酸代謝」で、分子生物学、遺伝学、疫学、バイオインフォマティクスといったさまざまな観点から総合的に勉強させていただきました。Gordon Research Conferenceや国際プリン・ピリミジン学会などの国際学会での発表も経験し、英語論文執筆にも関わる機会を得ることができました。また、憧れであったハーバード大学やMassachusetts General Hospitalの見学、現地の大学生達と「負けたほうがストロングビールを1杯飲む」というアームレスリング勝負をしたこともいい思い出です。今こうして振り返ると、とても楽しい6年間だったと思います。

苦労したことは先端巨大症を発症したことです。なぜ自分がと思い悩み、成長ホルモンの影響で体型がごつくなったり顔貌が変わったりしたせいで、外見を気にして夜間しか外を歩けなかった時期もありました。卒業後の2015年に、虎の門病院の山田正三先生に手術していただいた後は、「せっかく助けていただいた命なので、しっかり勉強して臨床と基礎、両方頑張ろう」と思えるようになりました。ありがたいことに、今も術後の後遺症なく過ごさせていただいております。

基礎研究と自身の病気や経験を臨床に活かしたい

卒業後、医官としての最初の勤務地は『Dr.コトー診療所』のモデルとなった瀬戸上健二郎先生がいらした下甑島しもこしきしまでした。医療機器などが十分でないなか、身体的な特徴を含め患者さんが診察室に入ってきてから出ていくまでのすべてが情報源、診察だということを学びました。また、魚釣りやトライアスロンチームに参加するなど地域の方との交流も多く、ちょうど術後でしたので、自然豊かで星も綺麗な環境で過ごせたことはよかったと思います。

尿酸の研究では、卒業後も松尾先生のご指導の下、血清尿酸値の変動に関わる尿酸トランスポーターや痛風、高尿酸血症の主要な遺伝子、尿酸値正常群と痛風患者を比較したGWAS解析などに携わってきました。最近では分子疫学的アプローチを用いて、無症候性の高尿酸血症患者が痛風発作を起こすメカニズムやその遺伝要因の検索をしています。この成果は2019年にAnn Rheum Dis誌から報告させていただき(Kawamura Y,et al.Ann Rheum Dis.2019.Impact Factor:2022年10月現在 28.2)、Ann Rheum Dis誌の「Most Read Articles」の6番目に選出されただけでなく、Nat Rev Rheumatol誌やGout, Hyperuricemia and Crystal-Associated Disease Network(G-CAN)という学術集会の「The Year in Review:Gout Pathophysiology」でも取り上げられるなどの評価を受けました。さらに、尿酸値が低い集団のなかでのURAT1GLUT9などの尿酸トランスポーター遺伝子の機能低下型変異が関わる腎性低尿酸血症の割合などを解析し、それらに基づき、より実践的な診断法を提案する論文を2021年にBiomedicines誌に報告しました(Kawamura Y,et al.Biomedicines.2021.)。

これまで、内分泌代謝内科専攻医師として、先端巨大症や甲状腺疾患、糖尿病、脂質異常症などの多くの患者さんを診させていただきました。今後は「尿酸代謝」を中心に、内分泌代謝学との関連分野や自分の病気である先端巨大症についても、今勉強させていただいている遺伝疫学的アプローチを含めた、知識や技術を使って研究していければと思っています。