帝京大学薬学部臨床分析学研究室 講師
福内 友子 先生
広島国際大学薬学部 助手
化学が好きで薬学部に
出身は愛媛県の西端にある八幡浜市という、みかんの段々畑が続く、海沿いののどかな街です。高校へは自宅から一山越えて、自転車を1時間近く漕ぎながら通学をしていました。部活をする余裕はなく、授業が終わるとすぐにまた自転車でしたので、高校時代はまるで「自転車部」に所属しているようでした(笑)。
「授業中、ぼーっと窓の外をみていた子」といわれたこともあり、勉強ものんびりしていたかもしれませんが、理科の科目、化学や生物の授業には熱中しました。実験で手を動かし、ノートにまとめる作業が大好きで、自分には薬学部が向いているかなと漠然と思い広島大学医学部総合薬学科に進学しました。
都会の大学を夢見て実家を出ましたが、1年生が通う東広島キャンパスは「実家より田舎」(笑)で、田んぼだらけの環境でした。遊ぶ場所もなく、毎日友達の家に入り浸るようになりましたが、それがとても楽しかったです。学部を超えた友人もたくさんでき、今振り返ってもよい思い出です。
働きながら博士号を取得
学部生時代は有機化学の研究室に所属していましたが、木村栄一教授の退官に伴い、修士課程で生体機能分子動態学研究室(当時・太田茂教授主宰)に移り、プリオン病の治療薬開発をテーマに研究を進めることになりました。
当時、プリオン病は未知のもので、原因すらわかっていない状況でしたが、スクリーニングされた治療薬候補化合物について誘導体化を合成し、効果を評価するなか、少しずつ研究が進む手ごたえを感じられて、やり甲斐がありました。
そんななか、新設の広島国際大学薬学部での研究室の立ち上げに声をかけていただき、薬学部教員として働き始めることになりました。そこで主に教育に携わりながら、仕事を終えると車で40分の広島大学に移動して実験を続け、「SOD(superoxide dismutase)様活性を有するプリオン病治療薬の開発」で博士課程を修了しました。
食品分析の難しさから面白さに気づく
その後、武蔵野大学薬学部を経て、2011年からは太田教授のご紹介もあって帝京大学薬学部臨床分析学教室(当時・金子希代子教授主宰)に移ることになりました。
研究室で最初にいただいたテーマが、ビール中のプリン体含有量の測定でした。そこで直面したのが、泡立つ試料を正確に測り取る難しさです。
振ってから泡を濾紙で取り除く、超音波を掛けて泡を出し切るなど、いろいろ試してもうまくいかず、最後にふと、泡を溶かし込めばよいのではないかと思いついたのがヒットしました。水酸化カリウムをあらかじめ混ぜて塩基性にすることで炭酸ガスを溶かす方法で、これを使えば泡立つ試料でも簡単に取り扱うことができるようになります。
金子先生の教室の研究成果として、食品中プリン体含量の一覧がごく当たり前のように活用されています。しかし、先生自身、「これは卒業生の誰々さんのこういう苦労があって…」と覚えておられるほど、1つ1つの食品にストーリーがあります。私自身もそうした苦労を経験して、食品分析の奥深さ、面白さにめざめた次第です。
プリン体分析研究のさらなる発展をめざして
これまで経歴が転々とするなか、プライベートと仕事との両立に悩んだ時期もありました。金子先生に出会えてようやく、やりたい研究とライフステージの歯車が噛み合い出した気がします。
現在、未就学児の子ども2人を抱えながら、その日にできることを考え、その日のうちに終えるのが精一杯の日々です。今はそういう時期なんだと割り切り、子育てが落ち着けば、さらに研究に力を入れていきたいと考えています。
食品のプリン体測定に関しては、高尿酸血症・痛風患者さんの食事療法での活用はもちろん、世の中の健康志向の流れも受けて、食品関連企業からの測定依頼も多く、社会的に大きな価値とニーズがあります。ぜひ、次世代にも引き継いでいけるよう、私が橋渡し役となって頑張っていきたいです。また、プリン体は生物が存在するために必要なエネルギー源であり、老化やがん、糖尿病などさまざまな疾患にプリン代謝の変化が関与しているともいわれています。今後、これらを分析化学の見地からエビデンスを蓄積することで明らかにしながら、疾患横断的にプリン体研究を発展させていきたいと思います。